2019年09月27日

「ストーリーを思いついた」とはどういう状態のことか

キャラを思いつくことや、
設定を思いつくことや、
シチュエーションを思いつくことに対して、
ストーリーを思いつくことは、
初心者にとって格別に難しいと思う。
(慣れれば簡単だけど)

それぞれを比較してみよう。


キャラを思いつく:

そのキャラを示すもっとも強い特徴を、
「ひとつ」思いつくともうできたことになる。

その強力なひとつに対して、
名前をつけたり、設定を付加していくと、
大体出来上がる。
つまり、芯はひとつだ。
(芯をふたつ作っては逆に行けない。
「彼は暗殺者でかつ将棋日本一」というキャラは、
記憶に残りにくく、たったキャラとは言えない)


設定を思いつく:

面白そうな設定とは、「ひとつ」の何かを思いつくだけで良い。
ただ大抵同じ側面の陰陽があったりする。

「増えすぎた人口を宇宙に移住させたスペースコロニーがある」
という設定に対して、
「それはそのまま地球に落とす戦争の道具として使われた」
という負の側面や設定もあるということだ。

陰陽をふたつと数えるかひとつと数えるかはあるけれど、
ここは話を見やすくするために、
「ひとつ」と数えておく。


シチュエーションを思いつく:

「こういうキャラやこういう設定の、
こういう場面」がシチュエーションの定義だろうか。
キャラや設定があれば、
シチュエーションは「ひとつ」を思いつくだけでよい。

また、
「閉じ込められたが、セックスすれば出れる部屋」
のシチュエーションのように、
「AだがB」というシチュエーションも存在する。
しかしこれも設定と同じく、
表裏一体のことだから、
ふたつの全然違うABではなく、ペアでABになるので、
これも「ひとつ」を思いつけばOKと数えることにする。


で、本題。

この数え方を見ていればわかるが、
これらは「ひとつ」を思いつけば、
「あとは自動的に補完する」レベルで良いのだ。

逆にふたつを入れたらややこしくなる。
「閉じ込められたが、セックスすれば出れる部屋で、
かつ外に出ると恐竜時代にワープしている」
などはややこしいのだ。

なぜなら人間の認識は「ひとつ」に注目するからである。
ひとつ目立つ主がいて、その他は従であると、
見やすいのである。

「情報量の多い写真」というネタをネットでたまに見るけど、
これは「ひとつ」という常識に対して、
「複数あると変に見える」現象の抽出だから面白い。
「礼服の外人がなぜかミシンを持ってカメラ目線で笑ってて、
その後ろの川にバンが落ちている」
なんて写真を見たことがあるかもしれないが、
「おかしなことが複数あるから変」なのだ。
これが情報量の多い意味である。

普通整理されて、ミシンか川か選ばれる。


いつもの議論だと、
「ひとつ」は点の話だろうと予測して、
ストーリーを思いつくこととは、
線を思いつくことであり、複数を思いつくことだ、
などと予測されるだろう。

大体合っている。
だが大事なことは、複数の「関連」だ。
僕は最低でも「3つ」を思いつかないと、
ストーリーを思いついたことにならないと考えている。

冒頭、落ち、展開だ。

ほぼこの順で思いつくべきだと思うので、こう書いてみた。


冒頭と落ちは、
前振りと結論の関係になっている。

冒頭で示された問題が、
落ちで解決することで、
「これはどういう意味があるのか」までが出来上がる。

この二つがペアで背骨になる。
ここができていないとストーリーとして出来ていない。

始まった物語は、終わることで意味をなす。
意味をなさない話はストーリーとして不完全である。

たとえば「北斗の拳」は、
ラオウまでで終わっていれば、
「世紀末の暴力は、絆によって平和がもたらされる。
荒廃を救うのは愛である」
などのようにして完結できた。
しかし編集部の引き伸ばしによって、
訳の分からない方向へ誘導されて、完結らしい完結ではなかった。

