ナイロンザイル事件がなぜ物語的になっているのかを、
よくよく考えたい。
モノは事実にも関わらず、それを人に伝える時に、
物語チックになるのではないか、
とふと思ったので。
発端の事件とイコン:
ナイロンのザイルが切れ、登山部が一人死ぬ。
それは最新で強いはずのナイロンのザイル。
行動開始:
主人公石岡はその死んだ男の実兄。
ナイロンザイル切断事故が多いことに彼は疑問を抱く。
行動:
ついにナイロンザイルが、
尖った岩にこすれた状態ならスペック以下で切れやすいことを突き止める。
妨害:
ナイロンザイル製造元が妨害してくる
悪役の登場:
山岳会はナイロンザイルを推す。
一度目の直接対決:
公開実験で、ナイロンは強いことが証明される。
(見せかけの敗北)
敗北の日々:
しかしナイロンザイル切断事故はいまだ多発。
秘密の発覚:
それは岩の角を丸めたインチキ公開実験だった。
悪役の活躍:
山岳会は相変わらずナイロンザイルを推す。
行動が助っ人を呼ぶ:
ガリ版刷りの冊子が井上靖の目に留まり、
「氷壁」として小説化。世論が動き出す。
法律との闘い:
法律を動かし、9mm以上複数束ねないといけないという、
ガイドラインを出すことになる。
悪役の謝罪:
何十年もたち、誤りを認める。
ラストシーン(イコン):
その後、ナイロンザイルの高所作業や介護への応用に石岡は関わる。
博物館には、切断したそのナイロンザイルが展示し、
過ちを伝え続けている。
一幕
発端の事件とイコン:
行動開始:
行動:
二幕
妨害:
悪役の登場:
一度目の直接対決:(見せかけの敗北)
敗北の日々:
秘密の発覚:
悪役の活躍:
行動が助っ人を呼ぶ:
三幕:
法律との闘い:
悪役の謝罪:
ラストシーン(イコン):
非常にきれいな三幕構造だ。
行動開始、妨害、一度目の直接対決、
秘密の発覚、行動が助っ人を呼ぶ、
あたりが強力なターニングポイントで、
事態が大きく変わる転換点となっている。
書いた人は劇作家だろうか。巧みな構成。
「ロープが切れる/切れない」をイコンにして、
「鋭い岩に引っかかった状態だと切れる」を想像させ、
「それが公開実験では丸められていた」という悪役のやり口。
この一点に集中させるのが上手い。
物語は事件である。
物語は動機である。
物語はコンフリクト(対決)である。
物語は秘密である。
物語は人々の協力である。
そして物語は解決による教訓である。
これらを余すところなく味わえる、
見事な物語調の記事であった。
これを見ると、山岳会を憎むし、
ナイロンザイルメーカーのこすいやり方を憎むし、
井上靖ありがとうと思うし、
弟を失った石岡の強い動機に心が震える。
これが映画だと、クライマックスは法廷かな。
悪役との二度目の直接対決があるだろう。
そして社会的地位を悪役は失い、
観客の溜飲は下がるはずだ。
ラストシーンのイコン、切れたザイルは、
当然弟が滑落して命を落とした事件のザイルでなければならない。
博物館のものがその実物かはわからないが、
物語的にはそうなる。
それで終わるのがベストだ。
物語とは、「事実の理解の仕方のテンプレ(脳の仕組み)」
だと僕は仮説を立てている。
どんな事件も物語の形で理解記憶収納されると。
それを裏付けるような記事であった。
ここまで出来てるのになぜ映画化しないんや。
日本映画のプロデューサーは阿呆なのか?
映画「氷壁」のあらすじは主人公の戦いに焦点を置かず、
男女関係に終始している。
その周辺に事実らしきものをばらまいてぼかしたニュアンスくさい。
また、
https://www.econ.hokudai.ac.jp/~hasimoto/Orihara%20Hiroshi%20Essay%20Hyoheki%20200704.htm
が非常に読み応えがあった。
おれが映画化したいなあ。
「新製品には未知の危険が潜んでいる。消費者も企業も新製品に対しては慎重にならなければならない」などでしょうか?
どこに焦点を当てるかで変わります。
「人は嘘をついてまで自分を守ろうとする」
「告発する方が叩かれる」
などの負のテーマに持っていくことも可能です。
ふつうには、
「正しいことはいつかみんなに届く」ということがテーマになるでしょう。
いくつかのサブプロットでそれぞれを描けそうですね。
悪役の会社の事情も描く(隠蔽工作を誰が指示したのか)と面白くなると思います。
慎重になってもいいことないので、「間違いは素直に認めて改めるべき」ということをテーマにすると、悪役も救われるかもしれません。
私はいまだにテーマのことがよく分かっておらず、いまは何が分からないのかが分からない状態のようです……
何が分からないのか分かったらまた質問させていただきます。
どうもありがとうざいました。
「テーマは唯一でなくて良い」
というのはヒントになるかも。
メインの対立や争点以外にも、示唆するところ多し、
というのが優れた映画だと思います。