2020年04月23日

名画劇場22: 天使にラブソングを…

コメディ脚本の教科書である。
有名だけど見たことない人は見ておくとよい。
これを自分で書けるかを考えるために。
ついつい歌の部分に目が行きがちだが、
歌のところは「歌う。」しか脚本では書かれず、
あとは監督の仕事になる。

つまり、歌以外のストーリーパートがシナリオの仕事だ。
以下ネタバレで。



非常に簡単な構造なので、
ハリウッド映画のストーリーの基本構造が、
とてもわかりやすくなっていると思う。

アイデアの根本は、「逆」である。

一番根本は、
「厳粛な聖歌隊を、
ハチャメチャ黒人シンガーが指揮したら?」
だろう。
静粛な聖歌を、現代のノリノリに出来るのでは?
という発想だ。

これは面白い、と思った時、
じゃあ、どういうひょんなことからそうなるのか?
を考えるのが脚本家の仕事である。

このシナリオの場合は、
「殺人事件の目撃者になったがために、
裁判が始まるまでの二週間、
シスターとして身を隠す」
という、いかにもアメリカ映画にありがちなパターンだ。

全く同じ構造は、
「刑事ジョンブック/目撃者」でも使われている。
「殺人事件の目撃者である子供の住む街に、
怪我が治るまで身を隠して守る刑事」
だ。

異世界に身を投じる理由、
殺人事件の唯一の目撃者、
そして、
「締め切りがある」
ことが共通した構造。

最初は「○○日いるだけだから」と言い訳するが、
その異世界とあまりに違う習慣にトラブルを起こしまくり、
そのうち異世界にないものがあることで、
良い変化を及ぼして、
「帰りたくない」と思わせ、
せつない話へなってゆく、
黄金のパターンである。


全ては対比的だ。

普通の街と、ギラギラの賭博の街。
庶民と警察と、ギャングたち。
貧乏な教会と、金でうずまくステージ。
信頼や許しと、裏切りと殺し。
美しくハモる聖歌と、ステップや手拍子やセリフもある黒人のソウルフルな歌。
厳粛な生き方と、破天荒な生き方。
権威と、反抗。
誰かの役に立ちたいというシスターと、誰の役にもたってない売れないシンガー。
白人と、黒人やヒスパニック系。

それらが、アウフヘーベンする。
いい融合をする。
これが面白さの秘密である。

対比的だから、対立する。
コンフリクトだ。

こういう時は「敵」を作るのだ。
厳粛で古い価値観の婦長がそれだ。

そして味方を作るのもコツだ。
デブとヤセの友達と、
神父である。


これらの人間関係こそが、
中盤の見どころである。
コンフリクトすることで、
人々はぶつかり合い、互いのいいところを見つけていく。

婦長はただのうるさいおばさんではなく、
法王の視察に対して、
伝統的な聖歌を歌うべきか、ノリノリのやつをやるべきか、
挙手を問う場面(対立だ)で、
きちんと民主を重んじるところがよい。

ぶつかって初めてわかる、
その人の良さがある。
この婦長の良さは、
ぶつからなかったら、
ただのクソババアで終わってわからないままだったのだ。


あとはお決まりの、
刑事、ギャング、内通者の構造だ。

この映画のユニークな部分は、
とりわけウーピーの立場だろう。
ギャングの愛人で、いつか結婚してもらうことを願う女だ。

ファーストエピソードが、
このキャラクターを決定的にする。
「デート出来ないお詫びに、
ミンクの紫のコートをプレゼントしてくれたのだが、
それは妻のイニシャルの入ったコートの使い回し」
というものだ。
ここが強烈なゆえに、そして彼女のリアクションが濃いゆえに、
私たちは彼女に同情することになる。
ここが感情移入の第一歩であることを確かめられたい。


女の主人公の場合、
メアリースーになる場合は、
ビッグファーザーの導きや加護があることがある。
男の主人公の場合のメアリースーで、
ビッグマザーがいることと、
対称的である。

このストーリーの場合、
ギャングのボスが、ビッグファーザーかつ敵で、
神父がビッグファーザーかつ味方、
という構造になっている。

婦長との確執は、娘と母の対決の擬似だとも見える。
「お父さんなんとか言ってくださいな」
「いいんじゃないか、お客さんも来たし」
みたいな、わがまま娘の店繁盛記とも見れる構造である。


これらのいわば平凡な(よくある)構造を、
「黒人シンガーが白人教会社会に潜入する」
というハチャメチャな構造の中で描いたから面白いわけだ。

日常世界に、異物が放り込まれたわけだ。
逆から見れば、日常から異世界へ放り込まれるわけだ。

こうした物語の基本構造が良く出来ている。


他の登場人物がセリフを言っているような基本的な描き方に対して、
ウーピーだけがまるでアドリブで言っているような印象を受ける。
こうした対比も、「逆」を利用している。
画一的な感じと自由な感じ。


シスターたちが影響を受けて、
どんどん生き生きしていくのが面白い。
ついにラスベガスみたいな街に、
ヘリでみんなで乗りつけるに至っては拍手喝采である。
こんなヘンテコな絵面は見たことがない。
この異物感の面白さこそが、
笑いであり、映画の面白さである。


これらのハリウッド映画の、
代表的な構造のてんこ盛りを、逐一チェックして書き出すと、
他の映画でも似たものを見つけやすくなるだろう。



邦題があんまりよくない。

原題は「Sister Act」。
シスターのフリをする、という潜入ものの意味と、
シスターのステージ、という聖歌隊のことの、
ダブルミーニングになっている、
優れたタイトルだ。

「天使にラブソングを…」は誤った邦題である。
天使もラブソングも出てきやしない。
「…」のせつないニュアンスもない。
ただのドタバタコメディだ。
「天 ソング」しか合ってない。
「ウーピーの聖歌隊」ぐらいが、まだ内容に合っている。
公開当時はまだドリフの聖歌隊コントが記憶にあっただろうに。

黒人のソウルフルがおしゃれだったということもあるので、
なんとなくおしゃれタイトルになってしまったのが残念ポイント。
コメディかどうかすらわからないからね。

あなたならこのストーリーに、
どういう力強いタイトルをつけるか、
考えるのも練習になる。


ついでに僕も考えてみた。本記事はこれでおしまい。
回答例は大量改行後。























我らが神は、ソウルフル
天使の声はソウルフル
ソウルシスター
グレート聖歌隊
posted by おおおかとしひこ at 00:09| Comment(0) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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