漫画「風魔の小次郎」の魅力のひとつは、
そのスピード感にあると思う。
疾きこと風の如く、じゃないけど、
疾走感というか引っ張る力はすごくある。
その秘密を脚本論的に考えてみる。
それはおそらく、
「始まる前に一段階進んでいること」
ではないかと思う。
どういうことだろう。
「夜叉八将軍が勢揃いし、
風魔の名簿を武蔵に渡し、
次に会う時がいよいよ開戦かと思われた矢先、
不知火が既に死んでいた」
というシーンで象徴されると思う。
セットアップ→展開→結末、
というループの長編漫画において、
セットアップと展開の第一を同時にやるというか、
始まったと思ったらもう始まっている、
みたいな感覚を作ることに成功していると思う。
よし、やるぞ
→実はもう一個終わっている
→な、なにい?!
という一個前倒しになっている「なにい!?」
感が、スピード感の秘密ではないだろうか?
聖剣戦争編において、
そんなセリフが連発されていた。
たとえば究極版3巻冒頭、
オズの「竜魔よきさまの征嵐剣は早くもこのオズが頂いた」
なんてのがそうだ。
まだ一発ジャブ打っただけの癖に、
もう結論を出す。
この感じ。
下手したら「ただの勘違い野郎」になりかねない、
半分ギャグになりかねないこのラインが、
風魔のスピード感の生命線なのではないか。
そこで「な、なにい?!」と本気で驚けばそのグルーヴは生きるし、
そこで「んん?」と滑れば、
グルーヴは縮んで行く。
夜叉編はそのグルーヴがうまくはまっていて、
聖剣編前半はそれが最高潮だった
(風魔の里全滅→飛騨一族全滅→雷光剣の流れはほんとに凄い)
が、後半戦はそれが滑り始め、
反乱編に至ってはただの勇み足のように成り下がっていたと感じる。
一歩先を行く男、車田正美が、
世間に追いつかれたのが、
風魔という漫画の、
スピード感と失速感ではないかなあ。
脚本論的に考えれば、
このテクニックは「将来の前借り」だとも考えられる。
ツケは未来にやってくる。
そこでどんでん返せれば前借りを一気に清算できる。
たいていはツケに押しつぶされる。
ノープランハッタリはするものではなく、
計画的な前借りであるべきだろう。
2020年01月25日
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