2019年08月26日

イヤボーンの結末(「デストロイアンドレボリューション」書評)

超能力ピカレスクロマンとジャンルわけしていいのだろうか。

デスノートのような知的ゲームよりは、
80年代に流行した「ある日突然超能力に目覚めたモノ」の、
「結局最後まで描かれなかった結末を、
きちんとやるとどうなるか」を見せられた気がした。
「AKIRA」のちゃんとしたエンディングというべきか。

気になっていた話なので、終わっていたのを知らず、
漫画喫茶で一気読み。


イヤボーンという揶揄の仕方がある。
80年代の超能力ものでよくあるやつで、
大抵美少女に超能力が目覚め、
追っ手が来て、
「イヤー!」と手をかざしたら超能力が発動して、
追っ手の脳が「ボーン」と弾けて飛ぶやつ。
「私の能力は一体…?」なんてやつだ。

70年代の漫画は、スポ根にも代表される通り、
物理の力で勝つものが多かった。
たとえトンデモ理論だとしても、
物理法則に逆らうものはなかった。
(科学認識が全体的に甘かったのもある)
80年代に至って、
それらを「超能力」が全部飛び越えることで、
科学や物理の枠組みを超えることになった。

そこに当時はワクワクしたものだ。

だが結局、
超能力をどう定義していいかわからなくなって、
話はグダグダになり、
最初の「イヤボーン」だけが記憶に残り、
あそこがピークだったなあ、
なんてことになってしまう。

童夢の壁にめり込んでいる例の絵だったり、
AKIRAの28号の脱走シーンだったり、
AKIRAの出現シーンだったり、
鉄雄が巨大赤ん坊になったり。(全部大友克洋か)
つまりこれは出落ちだ。
「すげえ!一体これからどうなるんだろう?」
がピークであって、
結局「どうにもならなかった」という僕らの失望は、
繰り返し行われて来た。

これらの累々たる死体の上
(たとえば「ナイトヘッド」も、結局何にもならなかった」
に、90年代以降は、
「能力バトル」に移行したと思う。

物理の枠組みを超えられ、
かつ訳の分からないものでない、
定義できて制御できる「能力」になったと。

主人公が以上な能力が使えるのは、
物語のよくあるパターンだが、
能力バトルは、もっともらしく言い訳できてかつ制御できる、
という一種の到達点に至ったといえる。
(そしてそれ以降あまり進化していない)


で、「デストロイアンドレボリューション」だ。

イヤボーンの冒頭、
セメント工場の破壊に、僕の心臓は高鳴った。
久しぶりに、超能力モノの結末を見届ける時が来たのかと。
どういう結末に至るのかと。

中盤がとても面白い。
警察サイドで早めに気づいている若手警官と、
暴走する大槻が、とても機能していた。

ただのセカイ系じゃないぞ。
制御できない他人が、主人公と絡むのはとても面白い。
大槻が悪役になっていくのがとても面白かった。
厚木基地爆撃のミッドポインのシークエンスは、
かなり行けてたと思う。

後半、宇宙ステーション乗っ取り後の、ユウキの神っぷりが面白かった。

そして最後は核か。

イヤボーンの最終形は、
そうやって爆発ボーンになるしかないのかもしれないね。


非常に面白いプロットラインだった。
小島さんがちょっとご都合に過ぎたけど、
マコトを現実に引き止める役割を果たしていて面白い。

このように、
警察サイド、首脳陣、アメリカ、
そしてアメリカの超能力者などの、
複数の人物の思惑が絡み合うのが、
セカイ系に欠けているものだなあ、
などと思いながら楽しめた。


だが、ラストのラスト。
うむ。イデオンかな。

最初にイニシエーションしたじいさんが、
もう少し何かをしたほうが良かったかも。

全体に構成がうまくいっている、
構成の見本のような全体像だった。

あとはキャラの魅力がもう少しあれば、
傑作だったのになあ。
ワンネスとか、問う者とか、答える者とか、
ネーミングが秀逸で厨二的で、
森恒二は面白い作家だなあ、などと思う。

突き抜け過ぎないラストを見たかったが、
「AKIRA」の微妙エンドよりましだったので、
ここで僕の80年代超能力モノの歴史は終わったかも知れない。
(あと超人ロックを追いかけるべきか?)


嘘すぎる嘘をどうやって収拾をつけるのかは、
とても難しい。
しかしこの作品はしっかりとプロットを立てて作ったと思われる。
ラストがもうちょっと寄生獣的な納得の生き方だったら、
良かったなあ。
最初の問題(貧困やいじめや鬱)に、
ラストが答えきれていないからだと思われる。
ここが、脱中二だったらどうだったろうか、
などと大人として考えてしまう。


構成自体は非常に骨太だったので、
ハリウッドやネトフリが買ったらどうなるだろう、
などと妄想してしまった。
そうするオチはどうするだろうな。
ユウキ行方不明で、マコトは帰還するエンドだろうか。
posted by おおおかとしひこ at 19:41| Comment(0) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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