2019年09月25日

演技は、いつでも新鮮にその気持ちになれること

私たちが書く台本は、演技の為にある。
もちろんストーリーの記述でもあるが、
それが演技やカメラによってどう表現されるかは、
知っておいて損はない。

演技は、
「嘘を真実のように演じること」と考えると、
演技を見誤ることがある。


たとえば「笑う」という演技を考えよう。

演技は嘘であると思う人は、
「楽しくもないのに笑う仕草が出来る」
ことが演技の上手い人だと思うだろう。

営業スマイルとか、人前で微笑むとか、
そうしたことを強要される人は特にそう思うかもだ。

たとえば香取慎吾の笑顔はそれに近い。
彼は「口角の上がった口を作り出す」
ことには長けているが、笑う演技が上手とは思えない。
鶴瓶の笑顔が、
「顔は笑っているが、目は笑っていない」なども良く言われる。
綾野剛も同じ匂いがする。

これらは、
「外見的な何かで、気持ちを表現する、
操り人形的な何か」を演技だと考えるとこうなると思う。


僕の考える演技メソッドは逆で、
「その時そういう気持ちになるように、
気持ちの方をコントロールすること」をメインにしている。

あなたは笑う時、
瞬きを何回する?
演技を外見のコントロールだと思う派閥は、
「2回までが笑いで、3回以上は嘘の笑い」
などのように分析するかもしれない。
しかしこんなことは、「気持ちを作る」ことにおいてはどうでもいい。
「本当に楽しければ、瞬きの回数など気にしない」
というのが僕の考えだ。

だから、毎回微妙に演技のニュアンスが異なる可能性はある。
しかしどのテイクも、
「本気で笑っている」ことに変わりはない。


僕は、執筆も同じだと考えている。

笑う芝居を書くときに、
「こうやってこうやると笑えるから」と理屈で書くことは、
僕は間違いだと思っている。
「本気で笑いながら書く」から、
笑える原稿になると考える。

コントロールされた結果の感情を原稿に書くのではなく、
本気でそう思ったからそう書くのが、
正しい原稿の書き方だと思っている。


一種の狐憑き、依り代、言霊である。

演技はつまり、
よーいスタート切欠で、
「その時の気持ちになること」だと思っている。
カットでフラットに戻る行為であると。

つまり役者はプロの霊媒師のようなものであると。

で、さらに役者に必要なものは、
「毎テイク新鮮なその気持ちになること」だと思う。
大体何回か同じ演技をすると、
新鮮な気持ちで演じられなくなってしまう。

笑いは乾き、驚きは初めてそれを知ったようでなくなっていく。
(だから新人は1テイク目が良い。
あるいは、驚かせる為に本番いきなりさせて反応をみる、
ということすらやったりする。
「ローマの休日」での真実の口は、
「手がなくなる」芝居は伏せたまま行われ、
本当に驚いた顔を使っているし、
ダースベイダーのセリフ「I'm your father」は、
本番まで隠され、初めて本番で使われた)

プロの役者というのは、
何回やらせても、「初めてその気持ちになった」
かのように、感情をコントロールできる人だと、
僕は考えている。

当時のオードリーヘップバーンに3回ぐらい驚かせたら、
たいして驚かないようになってしまうだろうが、
蒼井優なら毎回まじでびっくりしてくれるだろう。


さらにプロフェッショナルならば、
その自分の動きやディテールも離人症的に観察していて、
「あ、この部分を修正しますね」
なんてことを自分で言ってきたりする。


で、執筆者もそうあるべき、
というのが本題だ。


リライトで飽きてくるなんてのはありえない。
同じ原稿を白紙から何回も新鮮に書けるべきだ。
たとえば台風で原稿を無くしたとしても、
全く同等なディテールではないが、
全く同等な感情を催す何かを書き直せるべきである。

よく編集作業で、
「何回も見てるから新鮮に見れなくなった」
なんていうやつがいる。

僕はその人をプロだと思わない。
素人の判断だとして、彼の意見は無視する。


毎回、新鮮にその気持ちになれるのか?
そのように自分をコントロールできるか?

復讐に燃える暗い心に。
正義をなす使命感に。
どうしてもあいつを殺したいというねじれた心に。
これをしないと死ぬというギリギリの恐怖に。
本当に幸せなひとときに。
これ以上ない悲しみの底に。

いつでもどこででも、それに100%なれるか。

なれるからプロなんだと僕は考えている。


(勿論、技術で流すことは出来るけど、
それは別の意味のプロ論だよねえ)


だから演技や執筆は、物凄く疲れるのさ。
その集大成である映画は、
だからぎゅっと濃くて面白いんだ。
posted by おおおかとしひこ at 10:56| Comment(0) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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