2019年09月20日

目的の一覧と感情移入

キャラ設定を捨てよう。
ただ名前と目的の一覧を作れ。
これがストーリーの作り方だ。(極論)

ところで、この目的の一覧表は、
「素直に納得のいくもの」と「そうでないもの」があるだろう。


「父の復讐」
「正義の執行」
「世界征服」
「あの子に告白したい」
「会社辞めたい」

などが並ぶとしよう。

これらに強さの差がある。
「会社辞めたい」「告白したい」は比較的日常のこと。
「正義の執行」は重い、特別なこと。
(しかし警官や裁判官にとっては日常かもだ)

つまり、
「多くの人が説明しなくてもわかることと、
身近にないがゆえにわかりにくいこと」
がある。

よくある、わかりやすいものは共感が速く、
よくしらないものは共感しづらい。

あくまで「共感」のレベルだ。
僕らは女子高生の日常で説明なしに共感できることは少ないし、
オッサンのツラミなど彼女たちは知らない。

ここに、「事情の説明」が入ると、
共感ではなく、感情移入になる。

「正義の執行」に共感がなくとも、
「昔不公平な目に遭って、
公平な世の中にしたい」というバックストーリーがあれば、
「正義の執行」に感情移入しやすくなる。

たとえ彼の正義が世の中と正義と異なっていてもだ。
たとえば「Xメン」では、
マグニートーの動機が語られる。
ガス室に送られた過去を描くことで、
「ただその民族というだけで差別され、
殺される悲劇があり、
その差別に対して戦いたい」
という彼なりの正義の理由が明かされる。
手段は間違っている(人間の虐殺)だが、
彼の理想は少数民族の独立である。
このために、
彼なりの「正義の執行」が彼の目的だ。

こんな風にして、
たとえ我々の日常とは関係ない、遠いことだとしても、
事情がわかると、
とたんに彼の気持ちや行動がわかるようになり、
肩入れをはじめるようになる。
これが感情移入である。
感情移入とは、事情を理解した上での共感、
と定義することも出来るかもしれない。


感情移入のない場合の目的のリストは、
とても味気ない、無味乾燥のものに思える。

しかし事情を理解することで、
それは自分の夢や目標にも劣らぬ、
その人の叫びや苦しみやきらめきのように思えてくる。

これがストーリーの魔法だ。


あなたの登場人物一覧の、
目的のリストに、
そのような事情を創作して足してみると良い。

自動人形のようだったリストが、
急に人間たちの人生を俯瞰で見ている気分になるだろう。

そして、
この中で一人だけしか、その願望を叶えられないとしたら?

その一人こそが主人公だ。


物語とは、
異なる目的を持つ沢山の人達が、
自分の願望や目的を叶える行動を描く。
しかし大概それは相入れることがない。
つまり、
誰かが目的を果たすことは、
誰かが夢破れることを意味する。

全員が無事夢を果たす物語は面白いかな?
たぶん夢物語のように嘘くさいのではないか。
そんなことがないことぐらい、
少し人生を生きればわかることだろう。
大抵の目標は、叶わない。

トーナメントは面白いが、
実は優勝者以外は全員敗北で終わる、
ということになかなか気づけないよね。
(高校数学の確率計算でこの見方を知った時はショックだった)

で。

俯瞰しているあなたは、
この中で一人だけ勝利させる。

ということは、
その人に最も感情移入できるような、
事情とその目的がなければならない、
ということだ。


目的と事情の一覧を再び見て、
どれが最も強く感情移入できるかを探せ。

このとき、あなた個人の見方で見ずに、
偏らない、全員の見方で見れるようになること。

僕なんかはうっかり「自作キーボードをしている」
というスペックに肩入れしそうになるけれど、
世間がそんなはずはない、なんてことぐらいは、
分離できるようにするべきだ。

野球やサッカー経験者は、
ついつい野球キャラサッカーキャラを贔屓する傾向にある。
それは贔屓だということに気づくべきだ。

「全く知らない人がフラットに見て、
最も肩入れしやすい事情と目的」
を見れるかどうかということ。

自作キーボードの例で言えば、
「うまく言葉を喋れないが、
自分の言葉を世に発信したくて、
その為のギアをつくっている」
という誰でもわかる事情が入ると、
感情移入がしやすくなってゆく。
さらに「吃音症」「赤面症」「対人恐怖症」
などのファクターを入れてもいい。
詳しくなければ、
「うまく気持ちを言えなくて、
誤解されたり振られた過去」
なんかを創作しても良い。

こうして、感情移入しやすいように、
事情をつくって目的を鮮明にしてゆくのである。


再び一覧表に戻る。

それらの納得度合い、肩入れ具合、
つまり感情移入の度合いを数字にしよう。
三段階評価、五段階評価でよい。100点満点でどれくらい、でも良い。

主人公が一番になるように、
敵対者(的またはライバル)が二番になるように、
脇の重要人物がそれ以下になるように、
そのさらに脇のちょい役がそれ以下になるように、
事情を調整しなさい。


誤った作者の肩入れが物語を壊すことは、
古今東西に例がある。
「刃牙」のオーガがそうなってしまったことは、
記憶に新しい。
本来父越えを果たすべき物語として組まれた枠組みが、
オーガに作者が肩入れするあまり、
オーガの負けを描くことが出来なくなり、
迷走が始まっていることはよくわかるだろう。
(それによって物語が終われず、
うまく引き伸ばして延命しているとも言えるが)

ルークよりもダースベイダーがキャラが立ってしまったため、
ダースベイダー主役でエピソード123が作られてしまった。
じゃあ789は子供達が主役かと思えば、
ルークが8でかっさらっていってしまった。

シリーズ物で新キャラより旧キャラが活躍するのは意味がない。
前のシリーズは終わった。
新シリーズの主人公に最も肩入れするべきだ。

そうするには、
目的と事情の一覧を見て、
調整するべきなのである。


執筆をしているうちに、
当初の計画よりも、
あるキャラが立ち始め、
別のキャラが弱くなっていくことは、
とても良くあることだ。

しかし計画通りに合わせていくことが、
もっともストーリーをうまく行かせるコツだ。

あるキャラが立ってきて困ったら、
そのキャラを弱体化させるのではなく、
それ以上になる計画のキャラを、
「さらに立てる」のが正解である。

その相克こそ、人生のシミュレーションである、
物語というものである。



もちろん、
事情や目的を考える上で、
身長とかファッションとかスペックなどが、
必要になることもある。
その時はじめて設定すれば良い。

あなたの想像を膨らませるために設定を先に書くのではなく、
ストーリーに必要なものをあとからピックアップするのが、
ストーリー的に正しい設定の仕方だ。

それらが全部完成した時に、
あらためてキャラ設定を書き出せばいいだけのことだ。



感情移入は、事情と目的を理解し、
それに共感することだ。

こう考えると、
どういう登場人物一覧を作ればいいか、
逆算できるだろう。
posted by おおおかとしひこ at 09:19| Comment(0) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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