キャラ設定を捨てよう。
ただ名前と目的の一覧を作れ。
これがストーリーの作り方だ。(極論)
ところで、この目的の一覧表は、
「素直に納得のいくもの」と「そうでないもの」があるだろう。
「父の復讐」
「正義の執行」
「世界征服」
「あの子に告白したい」
「会社辞めたい」
などが並ぶとしよう。
これらに強さの差がある。
「会社辞めたい」「告白したい」は比較的日常のこと。
「正義の執行」は重い、特別なこと。
(しかし警官や裁判官にとっては日常かもだ)
つまり、
「多くの人が説明しなくてもわかることと、
身近にないがゆえにわかりにくいこと」
がある。
よくある、わかりやすいものは共感が速く、
よくしらないものは共感しづらい。
あくまで「共感」のレベルだ。
僕らは女子高生の日常で説明なしに共感できることは少ないし、
オッサンのツラミなど彼女たちは知らない。
ここに、「事情の説明」が入ると、
共感ではなく、感情移入になる。
「正義の執行」に共感がなくとも、
「昔不公平な目に遭って、
公平な世の中にしたい」というバックストーリーがあれば、
「正義の執行」に感情移入しやすくなる。
たとえ彼の正義が世の中と正義と異なっていてもだ。
たとえば「Xメン」では、
マグニートーの動機が語られる。
ガス室に送られた過去を描くことで、
「ただその民族というだけで差別され、
殺される悲劇があり、
その差別に対して戦いたい」
という彼なりの正義の理由が明かされる。
手段は間違っている(人間の虐殺)だが、
彼の理想は少数民族の独立である。
このために、
彼なりの「正義の執行」が彼の目的だ。
こんな風にして、
たとえ我々の日常とは関係ない、遠いことだとしても、
事情がわかると、
とたんに彼の気持ちや行動がわかるようになり、
肩入れをはじめるようになる。
これが感情移入である。
感情移入とは、事情を理解した上での共感、
と定義することも出来るかもしれない。
感情移入のない場合の目的のリストは、
とても味気ない、無味乾燥のものに思える。
しかし事情を理解することで、
それは自分の夢や目標にも劣らぬ、
その人の叫びや苦しみやきらめきのように思えてくる。
これがストーリーの魔法だ。
あなたの登場人物一覧の、
目的のリストに、
そのような事情を創作して足してみると良い。
自動人形のようだったリストが、
急に人間たちの人生を俯瞰で見ている気分になるだろう。
そして、
この中で一人だけしか、その願望を叶えられないとしたら?
その一人こそが主人公だ。
物語とは、
異なる目的を持つ沢山の人達が、
自分の願望や目的を叶える行動を描く。
しかし大概それは相入れることがない。
つまり、
誰かが目的を果たすことは、
誰かが夢破れることを意味する。
全員が無事夢を果たす物語は面白いかな?
たぶん夢物語のように嘘くさいのではないか。
そんなことがないことぐらい、
少し人生を生きればわかることだろう。
大抵の目標は、叶わない。
トーナメントは面白いが、
実は優勝者以外は全員敗北で終わる、
ということになかなか気づけないよね。
(高校数学の確率計算でこの見方を知った時はショックだった)
で。
俯瞰しているあなたは、
この中で一人だけ勝利させる。
ということは、
その人に最も感情移入できるような、
事情とその目的がなければならない、
ということだ。
目的と事情の一覧を再び見て、
どれが最も強く感情移入できるかを探せ。
このとき、あなた個人の見方で見ずに、
偏らない、全員の見方で見れるようになること。
僕なんかはうっかり「自作キーボードをしている」
というスペックに肩入れしそうになるけれど、
世間がそんなはずはない、なんてことぐらいは、
分離できるようにするべきだ。
野球やサッカー経験者は、
ついつい野球キャラサッカーキャラを贔屓する傾向にある。
それは贔屓だということに気づくべきだ。
「全く知らない人がフラットに見て、
最も肩入れしやすい事情と目的」
を見れるかどうかということ。
自作キーボードの例で言えば、
「うまく言葉を喋れないが、
自分の言葉を世に発信したくて、
その為のギアをつくっている」
という誰でもわかる事情が入ると、
感情移入がしやすくなってゆく。
さらに「吃音症」「赤面症」「対人恐怖症」
などのファクターを入れてもいい。
詳しくなければ、
「うまく気持ちを言えなくて、
誤解されたり振られた過去」
なんかを創作しても良い。
こうして、感情移入しやすいように、
事情をつくって目的を鮮明にしてゆくのである。
再び一覧表に戻る。
それらの納得度合い、肩入れ具合、
つまり感情移入の度合いを数字にしよう。
三段階評価、五段階評価でよい。100点満点でどれくらい、でも良い。
主人公が一番になるように、
敵対者(的またはライバル)が二番になるように、
脇の重要人物がそれ以下になるように、
そのさらに脇のちょい役がそれ以下になるように、
事情を調整しなさい。
誤った作者の肩入れが物語を壊すことは、
古今東西に例がある。
「刃牙」のオーガがそうなってしまったことは、
記憶に新しい。
本来父越えを果たすべき物語として組まれた枠組みが、
オーガに作者が肩入れするあまり、
オーガの負けを描くことが出来なくなり、
迷走が始まっていることはよくわかるだろう。
(それによって物語が終われず、
うまく引き伸ばして延命しているとも言えるが)
ルークよりもダースベイダーがキャラが立ってしまったため、
ダースベイダー主役でエピソード123が作られてしまった。
じゃあ789は子供達が主役かと思えば、
ルークが8でかっさらっていってしまった。
シリーズ物で新キャラより旧キャラが活躍するのは意味がない。
前のシリーズは終わった。
新シリーズの主人公に最も肩入れするべきだ。
そうするには、
目的と事情の一覧を見て、
調整するべきなのである。
執筆をしているうちに、
当初の計画よりも、
あるキャラが立ち始め、
別のキャラが弱くなっていくことは、
とても良くあることだ。
しかし計画通りに合わせていくことが、
もっともストーリーをうまく行かせるコツだ。
あるキャラが立ってきて困ったら、
そのキャラを弱体化させるのではなく、
それ以上になる計画のキャラを、
「さらに立てる」のが正解である。
その相克こそ、人生のシミュレーションである、
物語というものである。
もちろん、
事情や目的を考える上で、
身長とかファッションとかスペックなどが、
必要になることもある。
その時はじめて設定すれば良い。
あなたの想像を膨らませるために設定を先に書くのではなく、
ストーリーに必要なものをあとからピックアップするのが、
ストーリー的に正しい設定の仕方だ。
それらが全部完成した時に、
あらためてキャラ設定を書き出せばいいだけのことだ。
感情移入は、事情と目的を理解し、
それに共感することだ。
こう考えると、
どういう登場人物一覧を作ればいいか、
逆算できるだろう。
2019年09月20日
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