2020年02月19日

ゲーム実況になくて映画にあるもの(「1917」評3)

映画が、ゲーム実況動画に負けた、
歴史的瞬間かも知れない。

没入感がある体験型ムービーなんて、
もう意味がない。
CG空間で作ったゲームやVR(双方向性が高い)か、
または「実体験」の方が強いわけだ。

じゃあ映画に出来る、
映画特有のことはなんだろう?

ネタバレ上等で。
感情移入だと僕は思う。

感情移入については、
ここで僕独自の感情移入論を展開してるので、
詳しくは語らない。

体験は感情移入ではない。
共感も感情移入ではない。

体験も共感もしたことがないことを、
「これが自分に起こったらどうするだろうか」
と想像することのことである。

身近な題材の方が感情移入しやすいという神話は間違っている。
感情移入させることが、脚本家が簡単である、
という言い訳に過ぎないと僕は思う。

僕らは、外国人の話だろうが、
犬だけしか出てこない話だろうが、
宇宙人の話だろうが、
感情移入できる。


たとえば今回の例では、
「上司の無茶振りを忠実にやらなければいけないが、
実はそのことについて、個人的やりがいを感じていた」
のように、
戦場の話であるのに、
僕らの日常となんら変わらない理由で、
主人公が任務に出発すれば、
僕らは感情移入できたと思う。

この、
一見僕らと関係ないシチュエーションと目的のストーリーに、
「我々と同じようなことをやっているなあ」
と思わせる何かのことを、
感情移入の仕掛けという。

だから、我々は過去の戦争の、イギリス人の伝令という、
全く関係ないものへ、想像を巡らせることが可能になる。


一人称は無理やり体験させる、
強制ライドである。

だから巻き込みには強いが、
巻き込みも15分もすれば飽きてくる。
この主人公に感情移入するのは、
せいぜい弟の方が死んだ時だ。
そのあとトラックの轍を一人でもなんとかしようとして、
「急ぐんだ」と言ったところくらいだろうか。

これは弱いと思う。

死ぬ前に感情移入に値する、
何かしらのエピソードがあってしかるべきだろう。

もっとも、弟の方を主人公だとミスリードさせておいて、
「戦場では誰もが死ぬものだ」
ということを描くがために、
わざと主人公を目立たせないようにしていた仕掛けはある。

だからといって、
その主人公に感情移入できなければ、
ただの障害物競争でしかない。

感情移入さえ出来ていれば、
じゃんけんですら最高のクライマックスになるのだ。
(AKBのじゃんけん大会を思い出そう)
巻き込まれたすごいアクションなんて、
必ずしも必要はないのだ。

彼女の返事がOKかどうかがクライマックスになるのが、
ラブストーリーというものではないか。
派手なアクションへの没入なんかどうでもよくて、
主人公への感情移入こそが重要なのだ。

それには、
エピソードが必要だ。

なぜ彼は進むのか。
鉄条網で怪我して、死体に手をついて、
水で洗って、は、
キャラ付けにはなっているが、
感情移入の為のエピソードではない。
「黙々と遂行するキャラ」付けにはなったが、
それはただの説明に過ぎず、
彼の動機に感情移入する仕組みになっていなかった。


「メダルなんて意味がないので売った」エピソードは、
ラストのメダルを渡すところと呼応していたが、
それと感情移入は関係ない。
だとしたら、
冒頭の寝起きで、メダルの話から入るべきだろう。
「お前こないだなんでメダルを売ったんだ」とかね。

「メダルなんて価値がない。
人に価値がある」みたいなキャラクターで、
だから「兄のメダルと兄の命なら、
命をとるだろ。そのために伝令に行くだろ」
と言わせれば、彼なりの人生観が見えて、
感情移入の糸口となったのではないか。
(これだけでは足りなくて、
もう2、3回彼の動機が見えてくるエピソードを重ねる必要はあるだろう)

こうしたことを、台詞ではなくアクション(動詞)
として見せることをやっていれば、
主人公への感情移入が形成されると思う。


このようなことこそが、
映画に出来る一番大事なことではないだろうか?

その感情移入した主人公が、
何か困難を乗り越えて何かを成し遂げるからこそ、
テーマが伝わり、
我々は感動するという仕組みが、
映画そのものの仕組みだと僕は考えている。


で、この映画のテーマはなんやったっけ。
なんにもないよね。

やっぱ実況動画見とけばよかったかな。
posted by おおおかとしひこ at 23:38| Comment(0) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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