2020年01月05日

なぜ「嘘はひとつだけ」なのか

フィクションでは、
「嘘はひとつだけ」というルール(マナー?)がある。
「常識から外れた設定は、最大ひとつ」ということだ。
大嘘が二つあったりすると話がややこしくなる。

しかしそもそも、ややこしい以前の問題だ。
なぜ嘘はひとつであるべきか。


たとえばスターウォーズを考えよう。
架空の星系の架空の人物たちの架空の国の物語だが、
これらは嘘に入らない。
なぜなら、「現実の常識で理解できるから」である。

架空の星系といっても、
科学の常識の範囲内で理解できる。
架空の人物といっても、
モンスター的な生き物でさえ、
そういう生き物が常識を覆す知性を持つわけではない。
架空の国といっても、
これまでの政治的歴史的常識で国家形態などは理解できる。

だからこれは嘘ではなく、
常識的な設定の範囲だと理解できる。

科学の常識外の星が存在するわけではなく、
(二重恒星系すら科学の常識の範囲内だし、
ブラックホール星系すらあるしな)
科学の常識の外の生物が存在するわけではなく、
(たとえば次元が異なる生物とか描写されない)
人類の知り得ない国家体制があるわけではない。

じゃあなんだろ。
ワープかな?

ワープは科学の常識外?
それほどでもない。
ワームホール理論などはあるし(未実証)、
そもそも「急行」の概念で理解できる。

ロボットや人工知能アンドロイドも、
ようやく科学が追いついてきた。

じゃあスターウォーズの嘘はなにか?
フォースだ。

この、
気功やヨガや超能力を混ぜたなにかが、
この物語の嘘だ。

フォースは存在するとして、
この物語はフィクションである。


だから、
それ以外の常識外の嘘をつくべきではない。

ファイナルオーダーはどうやって集めたのかとか、
何故Xウィングは錆び切ってないのかとか、
何故宇宙で音が聞こえるのかについて、
常識の範囲で答えられなければならない。

そしてこれらは、フォースの基本設定、
「才能ある者が鍛えれば強くなる超能力のようなもので、
しかし誤れば暗黒面に堕ちることにもなり、
死後霊体になれる」
から演繹できなければならない。
「フォースで腐敗を止めた」
「フォースはエーテルを通じて伝わり、
そのエーテルは音も媒介する」
と無理矢理考えることは可能だが、
それは自然な演繹とはいえない。

ここが大事なポイントだ。

観客は、
世界を理解しながら、
予想しながら、
見ているのである。

「あれはああいうことだったから、
これはこういうことだな」とか、
「あれはああいうことだとすると、
これはきっとこうだと予想できる」
などである。

つまり、
嘘が複数あると、
その理解や予想を妨げるのだ。

それが、混乱の原因だ。

Aという嘘とBという嘘があったとして、
AB同時になったら矛盾しないのかとか、
AからBを引いた部分はどうなるのかとか、
AでもBでもない部分は、AまたはBと補集合かとか、
予想できなくなるのだ。

つまり、
複数の嘘は、未来予想を妨げる。
すなわち、
物語の流れが停止する。

物語は、
物語自身の流れのほかに、
「観客の気持ちの流れ」が存在する。
物語自身の流れで、
観客の気持ちの流れをコントロールしようとしているわけだ。
ちょうどよく一致した時が、
乗ってるとか感情移入とかいうわけだ。

これが、妨げられる。
嘘が2個以上あると、予想ができなくなってしまう。

だから、冷める。

冷めるというのは、
「その嘘をまるで本当のように感じること」を、
放棄するということだ。


このルール(マナー)は、
物語内のこととは関係がない。
観客との関係性のことについて言っているのである。


仮に、科学的常識だとしても、
観客が理解できないことは嘘に数えて良い。

たとえばテンソル代数と、
波動方程式のふたつを持ってくると、
観客は予想ができず混乱するだろう。
光の波動性と粒子性の二重性だって、
科学的現実だというのに、
誰も理解してないし誰もこの先を予想できない。


あなたの世界に嘘はたくさんある。
本当の嘘はなにで、
あとの嘘は大体常識の範囲で予想できるかい?
そうでなければ、
観客の気持ちの流れは、混乱かまたは退屈なのである。
posted by おおおかとしひこ at 15:46| Comment(0) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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