Kailh Creamに長短2本のスプリングを仕込むことで、
リニアバネでない振る舞いをさせることに成功。
「始動15g→アクチュエーションを過ぎると急に重くなる
→底打ちまでいかずに強い反発力で戻る」
という、
「hhkbのような挙動の、押下圧が軽いスイッチ」
になったと思われる。
仕込むバネはsprit designsの、choc用のバネ。
MXを使わない理由は、
それらのラインナップが揃う前に僕が揃えて持っていたから。
また、バネ長が短く、
始動高さが若干低くて、アクチュエーションまでの距離が短いような気がする。
スピードスイッチみたいになってる感じ。
クリームスイッチを使った理由は、
POM素材による自己ルブっぽい滑らかさが好きなので。
クリームスイッチは戻りの時に鳴りが大きいが、
僕はトップハウジングの下部分の、
ステムが当たるところに細長いテープ
(0.5mm×8mmくらいのもの)を貼り、
戻りのダンパーとしている。
これでほぼ静音化されている。
おそらくGateron Ink Silentと同等で、
なおかつゴム感がないので、
今最も気に入っている改造だ。
さて本題。
僕はこのスイッチを、
今まで、10g、15g、20g、25gの、
chocバネ、すなわちリニアバネを仕込むことで、
軽い押下圧のリニアスイッチとして使ってきた。
これを、非リニアに改造する。
アイデアはプログレッシブスプリングのうち、
不等ピッチ(プログレッシブピッチスプリング)。
バネを袋から出した時に、
バネ同士が絡まってひとつのバネみたいになることがあるが、
このようなものを、長短2本のバネで作る。
たとえば、
15gのバネの、下半分が1/2に切った15gのバネに寄り合わさっているような、
そんなバネを作る。
以下、これを【15+15/2】のように表記する。
上半分がノーマルバネのように振る舞うから、
始動から中間までは15gのバネのようになり、
中間からボトムまでは倍の重さのバネになる、
大体そんなイメージの、
二段階バネになるわけだ。
色々な試行錯誤の結果、
【10+15/3】【15+15/3】【20+25/3】【25+25/3】
の4種の二段階バネを得て、
打鍵感が生まれ変わったminiAxeとなった。
その試行錯誤を記録して、
同好の士に提供したい。
そもそもこのような打鍵感を求めたのは、
軽いバネにすると底打ちが激しくなるからだ。
始動の軽さはとても良いのだが、
減速空間が狭く、カツンと底にあたり、
それが時に不快になるからである。
クリームスイッチはその中でも底打ちがまろやかで気に入っていたが、
リニアで沈む以上、
激しい打鍵では底打ちが不快であった。
激しい打鍵の時は猛烈に書きたいときで、
それにブレーキがかかるのは筆記用具としておかしいと思ったのだ。
リニアバネである以上、
底打ちと始動は同じ。
ということは、違う振る舞い、非線形化できれば良いと気づく。
最初はフェルトのようなものを仕込めないかと考えた。
すっと沈み、とすんと吸収してくれるイメージ。
しかし4mmのストロークで、
1mm以下のフェルトでは、
対して吸収をしてくれないし、
戻りの力もないだろうことに気づく。
で、短いバネを重ねれば、というアイデアが出てきた。
以下に手順を示す。
注意: バネの扱いは難しい。
丸い指で丸い側面を触ると必ず滑ったり反発してどこかへ行く。
じゃあ縦に持てばいいかというと、ちょっとずれたらビヨーンと飛んで行く。
ピンセットで持つのがベストだが、
細かい工作を両手でするので、
どちらかは素手の方がやりやすい。
1. バネを切る
2. 重ねて蓋をしめる
この2手順に過ぎないのだが、
慣れても1スイッチ5分はかかる。
細かすぎるイライラ棒なので、
心を落ち着ける術を身につけられたい。
1. バネを切る
短バネをつくる。
まずは両端を落とす。
ここは固定をしやすいための部分で、
バネ力と関係ない部分だ。
むしろこれを残して長バネと組み合わせると、
「縮まない部分」が長くなり、
ストロークがおかしくなる。
