2019年12月12日

やわらかい色

シナリオには具体的に書く。
小説では抽象的な表現はいいことだが、
シナリオでは悪い。

「やわらかい色」について検証しよう。


これは小説ではOKだが、
シナリオ的にはあまりよい言葉使いではない。

なぜなら色は、
濃い/薄い、明るい/暗い、鮮やか/鈍い
が具体的な指示であるからだ。
(詳しくは色相環などで勉強してください。
写真や絵をやらない人は使いこなせなくても良いが、
少なくともシャシンはこれを使いこなして撮影されている)

やわらかいは色につくべき具体的な形容詞ではない。
やわらかい光、やわらかい布団などは具体的だが、
色にはやわらかい硬いはない。

もちろん、
「やわらかい印象を与える色」というのはあって、
きなりや明るめの自然色なんかはそれに当たる。
しかしそれ以外を指すことも出来る。
オレンジや黄色目でも、やわらかい色と言っても過言でない文脈もあるだろう。
若草色も、春の草原を思い起こせてやわらかい色になる場合もあれば、
そうでない文脈もあるだろう。

つまり、
「やわらかい色」は主観である。

濃い/薄い、明るい/暗い、鮮やか/鈍い
は客観だ。


シナリオは客観的で具体的な言葉で書くべきだ。
カメラで撮るものを書く。

主観的で抽象的な言葉は書くべきではない。
それはカメラで撮っても、
そのような印象を与える保証はない。


「彼女の顔は悲しんでいるように見えた」と書くべきでなく、
「彼女は悲しむ」と書けば良い。

客観的具体的事実だけを並べれば良い。
シナリオはつまり、証拠の羅列でしかない。
そしてそれらが、
「あるひとつのこと」、つまり文脈を意味しているように、
慎重に選ばれて表現されたものが、
シナリオというストーリー表現である。


もっとも、
シナリオに色を書くことはそんなに多くないだろう。
それは監督や技術スタッフのするべきことで、
文脈を用意することがシナリオライターの仕事だ。

だから、具体的といっても、
「彼女は明るくてやさしい色の服を着ている」とか、
「彼女の部屋はやわらかい色使いだ」とか、
なにかを暗示する(この場合は彼女の性格や気持ち)、
「代わりの表現」であるべきなのだ。

ただこの色が好きだからだとか、
この色はセンスがいいからだとかは、
ストーリーの文脈には関係のないことだ。

センスのいい色が欲しければ、
「それはセンスのいい色をしている」
と書いたって構わない。
ターコイズブルーとかスカーレットとか、ブリリアントピンクとか、
文脈に応じて監督のセンスが決めてくれるだろう。



逆に。

小説では、このような具体的でない言葉の組み合わせを使って、
表現だとする場合がある。

毛布のやわらかい色に包まれた。
彼女は悲しみの色を見せた。
それは男子全員の興奮する色だった。

などのように、想像する方が楽しい言葉の組み合わせを、
意図して使うことがある。

いや、単純に小説で「やわらかい色」という言葉を使って、
これはシナリオでは使わない言葉だな、
と気づいたので論じてみたわけだ。

小説とシナリオは、このように異なる場合がある。
使い分ければ双方書けるかもしれないし、
出来なければ双方混同するかもだ。
posted by おおおかとしひこ at 23:37| Comment(0) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。