この記事はキーボードAdvent Calendar2019その2(https://adventar.org/calendars/4332)
の12/8の記事です。
ずっと疑問に思っていた。
「親指キーはそれでいいのか?」と。
親指は他の4指とは違う角度についている。
人差指から小指までは同一平面についているが、
親指は斜めに出ているではないか。
なのにふつうのキーボードは、親指を4指と同様に扱え、とでも言わんばかりだ。
この記事は、
hhkbを使っていた僕がスペースキーの角度に疑問を持ち、
自作キーボードに入門して3Dプリントキーキャップをつくるまでのお話です。
二年前、「キーボードはhhkbが至高」ということを聞いて、
はじめての高級キーボードにhhkbJPを買った。
最高だとそのときは思った。
しかしqwerty配列に疑問を持ち、
カタナ式という自作ローマ字配列や、
薙刀式という自作カナ配列を使っていた僕は、
「もっとよくなるのでは?」と思ってしまったのだ。
もっとも違和感を感じたのがスペースキーだった。
「親指の角度が合わない」と感じたのだ。
で、「上下逆につけたら、親指の角度と合うのでは?」
と思い付き、逆につけてみた。
おそらくこれが、「物理を改造する」
という僕の自作キーボードのはじまりだ。
カタナ式、薙刀式とも、
スペースキーがシフト代わりになるようにしている。(SandS: Space and Shift)
ローマ字配列カタナ式は、スペースを押しながらだと清音が濁音になる(例シフトK→G)。
カナ配列薙刀式は、スペースを押しながらだと別のカナが出る(28キー範囲に50音をしこむため)。
両方ともスペースキーを多用する。
で、ほかに親指を多用する配列の先輩として、
親指シフトキーボードを参考にすることになる。
80年代、富士通のワープロOASYSに採用されたカナ配列、
親指シフト方式(現在はNICOLA配列)は、
背の高い親指キーをふたつ持ち、
これを同時押しレイヤーキー替わりに使う。
親指キーの背が高い理由は、
同時押しのTYあたりも押しやすいからだろう。
横に長い理由は、
小指や下段も同時に押しやすいからだろう。
これの現物が見たくて、
去年の夏、表参道のaccess(親指シフト専門店)にまで出かけて思う存分触ってきた。
で、高くするために、手触りの良い木材(リグナムバイタ)を削ってつけてみた。
そのうち45グラムの押下圧が重く感じ、
35グラムのNiZを使うことに。
スペースキーを逆付けし、
上に木を削って貼り、色々な形を試す。
親指シフトの親指キーは高い。
これは、「手を浮かして打つ」ことが前提。
しかし僕は手首をつけて打つスタイル。
手を浮かしたりパームレストをつかったとしても、
高い親指キーは体に合わなかった。
机に手を置いた状態で、
一番心地よいスペースキーが欲しかった。
で、スペースキーを低くする改造を試みる。
まずは11UスペースキーだけAliExpressで沢山買い、
トップを2ミリくらい削り(これで向こうが透けるくらいに薄くなる)、
その上に加工した木を貼りつける。
その形は何がベストだろう?