その中落ち部分を、1/3に切るのがベスト解かな。
1/2に切ると、
アクチュエーションポイント(2mm/4mm)のあたりで重さを感じてしまう。
オンの認識までは軽く、
そのあと急に重くなるには、
中落ち1/3くらいが良かった。
1/4になると小さ過ぎてバネ力が失われる。
長バネと短バネは、同じバネを使うのがベスト。
異なるバネを使い、反力の強いバネを短バネにしてみたが、
バネの周波数(巻き/長さ)が違うと、
最小公倍数でしか接触しないので、
強いバネ鳴りがある。
同じ周波数のバネなら、線で接触するため、
バネ鳴りが起こりにくい。
また、今回ルブはしていないが、
バネルブをすればさらにスムーズになると思う。
ひとつのバネから、短バネは三つできる。
置いとくと転がってなくすので、
皿またはビニール袋に入れた方が良い。
また、僕のように変荷重で使う人は、
どれがなんのバネの1/3かすぐにわからなくなるので、
gを書いたビニール袋に毎回小分けすることをお勧めする。
2. 重ねて蓋をしめる
ここが非常に難しい。
簡単にぽろっと短バネが落ちるか取れる。
ついでになくす。
トップハウジングを下にし、
ステムの棒に二つのバネが刺さったことを確認して、
上からボトムハウジングをゆっくり閉める。
前後左右に傾かず、なるべくまっすぐ閉めること。
そうでないと短バネが収まらなくなる。
閉めたあと、ステムを動かしてみて、
リニアでない挙動になっていれば成功。
また、どういう理屈かわからないが、
成功してもバネ鳴りがすることがある。
バネ同士の重なりの具合が良くないのだと思う。
外してまたつけたら割とおさまる。
僕の場合、
【10+15/3】【15+15/3】【20+25/3】【25+25/3】
の4つのバージョンを作って、変荷重とした。
10gと20gのバネは、
15gと25gのバネを切って作ったため、
もとのバネを短バネに仕立てた。
これらをABCDで表記すると、
以下のような配置。
AABBB BBBAA
AACCB BCCAA
AADBB BBDAA
親指はA。
薬指小指は弱いので最軽。
ホーム段の人差し指中指は良く使う薙刀式前提なので、
一段重め。
中指下段は長い中指で押しにくく、
つい力が入ってしまうので最重とした。
(追記: 一日経って疲労度を考え、
AABBB BBBAA
AACBB BBCAA
AACBB BBCAA
に現在はなっている)
全体の打鍵感はなかなか言葉に表しにくいが、
「ふかふか」といった感じ。
「レッドカーペットを歩くような」とでもいえばよいか。
すっと打てて、そのあとふかっとする。
ふかふかを感じた時には既にONなので、
タクタイルの代わりがふかふかなスイッチ、
というのがイメージか。
ほとんど抵抗なく沈み、沈みを感じた時には既に打鍵されている。
しかも戻りは強く戻れる。
撫で打ちに適したバネプロファイルといったところか。
今の自作キーボードのトレンドは、
「重め+ルブ+タクタイル」だと思う。
これも結局、
「なめらかに押せて、底打ちの感覚がそれとは異なる感覚がある方が良い」
みたいなことで、
僕の改造は、それの軽い版だと思うとわかりやすいか。
(タクタイルだと、15gよりタクタイルが随分大きく見えるので良くない)
根気とバネとニッパーとピンセットさえあれば、
誰にでも出来る改造なのがポイント。
まだルブは試してないけど、
ヌルヌルしたらバネを落としそうだな…
長短ダブルスプリング、おすすめです。
荷重曲線としては、タクタイルにやや近いという理解でしょうか?
そうですね。
タクタイルのカチッとした最後の抵抗の代わりに、
ふかっとした連続的な感触になります。
またタクタイルは反力がほぼ同じ力ですが、
これは戻りに反力があるので、抵抗をやや強く感じます。
この反動で次のキーへいきやすいし。
一日使ってみたところ、
バネ鳴りのあるものとそうでない個体差があり
(手作業のバラツキもあるし、バネ同士の相性もある)、
バネルブをするとバネ同士の抵抗がなくなるのでは、
と仮説を立てて、今油を仕入れにいく道中です。