2019年12月08日

設定、目的、ストーリー2

逆に、目的のない設定を見てみよう。


ネットから拾った「思いつき」の設定。

>>ロボットSF学園もので、いつも成績がぱっとしないちょっと暗い感じの脇役が実は国内でも指折りのガチ勢で、普段は自作キーボードユーザなのに学校では強制的に市販品のゴミを使わせられているせいで全く能力を発揮できてなかった、って言う設定を思いついた。誰か書いて∩(・∀・)⊃ #自作キーボード


これは、大きくいうと仮面ものの設定である。
「普段はAなのだが、実はB」
というやつだ。

仮面ヒーローもの、探偵もの、二重人格ものなどは、
これを常にベースの設定にしている。


先の議論からすると、
この設定ではストーリーに足りない。
なにが足りないか、もう分かるだろう。
目的である。

この設定にない目的を作らないと、
ストーリーにはならないのである。

ためしに作ってみよう。

1. 最高の自作キーボードをつくる
2. 小説家になりたいゆえに最高のキーボードをつくる
3. 行方不明の父を探している
4. ピアニストになるための修行

どれも面白くないが、とりあえず。

1と2は自作キーボードの設定の拡張だ。
「なぜ自作キーボードをやるのか?」
の目的を設定したものだ。
しかし現状自作キーボードは進行中のブームで、
誰もエンドゲームにたどり着いてないから、
このストーリーの答えは出ない。
(ある種の理想形を示せるかも知れないが、
すぐに現状が追い越すか、「違う」とみんなが思うか)

いずれにせよ、
ここに感情移入出来る人は自キ勢だけなので、
一般に開かれたストーリーとは言い難い。

で、
キーボードと関係ない目的を作って見たのが3。

誰でも分かる動機で、よく使われるパターンだが、
キーボードと全然関係ないので、
引っ掛ける部分がなくなる。
おそらく父探しとキーボードの話の、
二本立ての混ざらない感じになり、
どっちつかずに終わるだろう。

つまり、
目的と設定が不可分であることが、
逆にこのことから分かるかもだ。

4はそれをキーボードにやや寄せた感じだ。
鍵盤という共通点でなんとかならないか、
という工夫である。
しかしPCのキーボードとピアノの鍵盤は、
ほぼ関係がないので、
おそらく話に詰まると思われる。


さて。
なにが良くなかったのか?

設定が良くないのだ。

いい設定とは?
そのキャラ設定に、目的が入っていることだ。
そしてその目的の遂行に感情移入出来るような、
設定なりエピソードなりが用意されていることだ。

ここでもしそれが出来たら、
あとはゴールイメージ、解決の瞬間を構想し、
そこへ至るためのルートを考え、
間にいくつもの障害を作り、
モノの障害だけでなくヒトで障害をつくり、
その人をどう乗り越えるのか、
までを作れれば、
自動的に面白いストーリーになるだろう。

「Aだが実はB」の形の設定には、
目的がない。
理想のこの形の設定では、
「Aだが実はB(なぜならXをしたいがため)」
のような目的Xが含まれているべきだ。

「Aだが実はB。そして目的はX」
のように三つの設定になるのは勧めない。
ややこしくなるからだ。
AとBの関係性の中にXが含まれる設定がベストだ。


たとえば「キック・アス」。
「普段は冴えない高校生だが(A)、
正義のヒーローになりたいがため、
自らコスプレ自警団をやりはじめる(B)」
という設定だ。
Bと目的X(ヒーローになりたい)は重なり合っている。
だからスッキリしたわかりやすい設定なのだ。

ということで、
冒頭にあげた設定は、
「一見面白そうだが、ストーリーにならない設定」
である。

これを見ただけで判断できるようになるには、
「ストーリーが書けた設定」
「ストーリーが書けなかった設定」
を沢山経験し(短編で100本程度)、
どうすればストーリーが書ける設定になるのか、
を体験して自得するしかない。

設定は思いつくがストーリーが書けない人は、
「ストーリーが書けないタイプの設定」しか思いついていない。
ということは、
ほんとうの設定など、何一つ思いついていない。


