2019年11月28日

モンタージュ効果の例

昨日の飲み会にて、わかりやすいモンタージュ効果の例があったので記録しておく。
下ネタ解禁で。


まずは若手の彼女が、
デパートの化粧品売り場の売り子だとわかったところからスタート。
いいなあ、かわいいなあと羨ましがり、
メーカーはどこだとなって、「メナード」であると。

なるほど、セックスの時は「メナードー!」ってイクのかという話になる。


で、待てよ、もっと相応しい化粧品メーカーがあるのでは?
となった。

「資生堂ー!」は「メナードー!」より弱い気がする。
「カネボウー!」は「for beautiful human lifeー!」の返しがあれば、
なかなか強そうだ。

で、「ココシャネルー!」も「イブサンローランー!」
(今調べたら、「無印良品ー!」も悪くない)
もなかなか強いぞ、
というあたりで、
「マックスファクターっ!」が優勝をかっさらっていった。


まったくどうでもいい飲み話である。
一通り馬鹿笑いができればよい。


さあここからが重要な本題だ。


この話をした後に、
「彼女がメナードで働いていて」
というセリフが、どうしても半笑いになるのだ。

これまでは普通の化粧品ブランド名だったものが、
急にエロ単語に変貌する。


これがモンタージュ効果である。



モンタージュ効果とは、
「AとBを繋ぐと、
単独だった時にはない意味Cが加わる」
という効果のことである。

「さようなら」という言葉があるとして、
その前に「愛してるけど」をつけると、
「さようなら」は、もっと特別な意味Cを持つ。

そこに痛みや、あなたの為なのだという愛の意味が、
いくばくか加わる。

「さようなら」だけでは伝わらないなにかが。

これが言葉の接続だけでなく、
カット割りでも起こるのがモンタージュ効果だ。

もっと大きく、カット割だけでなく、
文脈によって起こることを、
一般にモンタージュ効果という。
シナリオライター的には、シーンの並び替えは、
それらのモンタージュ効果に注意して書き換えなければならない。


モンタージュ効果は、
時間軸を持つメディアのみが持つ効果だ。

時間軸を持たない、「絵」では存在しない。

たとえば左右にABを並べて対比することは可能だが、
絵には見る順番が存在しないため、
モンタージュ効果は存在しない。

勿論、見る側からみたら視線の移動はある。
しかし、ABと見るかBAと見るか、背景を見てからABを見るか、
などの「見る順番」は鑑賞者に委ねられている。
すなわち、
絵は視線の順番を規定できない。

時間軸を持つメディア、映画や言葉や音楽は、
時間を強制的に流れさせるメディアである。
その流れを、作者が決めて、強制する。

ここにモンタージュ効果Cが現れるのだ。

この話をする前は、
メナードはただのメナードだった。
しかしこのどうでもいい下ネタのあとでは、
「メナード」と普通には言えず、
「メナードっっ…!」みたいなせつない言い方になるに違いない。
そして、マックスファクターにメナードは負ける、
というようなことも同時にCとして存在するだろう。


これは、ストーリーにおいて、
前半が風呂敷を広げ、
後半には畳むことと関係がある。

前半が後半より長い理由は、
この下ネタのようなものがあるからだ。
これを「前振り」という。

前振りは設定なのでどうしても長くなる。
しかしこのモンタージュ効果を使えば、
後半は、「メナードっっ!」「マックスファクター!」だけで通じる。

情報の圧縮があるわけだ。

このようにして、
前半の前振りは長く、
後半の畳み込みは短いのが、
ストーリーとして理想である。

短くなった分は、モンタージュ効果によって縮んだ、
と言えるわけだね。

このモンタージュ効果を楽しむことこそが、
ストーリーを楽しむことに他ならない。
「皆まで言わずとも」の領域だ。


僕がアートディレクターが嫌いなのは、
このモンタージュ効果を理解していないか、
理解していても発想として持っていないことにある。
彼らは時間軸を作品に持ち込まない。
我々は前振りと落ちの関係を作ることこそが仕事なのに。


ということで、モンタージュ効果が何かわからなくなったら、
このメナードの話を思い出せばよい。
posted by おおおかとしひこ at 15:18| Comment(0) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。