2019年12月24日

SW9のシナリオには何が足りなかったか(「SW9」批評4)

三部作こみで、反省会でもしてみよう。

ネタバレで。


結局鳥肌が立つところは、
全て旧作とのリンクであるところが問題の元凶だ。

それはただの出落ち祭りで、
そのあと何も生まない。

たとえばルークのXウィングが浮上したところはおおおとなるが、
その後Xウィングで何か新しいことが描かれたか?
つまりあのXウィングは出落ちだ。
ストーリーは線である。
あのXウィングに「新しいエピソードを足す」
がない限り、あれは出落ちだ。
(たとえばポーの操縦技術がすごいとして、
レイを助けてコクピットに二人で乗るとか、
「新しい」ことをやるべきだった)


それらのことを除くと、
新三部作の骨格はどういうものになるか?

「姓を持たないレイは、ジャンク漁りで生計を立てていた。
ポー、フィンと知り合い、
ファーストオーダーへの反乱軍に加わることになる。
フォースの力が強いことを見出され、
マスタールークに修行をつけられる。
一人ではルークのように勝てないけれど、
三人で力を合わせれば勝てる。
三人の絆は強く、
三人がいたからこそ帝国に勝てたのだ。
そしてなんとレイは皇帝パルパティーンの孫であった。
彼女はパルパティーンの誘いを断り、
帝国を倒す」

などと記述できるだろうか。
カイロレンことベンは、この骨子に含まなかった。
なぜなら彼はレイの人生のターニングポイントにことごとく噛むべき、
ラブストーリーの相手だからだ。

まずはレイの人生の主軸を整えるべきだ。

この骨子に従うと、レイの人生には、
少なくとも8つのポイントが必要なことがわかる。
番号付けしてみる。


1. 姓を持たないレイは、ジャンク漁りで生計を立てていた。
2. ポー、フィンと知り合い、
ファーストオーダーへの反乱軍に加わることになる。
3. フォースの力が強いことを見出され、
4. マスタールークに修行をつけられる。
5. 一人ではルークのように勝てないけれど、
三人で力を合わせれば勝てる。
三人の絆は強く、
三人がいたからこそ帝国に勝てたのだ。
6. そしてなんとレイは皇帝パルパティーンの孫であった。
7. 彼女はパルパティーンの誘いを断り、
8. 帝国を倒す

順に検討してみる。

1. 姓を持たないレイは、ジャンク漁りで生計を立てていた。

彼女のストーリーが、
「ただのレイから、レイパルパティーンになり、
レイスカイウォーカーになるまでの話」
だとすれば、
まずこのセットアップに問題がある。

説明としてはわかった。
しかしそこに感情が伴っていない。
たとえば「レイは今の環境に強烈に違和感を感じており、
何者かになりたいと考えている」などだ。

スターウォーズ1(Ep4)の、
「大学へ進学したいが叔父に断られ、
二重太陽の夕陽をあてもなく眺める」
に匹敵する、
いや、続編なのだから、
それ以上に私たちの心が動くエピソードが欲しい。

いや、Ep7にはあったのかも知れないが、
8でも9でも、それに重ねてセットアップするべきだ。
ルークのそれに匹敵する、
ひとつもエピソードとして思い出せない。


2. ポー、フィンと知り合い、
ファーストオーダーへの反乱軍に加わることになる。

レイはどうやって彼らと知り合ったっけ?
その強烈なエピソードを思い出せない。
オリジナリティのあるやつが必要だ。
なんで反乱軍に入ったんだっけ?
強烈なエピソードが思い出せないぞ。


3. フォースの力が強いことを見出され、

なんでだっけ?
覚えているのは修行後の洞窟の岩をどける場面だが、
そのようなイコンになるエピソードあったっけ?

4. マスタールークに修行をつけられる。

ここは時間はかけられていたが、
記憶に残ってない。
「ベストキッド」のペンキ塗りは今でも思い出せるのに。

5. 一人ではルークのように勝てないけれど、
三人で力を合わせれば勝てる。
三人の絆は強く、
三人がいたからこそ帝国に勝てたのだ。

これは三人の主人公を立てる意味だ。
はて、なんでこうなんだっけ。
何一つ思い出せない。
9で、「あれ、この三人、こんなに仲よかったっけ」
って思ったくらい。
「○○だから、この三人は仲良いよな」
の○○にあたる部分がない。


6. そしてなんとレイは皇帝パルパティーンの孫であった。

ここはまあできてたか。

7. 彼女はパルパティーンの誘いを断り、

なんで断ったんだっけ?
「帝国は悪だから」「フォースの暗黒面は悪だから」
だったら断る理由になるが、
帝国は悪ではないし、フォースの暗黒面も悪ではない。
設定上はそうだが、
我々観客が本気で、
「帝国は悪いぞ!」「暗黒面はやべえ!」
と恐れおののくほどのエピソードはひとつもない。


8. 帝国を倒す

ルークがデススターに爆弾を放り込んだような、
アナキンが「スカイウォーカー!」って、
ベンハーみたいな戦車戦で言われたような、
記憶に残るエピソードがあったっけ。
ないよな。



レイのストーリーで重要な点は最低8つある。
そのことごとくに、
我々が感動のあまり泣いてしまい、
後世に語り継ぐイコンとなる場面は、
ひとつもなかった。

これが、ストーリーとして弱いということだ。

だから、
旧作とのリンクで感動値稼ぎをするしかないわけなのだ。


少なくともこの8つのポイントで、
オリジナリティあふれる、
強烈に記憶に残るエピソードが、
欲しかった。

カイロレンは目立っていたが、
三人の主人公は、何一つ印象に残っていない。

主役は、悪役以上の魅力があるべきで、
三人まとめてもカイロレンにかなわなかったということは、
彼らがレンの1/3以下しか印象がないってことだ。


なぜレイ一人で主役を張れなかった?
ポリティカルコレクトネスではない。
それだけの面白いストーリーが、
思いつかなかっただけだろう。
posted by おおおかとしひこ at 22:23| Comment(0) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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