完全なる闇よりも、
闇の中にぽっと灯りがついたほうが、
そこが闇であることがわかる。
完全な白よりも、
小さな汚れや瑕疵があるほうが、
白の貴重さがわかってくる。
コントラストを強め、
意味をはっきりさせていくには、
Aばかり描くのではなく、真反対のBを入れる。
大福に塩を入れる原理だ。
悲劇の展開なら、幸福や希望を少し入れる。
(「俺これが終わって故郷に帰ったら結婚するんだ」
は定番の死亡フラグで、ギャグになっているが、
もともとは悲劇のための幸福だ)
幸福を描きたければ、悲劇や理不尽を入れる。
笑いを描きたければ、常識を入れる。
(ツッコミの役割は、大福にとっての塩だ)
非常識の爽快さを描きたければ、
常識のめんどくささを入れればいい。
常識のまっとうさを描きたければ、
非常識の迷惑を描けばいい。
正しさには悪を。
渋さには、明るさや暗さを。
人の認識は、
絶対音感ではなく、相対音感だ。
「その空間の中での、両極端なふたつを、
端から端と認識する。
そしてその距離を空間の最大距離として、
残りは捨てる」
ように出来ている。
昔聞いた漫才のネタに、
「俺音楽はたくさん聞くよ」
「どういうの?」
「ユーミンからサザンまで」
「せっま!」
というのがあるけど、
それは対比を上手に使っているわけだ。
たくさん音楽を聞くことと、狭すぎる範囲と。
その狭い範囲を、ユーミンからサザンまでと表現することと。
端Aと端Bの距離が、
その概念の相対空間だ。
あなたの描写力がAだけを描いて足りなければ、
反対のBをひとつまみ入れるだけで、
Aをふくよかにできるだろう。
低音部を足す、和音の考え方に似ているかもしれない。
リライトをするとき、
「思ったほど書けていない」
と思える場面に遭遇することは、
とてもよくあることだ。
自分の筆力のなさを嘆き、
泣きながらさらに駄文を重ねることになるだろうが、
反対のBを少し入れることで、
そこにキリッとした何かが生まれるテクニックは覚えておこう。
Aだけを何度書き直しても得られる効果ではない。
それには、
「Aは○○である」を一旦言葉にしてみることだ。
暗い、明るい、しあわせ、笑い、おいしい、
疑惑、ドキドキ、謎、悪意、
などなど、書こうとしている抽象的な何かをピックアップする。
で、その言葉の反対語を考える。
「暗い」の反対語が「明るい」かどうかは文脈次第。
寂しい←→ほっとする、を描くべきかもしれないし、
落ち込む←→グッドニュースかもしれないし、
絶望←→希望かもしれない。
どういう文脈なのかを言葉にできれば、
塩に何を配合するべきかを考えられると思う。
正しいBを得られれば、
Aの意味は強化され、
どういうことなのかの意味空間がハッキリする。
これが出来ない人は、
いつまでたっても猪突猛進ばかりの、
余裕のない表現ばかりだろう。
(ここ、Bです)
2019年09月17日
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