勿論、打ち切りエンドなど論外だし、
挫折して途中放棄は論外である。

つまり、
ストーリーははじめと終わりで記述される。
その背骨こそがそのストーリーの存在意義である。


じゃあこの二つを思いつき、
テーマに落ちる前振りとその結論ができて、
歴史に残る新しいストーリーが出来たか、
となるとそうではない。
それは浅いCMのように、
「風呂のカビ取り困った!」
「そんな時クレンジングジェル!」
なんて、問題即解決のようなつまらないストーリーになる。

さらに展開部が必要だ。


ストーリーとは冒険であり旅だ。

旅の本編は、
「旅に出る目的」「旅を終えての結論」だろうか。
いや、そうではなく、
「旅での出来事」だろう。
それが展開部である。

アメリカ旅行の内容がないと、
温泉旅行の内容がないと、
「日常の○○から逃れたくて旅に出る」
「帰ってきたら元の日常が新鮮に見えた。
よしがんばろう」
だけ言われても、
「そう思うだけの根拠」がないことになるわけだ。

つまり展開とはその旅のメインコンテンツであるわけだ。


ストーリーを書くのが下手な人は、
冒頭、結論、展開と、その関係性のどれかが欠けている。

冒頭が弱い(ツカミが弱く、結論への前振りになっていない)
結論が弱い(落ちになっていない、前振りに答えていない、
ありきたりな結論)
展開が弱い(旅のメインコンテンツが面白くない、
日常を離れた面白さが弱い、裏切りや起伏が少なく、
ジェットコースターとして面白くない、
目新しさが弱い)

冒頭と展開の関係が弱い(ツカミからの飛躍がない、
前振りと展開の関係がなさすぎる、予想の範囲内で面白くならない、
冒頭で予想した期待を、展開が下回る)

展開と結論の関係が弱い(その展開からその結論へ行く意味がわからない、
その展開なら別の落ちになるはず、
その落ちならその展開はおかしい)

などだ。



さて。

では、いくつを思いつけばいいのだ?

冒頭、結論、展開のみっつと、
それぞれの関係性みっつの、
6要素を思いつけばいいということになる。

しかも6はそれぞれ絡み合ってひとつに渾然となるべきだから、
バラバラの6つを思いついても、
それはストーリーにならない。

6つを練り倒してひとつを作れば良い、
ということになるだろうか。


まあまずは3つを思いつきたまえ。
それぞれの関係性について思いを馳せたまえ。
それらが渾然一体となったひとつになるまで、
3つの要素を調整したり入れ替えたりすることだ。

キャラや設定やシチュエーションを思いつくこととは、
まるで違う思いつき方をしなければならない、
ということなのだ。


点と線が違うことがわかったとしても、
それをどう思いつき、評価し、
実作業していくべきかは、なかなか分からない。
しかしこの基礎になる3つが出来ていて、
面白ければ、
面白いストーリーになるのは間違いない。


そして当然だけど、
展開には、
流されるところと、自分で流れをつくっていく、
二つがあって、
前者が多いとメアリースーになりがちだ。

世界に対して何をしたかがストーリーであり、
世界から何をされたかはストーリーではない。
posted by おおおかとしひこ at 08:58| Comment(2) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
大岡様、こんにちは。

手順としては
「キャラ」「設定」「シチュエーション」を渾然一体となったひとつになるまで、3つの要素を調整したり入れ替えたりする。

その後、「冒頭」「結論」「展開」を考える。(つまりストーリーを考える)

ですよね?

もしかすると、「冒頭」「結論」「展開」を考えている最中に、逆流して「キャラ」「設定」「シチュエーション」を変更する場合もありますか?

あと、「冒頭」「結論」「展開」のストーリー構成から決めて、逆算して「キャラ」「設定」「シチュエーション」を考えるなんてことも、ありえますか? ちょっと想像がつかないんですが。
Posted by こん at 2019年09月27日 13:32
>こんさんコメントありがとうございます。

どんなやり方でもあり得ます。
しかし「できた!」ときはこれらがちゃんと揃っている、
という感じです。
逆に「できた!」まで、色々と前後しながらやると思います。
Posted by おおおかとしひこ at 2019年09月27日 14:31
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