2019年09月17日

対比をうまく使え

完全なる闇よりも、
闇の中にぽっと灯りがついたほうが、
そこが闇であることがわかる。

完全な白よりも、
小さな汚れや瑕疵があるほうが、
白の貴重さがわかってくる。

コントラストを強め、
意味をはっきりさせていくには、
Aばかり描くのではなく、真反対のBを入れる。


大福に塩を入れる原理だ。


悲劇の展開なら、幸福や希望を少し入れる。
(「俺これが終わって故郷に帰ったら結婚するんだ」
は定番の死亡フラグで、ギャグになっているが、
もともとは悲劇のための幸福だ)

幸福を描きたければ、悲劇や理不尽を入れる。

笑いを描きたければ、常識を入れる。
(ツッコミの役割は、大福にとっての塩だ)

非常識の爽快さを描きたければ、
常識のめんどくささを入れればいい。

常識のまっとうさを描きたければ、
非常識の迷惑を描けばいい。

正しさには悪を。

渋さには、明るさや暗さを。


人の認識は、
絶対音感ではなく、相対音感だ。

「その空間の中での、両極端なふたつを、
端から端と認識する。
そしてその距離を空間の最大距離として、
残りは捨てる」
ように出来ている。

昔聞いた漫才のネタに、
「俺音楽はたくさん聞くよ」
「どういうの?」
「ユーミンからサザンまで」
「せっま!」
というのがあるけど、
それは対比を上手に使っているわけだ。

たくさん音楽を聞くことと、狭すぎる範囲と。
その狭い範囲を、ユーミンからサザンまでと表現することと。

端Aと端Bの距離が、
その概念の相対空間だ。

あなたの描写力がAだけを描いて足りなければ、
反対のBをひとつまみ入れるだけで、
Aをふくよかにできるだろう。

低音部を足す、和音の考え方に似ているかもしれない。


リライトをするとき、
「思ったほど書けていない」
と思える場面に遭遇することは、
とてもよくあることだ。
自分の筆力のなさを嘆き、
泣きながらさらに駄文を重ねることになるだろうが、
反対のBを少し入れることで、
そこにキリッとした何かが生まれるテクニックは覚えておこう。
Aだけを何度書き直しても得られる効果ではない。

それには、
「Aは○○である」を一旦言葉にしてみることだ。
暗い、明るい、しあわせ、笑い、おいしい、
疑惑、ドキドキ、謎、悪意、
などなど、書こうとしている抽象的な何かをピックアップする。

で、その言葉の反対語を考える。
「暗い」の反対語が「明るい」かどうかは文脈次第。
寂しい←→ほっとする、を描くべきかもしれないし、
落ち込む←→グッドニュースかもしれないし、
絶望←→希望かもしれない。
どういう文脈なのかを言葉にできれば、
塩に何を配合するべきかを考えられると思う。

正しいBを得られれば、
Aの意味は強化され、
どういうことなのかの意味空間がハッキリする。


これが出来ない人は、
いつまでたっても猪突猛進ばかりの、
余裕のない表現ばかりだろう。
(ここ、Bです)
posted by おおおかとしひこ at 09:50| Comment(0) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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