2019年12月21日

クリスマスエクスプレスに見られるsave the catテクニック

ブレイクシュナイダーが提唱するテクニックに、
save the catがある。
(本のタイトルにもなっているキャッチーな言葉)

これは、「善人を不幸にしよう」ということに尽きると思う。


ストーリーとは、「不幸から幸福になること」だ。
ということは主人公は不幸なのだ。

悪いことをしたから不幸なのか。
これは因果応報だからこれ以降にストーリーは生まれない。
(反省して真人間になる、というならストーリーは発生する)

save the catテクニックは、
「善人が、不幸になっている」を序盤で設定すべきだ、
ということを言っている。

「善人なのに不幸だ、これはおかしい、
だから彼または彼女が幸福を求める様を見て、
思わず応援したくなる」
と人は考える、
ということである。


登場した直後にそれは示すべきだ。
第一印象に敵うものはない。

だから、登場時に、
「子猫を助ける」ようなことをやらせろ、
というのがブレイクシュナイダーの言い分である。

もちろん、猫を助けるのはあくまで例であって、
善人を示せればなんでも良いというコメントはついている。


で、
先日あげた、牧瀬里穂の新幹線CM。

彼女は登場した直後、
おじさんにぶつかり、プレゼントを落としてしまう。
ここだ。
彼女の謝り方に注目。
「ああ、この子いい子なんだな」と分かる謝り方だ。

あ、すいませんと叫びながらプレゼントに気をとられるのではなく、
ちゃんと正面に立ってぺこりと深く頭を下げる様。

ああ可愛い子なんだな、とその時に全員が理解する。

これがなかったら?

ただプレゼントを持った子が構内を走り、
柱の陰に隠れて彼氏にサプライズしようとするだけの、
結構自分勝手な女に見えるだろう。

このカットがあることで、
save the catテクニックになっているのである。


構内を走ることは推奨ではないが、
いい子だからこれは特別なことなんだな、
と読解できるようになるわけだ。
これが「どけどけどけー!」と我が物顔で走り、
突き飛ばして走っていたら悪人になるわけだ。
やってることは9割方同じなのに。

save the catによって、
私たちの心は、彼女と寄り添うようになる。
いい子の結末を見届け、
幸福という結末を見届けたくなる。

これが感情移入だ。


善人は幸福になるべきだ。
私たちは無意識にそう思っている。

だから善人が不幸にあっていると、どうにかしたくなる。
その善人が必死で努力すると、応援したくなる。
その善人が壁にぶち当たると、自分もそんな気持ちになる。
その善人が正義や誠実のために戦うことを決意すると、ほんとにそうするべきだと思う。
その善人が自分の恐怖を断ち切り、成長して果実を得ると、
まるで自分の手柄のように喜ぶ。
ほんとによかったねえと。

それが物語だ。


その最初の前提、「不幸なるこの者は善人である」
を示すために、
save the catを使いなさい、
ということなのだ。




あなたが監督または脚本家だとしよう。
謝るカットがないバージョンのコンテを見たクライアントが、
「構内を走ることは危険だからやめてください」
と指示を飛ばしてきたらどう対処するか?
今のCMの体制ならば、
「全カット歩かせる」なんて愚かな改変にしてしまうだろう。

「2カット目に彼女がいい子で、
でも切羽詰まった事情で走ってることを示そう。
たとえば人にぶつかってプレゼントを落とす。
しかし彼女はプレゼントを救いに行くのではなく、
ぶつかってしまったおじさんに謝るんだ」
とあなたは発言するべきだ。
「なぜそれが有効なのか?」と聞かれたら、
「そうしたら彼女はいい子だってわかるだろ?
その時から感情移入がはじまるんだ」
と答えれば良い。

それが思いつけるか、その後クライアントまで説得して、
その方がみんなの心を奪えると言えるかは、
あなたがどれだけ脚本というものを理解しているかで決まる。
posted by おおおかとしひこ at 13:23| Comment(0) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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