映画が、ゲーム実況動画に負けた、
歴史的瞬間かも知れない。
没入感がある体験型ムービーなんて、
もう意味がない。
CG空間で作ったゲームやVR(双方向性が高い)か、
または「実体験」の方が強いわけだ。
じゃあ映画に出来る、
映画特有のことはなんだろう?
ネタバレ上等で。
感情移入だと僕は思う。
感情移入については、
ここで僕独自の感情移入論を展開してるので、
詳しくは語らない。
体験は感情移入ではない。
共感も感情移入ではない。
体験も共感もしたことがないことを、
「これが自分に起こったらどうするだろうか」
と想像することのことである。
身近な題材の方が感情移入しやすいという神話は間違っている。
感情移入させることが、脚本家が簡単である、
という言い訳に過ぎないと僕は思う。
僕らは、外国人の話だろうが、
犬だけしか出てこない話だろうが、
宇宙人の話だろうが、
感情移入できる。
たとえば今回の例では、
「上司の無茶振りを忠実にやらなければいけないが、
実はそのことについて、個人的やりがいを感じていた」
のように、
戦場の話であるのに、
僕らの日常となんら変わらない理由で、
主人公が任務に出発すれば、
僕らは感情移入できたと思う。
この、
一見僕らと関係ないシチュエーションと目的のストーリーに、
「我々と同じようなことをやっているなあ」
と思わせる何かのことを、
感情移入の仕掛けという。
だから、我々は過去の戦争の、イギリス人の伝令という、
全く関係ないものへ、想像を巡らせることが可能になる。
一人称は無理やり体験させる、
強制ライドである。
だから巻き込みには強いが、
巻き込みも15分もすれば飽きてくる。
この主人公に感情移入するのは、
せいぜい弟の方が死んだ時だ。
そのあとトラックの轍を一人でもなんとかしようとして、
「急ぐんだ」と言ったところくらいだろうか。
これは弱いと思う。
死ぬ前に感情移入に値する、
何かしらのエピソードがあってしかるべきだろう。
もっとも、弟の方を主人公だとミスリードさせておいて、
「戦場では誰もが死ぬものだ」
ということを描くがために、
わざと主人公を目立たせないようにしていた仕掛けはある。
だからといって、
その主人公に感情移入できなければ、
ただの障害物競争でしかない。
感情移入さえ出来ていれば、
じゃんけんですら最高のクライマックスになるのだ。
(AKBのじゃんけん大会を思い出そう)
巻き込まれたすごいアクションなんて、
必ずしも必要はないのだ。
彼女の返事がOKかどうかがクライマックスになるのが、
ラブストーリーというものではないか。
派手なアクションへの没入なんかどうでもよくて、
主人公への感情移入こそが重要なのだ。
それには、
エピソードが必要だ。
なぜ彼は進むのか。
鉄条網で怪我して、死体に手をついて、
水で洗って、は、
キャラ付けにはなっているが、
感情移入の為のエピソードではない。
「黙々と遂行するキャラ」付けにはなったが、
それはただの説明に過ぎず、
彼の動機に感情移入する仕組みになっていなかった。
「メダルなんて意味がないので売った」エピソードは、
ラストのメダルを渡すところと呼応していたが、
それと感情移入は関係ない。
だとしたら、
冒頭の寝起きで、メダルの話から入るべきだろう。
「お前こないだなんでメダルを売ったんだ」とかね。
「メダルなんて価値がない。
人に価値がある」みたいなキャラクターで、
だから「兄のメダルと兄の命なら、
命をとるだろ。そのために伝令に行くだろ」
と言わせれば、彼なりの人生観が見えて、
感情移入の糸口となったのではないか。
(これだけでは足りなくて、
もう2、3回彼の動機が見えてくるエピソードを重ねる必要はあるだろう)
こうしたことを、台詞ではなくアクション(動詞)
として見せることをやっていれば、
主人公への感情移入が形成されると思う。
このようなことこそが、
映画に出来る一番大事なことではないだろうか?
その感情移入した主人公が、
何か困難を乗り越えて何かを成し遂げるからこそ、
テーマが伝わり、
我々は感動するという仕組みが、
映画そのものの仕組みだと僕は考えている。
で、この映画のテーマはなんやったっけ。
なんにもないよね。
やっぱ実況動画見とけばよかったかな。
2020年02月19日
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