2020年02月25日

問いと答え

「なぜか?」
人は問う生き物である。
「こうだ」となってスッキリする。

このジャンルにはふたつある。
科学と、物語である。

(単純な一対一対応をクイズと呼ぶが、
単純なのでここでは省略)


科学と物語の差はなんだろうか。


科学は、問うことに対して答えがあるとは限らない。

なぜ宇宙はできたのか?
いつできたのか?
どうやってできたのか?
宇宙は終わるのか?

などについては、昔から問われるが答えは出ていない。
一方、

空はなぜ青いのか?
一年で太陽の位置が動くのは何故か?
磁石が北を向くのは何故か?
月へ行くには何を準備すればいいか?
「このクラスに同じ誕生日の人がいる」に賭けるには、
1クラス何人からが有利になるか?

などについては、答えが出ている。

科学とは、
問いと答えの組のことであり、
「なぜならば」という理論の組である。

しかし、すべての問いに対して、
こうだという答えがあるわけではない。

あることに答えが出れば、
じゃああれは?と思うのが人間で、
その全てに対して答えは出ていない。

つまり科学は、
未解決の問い、
解決された問いとその答え、
なぜならばという理論、
この三つの組で出来ている。

これを、「開いた集合」ということにしよう。


物語は、「閉じた集合」でなければならない。

すべての問いに、納得のいく答えがなければならない。
未解決の問いは存在してはならないし、
なぜならばという理屈に齟齬や矛盾や、
期待外れがあってはならない。

物語は、
「なぜ?」に対して、
「なるほど!」を、
うまく与えるエンターテイメントだ。


その最たるものはミステリーだと想像することはできる。

しかしミステリーばかりが謎解きではない。
ミステリージャンルでないものにだって、
問いと答えはある。

「この興味ある状況において、どのように解決するのか?」
は、最大の謎解きだと言ってもよい。
センタークエスチョン、
たとえば「地球は救われるのか?」「彼女のハートはゲット出来るのか?」
などは、最終的に「イエス」になるのが物語というものだが、
「じゃあどうやって?」は、
最大に謎でなければならない。

「自明である」とか、「二手三手で解決できる」
では面白くない。
謎が解決してしまうからだ。
ぎりぎりわからないものを、
ぎりぎりかけて解いていく、
物語とはすべからくミステリーなのである。

狭義のミステリーは、犯人、殺人の方法、
アリバイなどの問いに明快な答えを用意するジャンルであるが、
殺人以外の何かも追求していくという意味で、
物語とは広義のミステリーである。


あの人がこう言った意図は何か、
これを解決するたった一つのやり方とは、
あの組織の目的は何か、
なぜやつはこうしたのか、
渡した手紙の内容、
考えついた作戦。

いろんなところに、問いを仕込むことができる。

そしてそれが、
「見事に噛み合って、ひとつの理論をなす」
から、
物語はすっきりして、
「おもしろい」
となるのではないか?


ストーリーの魅力は、
キャラクターやシチュエーションにだけあるのではない。
こうした、
時間軸を追った、
問いのリストと答えのリスト、
そして「なぜならば」の理屈。
それらが噛み合って、
はじめて物語たりえる。


科学と物語の違いは、
科学は開いた集合で、
物語は閉じた集合であること。

科学の答えと理論は、納得いけばそれでよいが、
物語の答えと理論は、おもしろく腑に落ちなければならない。

科学のキャラクターやシチュエーションは魅力的である必要はないが、
物語のそれは、魅力に溢れるべきである。

そして、科学と物語の最大の違いは、
「何もかもわかった」ときに、
それにどんな意味があるのか、
科学は答えないが、
物語は答える、
ことにあるのではないだろうか。
posted by おおおかとしひこ at 11:44| Comment(2) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
いつも、参考になる記事の投稿、ありがとうございます。毎回考えさせながら、大変興味深く拝見しています。
フジテレビの主催する、ヤングシナリオ大賞というコンクールの応募締め切りが今月末にあるのですが、私はそれに応募しようとある作品の執筆に取り組んでいました。
途中何回かくじけそうになる度に、こちらのブログからヒントを頂き昨日無事に65分の作品を最後まで完成させ応募することが出来ました。
今回とにかく、こちらで提示されている「この不幸なる主人公は善人である」というアドバイスを意識して、何度も主人公の設定に最後まで微調整を重ねました。
コンクールにて、自分の作品が評価されるかはわかりませんが、投げ出さないで脱稿出来たのは、このブログのおかげだと感謝しています。
ありがとうございました。
Posted by 解無後 at 2020年02月25日 12:14
解無後さんコメントありがとうございます。

とりあえずお疲れ様でした。
沢山の「なりたい人たち」はいるものの、
誰も脱稿までやりたがりません。
それは、自分が何者であるか見積もられるのが怖いからだと思います。

たかがコンクール。
これから何十本書くものの、たかが初期作品です。
以後筆を折るまで、「お前は誰か?」を問われ続け、
示し続けなければなりません。

この世界に、価値ある物語を書いてください。

コンクールに落ちようが合格しようが、
最終選考に残ろうがぼろくそに言われようが、
闘いはこれからです。
Posted by おおおかとしひこ at 2020年02月25日 14:46
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