2019年12月31日

僕の宇宙では音が鳴るんだ

宇宙は真空なので、爆発音やビームの音が鳴るのは、
非科学的ではないか、と記者が質問したときに、
ルーカスはこう答えたという。

これはフィクションに関して重要な考え方だ。


物語は事実と異なっていい。
科学法則すら違っていていい。

問題は、それが一旦設定されたら、
その世界の中で矛盾しないことだ。

ルーカスの宇宙では、
つまりスピーカーを使って宇宙に音を鳴らすことができる。
ドップラー効果が起こる。
ソニックブームが起こり得る。
媒体(エーテルとしよう)があるから、
その粘土の差によって光や重力の干渉がある。
粘土の差が均等になろうとする力が働くから、
エーテル風が起こる。
惑星の運動に対して抵抗が起きるから、
惑星や恒星は早くに静止してしまう。
空気砲のように、エーテル砲が物理攻撃になる。

もしこれらのことを使った何かを、
ストーリーに利用していれば、
「音の鳴る宇宙」を、
十分に活用していることになる。

ところがそうではない。

だから、音の鳴る宇宙は、
子供じみた言い訳だ。


ある嘘をつくからには、
その嘘で世界を統一しよう。
その嘘の届くところ全てを考察しておこう。
それがフィクションを、
現実たらしめる。

もし音の鳴る宇宙が存在したら?
そこでは通信、兵器、文化、効率化が、
どのようになるだろう?
そこまで考えて、
しかもそれがストーリーにとって有用な効果を出したとき、
はじめて「僕の宇宙では音が鳴る」
と宣言していいと思う。


キューブリックは逆に、
無音の宇宙、等速直線運動しかない宇宙、
あまりにも何もない宇宙という、
リアルな宇宙の恐怖を描いた。
その恐怖は、逆に宇宙船内を濃密な密室に変え、
人工知能の進化という恐怖に重なることになった。

ファンタジーは良し。
それを利用してないのは、ファンタジーではない。
子供じみた妄想どまりである。

逆に、妄想をそこまで突き抜けさせれば、
作品になる。
posted by おおおかとしひこ at 13:39| Comment(2) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
ちょうどリアリティについての問題が話題になってますね。
SWとはまた違う問題ですが。

https://twitter.com/AraiHunter/status/1214423362472034304

リアリティは大切ですが、それに縛られすぎても
面白いキャラクターを考えられなくなってしまいそうで
そこらへんが難しそうな〜だと思いました。
どこまでやっちゃって良いのだろう?…と。
Posted by コルトパイソン at 2020年01月08日 19:31
>コルトパイソンさん
それを扱う人間が「その文脈でおかしい」と思わなければOKだと思います。
ピアノとかで考えれば分かるかと。
仮に「足でピアノを弾く」場面を描きたかったら、
足でピアノを弾くにはどういう苦労があるのか、
調べた上で書けば問題ないでしょう。

「知った上で嘘の範囲を決めて、それを約束事として早めに提示し、その範囲内で何かを語る」という責任が果たされていれば、
信用されると思います。

件のドラマは見てないですが、
ロスの射撃場でも、空砲だとしても銃を人に向けるなと言われましたね。
問題はそういうことを知っているか知らないかで、
知らない人が知らないまま書くことは、腹が立つものです。
Posted by おおおかとしひこ at 2020年01月08日 20:30
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