最初は親指キーのようにかまぼこ型だった。つまり凸(convex)だ。
しかし、「まるい親指とまるいキーが接触すると、
点で接触するので、痛くね?」
ということに気づく。
作ってみたのが、「指型に凹にへこんでいる親指キー」。
手に触るものだから、
いろんな木材をためした。
サクラ、ヒノキ、リグナムバイタ、チーク、ラミン。
木が加工しやすく、手触りが良い。
そのうち「押下圧を35グラムより軽くできる」
(バネ交換などで)と知ったので、自作キーボードに入門。
やっとここでみなさんに追いつく。
色々しらべてminiAxeのミニマルさに惚れ、
最初の自作キーボードにしては難易度が高いのをクリアして、
現在2台目を使用中。
キースイッチは、Gateron Silent Red、Kailh Speed Silver、Gateron Ink Blackなどを試して、
Kailh Creamに落ちついた。
(15グラム中心の、10、20、25も使った変荷重)
最初に作った親指キーは、
最下段の1.25U逆付けの、横を削ってはまるようにしたものだ。
しかしカーブが気に食わず、
理想の「指の当たり方」を求めて、同じく木を削り出して作る。
最初は一枚板にドリルで円柱形の穴を開け、そこにステムを接着剤で埋めたものだった。
次に二枚の板を接着し、ハング部分を削ることにする。
で、ついに三つの木を接着して、三面から削り出すことにする。
最終的にいいやつは、
「木ーキャップ」と称していくつかのキーボードイベントに置いたから、
触ってみた方もいたと思う。
ここまでは自己満足だったが、
天キーやゆるキーで触ってくれた人から、
「量産しないんですか?(欲しい)」と聞かれ、
今年の夏、3Dプリントで作ることを決意する。
「親指は、斜めに押せる、凹であるべき」
という良さを、伝えたいと思ったので。
あとは、
使ったこともないBlenderをひたすら覚えることになる。
(「猫でもつくれる自作キーボード」にはお世話になりました!)
で、最終的に木ーキャップのカーブをなるべく忠実に再現したものを、
「薙刀式キーキャップ」としてDMM.makeで頒布することにした。
利益はほとんどないです。ほぼDMM代です。
触れば、絶妙な角度になっていることは良く分ると思う。
それこそ、「触った瞬間、ああこれだと分る」
などと言ってくれた人もいた。
45度に抉っているのではなく、
XYZそれぞれ微妙に違う距離で抉っているので、
幾何学的なカーブじゃないのが特徴。
机に置いたときに、自然に出した親指に、
フィットするようにしたつもり。
この抉れ方は、さんざん木を削ってこれだ、
と思ったものが元になっている。
https://make.dmm.com/shop/235111/
(フルセット36個4800円、バラあり)
親指は、それでいいのか?
逆付け(X軸回転)だけでいいのか?
平面上の移動や回転(Z軸回転)だけでいいのか?
凹の具合は、シリンドリカルでいいのか?
斜めに、しかもスフェリカルな抉れ方をしているのは、
今のところこの親指キーだけだ。
もちろん、これが最高の親指の触れ方なのか、
といわれると、まだエンドゲームじゃないかもだ。
3Dキーボードにすれば全部解決するかもしれないけど、
僕のスキルはそこまで高くない。
3Dはスイッチの干渉があって、
親指キーを4指に近く出来ない感がある。
chocやX-switchならそういうものができるかも、
と天キー3で見た、超薄いキーボードを触って思った。
あ、ちなみに東プレ軸対応版の薙刀式キーキャップもつくってみた。
もはやhhkbは僕にはオールドファッションだけど、
親指シフターで使いたい人もいるかも知れない。
choc版も出来たよ。
(年内くらいにはDMMに上げます)
親指はほんとうにそれでいいのか?
掴むように打つべきか?
押し込むように打つべきか?
どうやれば、疲れず、速く、スムーズに打てるのか?
答えはまだ出ていない。
この記事は、
miniAxe×クリーム軸15g×薙刀式キーキャップ×カナ配列薙刀式
で書きました。
以下宣伝。
どういう「斜め凹」なのか、触って確かめられるように、
遊舎工房さんのレンタルボックスにいれました。
親指キーのみ左右2個で660円。
DMM.makeにないスペシャルカラーです(染料による手染め)!
実際に触って、「斜めぶり」を体験してみてください。
出たら買わせていただきます。
今最終テスト中です。
フットプリント17mm角と、15mm角の二種類を用意します。
コルネだと18角でも大丈夫だろうけど、
chocは狭ピッチの需要があると思い。
で、最狭16ピッチくらいまでいけるバージョンも用意しました。
年内目処で少々お待ちを。