2020年02月27日

勢い

勢いとはなんだろうか。
「一度も落ち着かないこと」だと思う。


どういうことだろう。

最初の勢いを作ることは比較的出来ると思う。
ひとつの危機があればいいということになる。
単純にいうと、「死にそう」があればいい。
殺人鬼に追われても、
明日までに借金を返さないとアパートから追い出される、
でもなんでもいい。
とにかく危機に陥れば、
勢いが出る。

死にそうだからアドレナリンが出て、
なんとかしないといけない、
非常事態になればいい。

とにかくその状況になれば、
観客も集中してみてくれるだろう。

少しのミスが命取りになるが、
それを間違わず、
精一杯の状況でやっていかないといけない、
そういうアラームが鳴っている状況は、
映画というリアルタイムの物語にとても合うと思う。

漫画や小説では、途中で自由に休めるからね。
そうではなく、強制的にスクリーンから流れて、
一時停止もあとで見るも出来ない、映画というジャンルは、
危機を描くのに適したメディアだと思う。


さて。このあとが問題だ。

人間は危機に慣れる。
「夏休みの宿題が終わっていない」状況があっても、
慣れてしまったことを思い出せば分る。

同じ危機では、慣れてしまう。
危機は、より強くならなければならない。

ということは、必然的に、
「危機があり、
次の危機はそれ以上になり、
その次の危機はそれ以上になり……」
というループが起こらなくてはならない。
ジャンプ漫画のインフレの理由と同じだ。

あとは、
最初の危機をどれくらいに設定するか、
次の危機の階段をどれくらいの高さに設定するか、
次の危機までの時間をどれくらいに設定するか、
という、
階段のデザインをすればいいということになる。


間が空きすぎると退屈が襲ってくるし、
すぐに次の危機が来すぎると、準備できていないこともあるだろう。
(度肝を抜くために、準備できていないときに危機をもってくるテクニックもある)

危機の度合いが小さいならば、
そんなに危機感がないだろうし、
大きすぎるなら絶望のほうが大きい。

理想は、
予想していないときに、
突然絶望的なものを突きつけられ、
しかもそれが見事に解決し、
ちょっとほっとしたら、
予想のつかない時に、
突然これまで以上の絶望を突きつけられ……
の繰り返しだろう。


それが難しいことは、やってみればすぐに分る。

危機の階段、解決の階段を創作することは、
かなり難しいことだからだ。

だから、これをコントロールしきれれば、
すごい面白いお話になること請け合いだ。


すぐに考えられる優しい方法は、
最初の危機のハードルを下げることで、
そうすれば楽に階段を設計できるのではないか、
と思うことだろう。
しかし、意外とこれはうまくいかない。

最初のハードルがぬるくても許してくれるが、
次のハードルもぬるかったら、
これはぬるい話である、と認定されてしまう。
ぬるいのが許されるのは、一回までだ。


予想もつかない危機を、
予想もつかない冴えたやり方で切り抜けるのが、
面白い話というものである。

ということは、最初から、危機は全開でなければならない、
ということになる。
「最初っからクライマックスだぜ!」
にならない限り、
人はそれを見てアドレナリンが上がらないということだ。

で、そのアドレナリンが収まる前に、
次の種類のアドレナリンを用意し、
花火は次々に繋がっていかなければならない。

まことに、面白いストーリーというのは難しい。


面白いストーリーは、時間を忘れさせる。
それは、ずっとアドレナリンが出放しだったということだ。
アドレナリンが出ていると、時間感覚が疎くなるからね。
(そうしないと死ぬからだろう。
緊急事態がずっと続く感じだ)

だから、そういった話を見たあとは、
どっと疲れる。
でもその疲労は、満足度があればあるほど、
最高の体験をしたというものになっているはずだ。

良いストーリーはセックスに似ているというのは、
このアドレナリンから見た見方であると思う。


危機とはとにかく、人間が裸で放り出されることになることだと、
僕は考えている。

準備万端、フル装備、心の準備も覚悟が出来ている、
そういう状態で危機など訪れない。
だから面白いのだ。


とにかく安心させないように、
危機また危機になるように、
危機の順番を考えよう。

なるべくムチャぶりになるように、
なるべく爽快にそれを解決するように。
posted by おおおかとしひこ at 16:13| Comment(0) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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