フィクションでは、
「嘘はひとつだけ」というルール(マナー?)がある。
「常識から外れた設定は、最大ひとつ」ということだ。
大嘘が二つあったりすると話がややこしくなる。
しかしそもそも、ややこしい以前の問題だ。
なぜ嘘はひとつであるべきか。
たとえばスターウォーズを考えよう。
架空の星系の架空の人物たちの架空の国の物語だが、
これらは嘘に入らない。
なぜなら、「現実の常識で理解できるから」である。
架空の星系といっても、
科学の常識の範囲内で理解できる。
架空の人物といっても、
モンスター的な生き物でさえ、
そういう生き物が常識を覆す知性を持つわけではない。
架空の国といっても、
これまでの政治的歴史的常識で国家形態などは理解できる。
だからこれは嘘ではなく、
常識的な設定の範囲だと理解できる。
科学の常識外の星が存在するわけではなく、
(二重恒星系すら科学の常識の範囲内だし、
ブラックホール星系すらあるしな)
科学の常識の外の生物が存在するわけではなく、
(たとえば次元が異なる生物とか描写されない)
人類の知り得ない国家体制があるわけではない。
じゃあなんだろ。
ワープかな?
ワープは科学の常識外?
それほどでもない。
ワームホール理論などはあるし(未実証)、
そもそも「急行」の概念で理解できる。
ロボットや人工知能アンドロイドも、
ようやく科学が追いついてきた。
じゃあスターウォーズの嘘はなにか?
フォースだ。
この、
気功やヨガや超能力を混ぜたなにかが、
この物語の嘘だ。
フォースは存在するとして、
この物語はフィクションである。
だから、
それ以外の常識外の嘘をつくべきではない。
ファイナルオーダーはどうやって集めたのかとか、
何故Xウィングは錆び切ってないのかとか、
何故宇宙で音が聞こえるのかについて、
常識の範囲で答えられなければならない。
そしてこれらは、フォースの基本設定、
「才能ある者が鍛えれば強くなる超能力のようなもので、
しかし誤れば暗黒面に堕ちることにもなり、
死後霊体になれる」
から演繹できなければならない。
「フォースで腐敗を止めた」
「フォースはエーテルを通じて伝わり、
そのエーテルは音も媒介する」
と無理矢理考えることは可能だが、
それは自然な演繹とはいえない。
ここが大事なポイントだ。
観客は、
世界を理解しながら、
予想しながら、
見ているのである。
「あれはああいうことだったから、
これはこういうことだな」とか、
「あれはああいうことだとすると、
これはきっとこうだと予想できる」
などである。
つまり、
嘘が複数あると、
その理解や予想を妨げるのだ。
それが、混乱の原因だ。
Aという嘘とBという嘘があったとして、
AB同時になったら矛盾しないのかとか、
AからBを引いた部分はどうなるのかとか、
AでもBでもない部分は、AまたはBと補集合かとか、
予想できなくなるのだ。
つまり、
複数の嘘は、未来予想を妨げる。
すなわち、
物語の流れが停止する。
物語は、
物語自身の流れのほかに、
「観客の気持ちの流れ」が存在する。
物語自身の流れで、
観客の気持ちの流れをコントロールしようとしているわけだ。
ちょうどよく一致した時が、
乗ってるとか感情移入とかいうわけだ。
これが、妨げられる。
嘘が2個以上あると、予想ができなくなってしまう。
だから、冷める。
冷めるというのは、
「その嘘をまるで本当のように感じること」を、
放棄するということだ。
このルール(マナー)は、
物語内のこととは関係がない。
観客との関係性のことについて言っているのである。
仮に、科学的常識だとしても、
観客が理解できないことは嘘に数えて良い。
たとえばテンソル代数と、
波動方程式のふたつを持ってくると、
観客は予想ができず混乱するだろう。
光の波動性と粒子性の二重性だって、
科学的現実だというのに、
誰も理解してないし誰もこの先を予想できない。
あなたの世界に嘘はたくさんある。
本当の嘘はなにで、
あとの嘘は大体常識の範囲で予想できるかい?
そうでなければ、
観客の気持ちの流れは、混乱かまたは退屈なのである。
2020年01月05日
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