それは、ストーリーになる設定か?
判定基準は、目的が暗示されているかだ。
自分の創作ノートを見直したまえ。
殆ど全滅なら、出直すべきである。
posted by おおおかとしひこ at 13:05| Comment(5) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
以前にもコメントさせて頂きましたが、再び失礼します。自分にとって初めての長編を書き上げ、2本目の執筆にとりかかっています(このブログのアドバイスに従い処女作は現在寝かせています)
二本目のプロット作りに邁進している自分には、目的、設定、ストーリーの2回に渡る記事はとても参考になりました。
お時間あれば、是非、目的、設定、ストーリーのテーマでまた記事を書いて頂きけると嬉しいです。
もちろん、自分が「書いて失敗」を繰り返すことで身に付くことだと思いますが、今後も自分がプロット作りをする上で、もっと知りたいテーマだと思いました。
よろしくお願いします。
Posted by 解無後 at 2019年12月13日 09:26
解無後さんコメントありがとうございます。

単純に0から作るときだけではなく、
すでに出来たものから抽出するとき、
部分の変更をするとき、
部分の変更の変更をするとき、
などに活用するといいかと思います。

そうこうしてるうちに、「それが見える目」が出来てくるのが、
人間の面白いところで、
「パッとみてそれが抽出でき、頭の中で組み替えて、
それがベストであるとか、改良する点があるか判断し、
あるならどうすべきか思いつく」
までが出来るようになってきます。

それは長編の高々数本では無理で、
10本とかそれ以上の経験がいると。

ということで、5分〜15分くらいの短編を数やることで、
PDCAサイクルをガンガン回すことを僕は推奨しています。
沢山の習作は、部分の鍛錬にもってこいです。
Posted by おおおかとしひこ at 2019年12月13日 12:14
お返事ありがとうございました。短編の習作による鍛練が効果的なんですね。経験あるのみ!書き続けたいと思います。これからも、創作の励みに、こちらのブログを読ませて頂きますので、投稿、楽しみにしています。
Posted by 解無後 at 2019年12月13日 16:42
>>目的のない設定

同じ世界観・同じ登場人物・同じ設定を使いまわした”一話完結の連作もの”が一向に終わらないのは、主人公の基本設定に目的がないせいなのですね。

ここでいう”一話完結の連作もの”は、
サザエさん、クレヨンしんちゃん、ちびまるこちゃん、ルパン、シャーロックホームズ、刑事コロンボなどです。

これらの作品は、ずっと作品を続けることが前提で、終わることを考えていないように感じてしまいます。
最終回はどうするのがいいと思われますか?

打ち切りのような終わり方や、世界観・登場人物・設定が壊れる終わり方しかないのでしょうか?

そのような終わり方にならないために、目的のある設定にしよう、というのが今回の記事の趣旨であるのは理解していますが、なにかいい方法はあるのでしょうか?
Posted by 千ドル at 2019年12月21日 19:18
千ドルさんコメントありがとうございます。

彼らに目的がなくても、
実は毎回のゲストが目的を持っていて、
彼らの目的ありきで巻き込まれる、というのが大枠ですね。
つまりストーリー上の主人公はゲストという構造です。
「主人公」と名はついていても、
サザエやしんちゃんはリアクション要員、締め要員でしかないと。
探偵ものはその構造が、「探偵と依頼人」でわかりやすいと思います。
(真の主人公は依頼人)

で、これらをどう終わらせるべきか?
ですが、「初登場時のヒント」を利用するべきでしょう。

ドラえもんの場合、「のび太を一人前にする」がドラえもんのそもそもの目的です。
だから事実上の最終回「さようならドラえもん」では、
のび太は自立を選び、ジャイアンに喧嘩を挑むのです。

サザエはどういう登場をしたのかしら。
「マスオの立派な奥さんになる」だとしたら、
「一度はマスオの愛を失うが、やはり僕たちの家はここだ」
というような最終回を作ることができると思います。
ルパンは「何故泥棒になったのか」を創作すれば、
それを結論に結び付けるエピソードを作れると思います。
「こうして、ルパンは泥棒を辞めた」となるハッピーエンドで終わることが出来るでしょう。

ヒントは初登場時、またはキャラ設定そのものにあると考えます。

勿論、連載漫画と同様「続けることが目的」の作品ではあるので、
何も用意していないでしょう。
しかし無理にでもケリをつけるなら、冒頭に戻すことが重要かと。
「うる星やつら」は第一話の鬼ごっこに戻すことで、
うまく完結できていた例ですね。
Posted by おおおかとしひこ at 2019年12月21日 19:30
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