2020年04月25日

魅力的な世界観はストーリーではない

仮想現実では、思ったことが具現化する。
コールドスリープを繰り返しながら何世代も続く宇宙移民船。
超能力を手に入れたと思ったら、敵にもいた。
重力変動下の世界では、重力兵器が生まれる。

なんでもいいんだけど、
こういう魅力的な世界観は、映画の魅力の一つだ。

しかし、これとストーリーはほとんど関係ない。


なぜなら、
同一の世界観を使って、
別の人物の別のストーリーを書くことが出来るからである。

たとえば、ガンダムの世界設定を用いて、
いくつの主人公とストーリーのバージョンがあるというのだ。

魅力的な世界を作ることは非常に魅力のある行為だが、
我々が苦心するストーリーとは、
なんら、ほぼ、関係ないと断言しても良い。


なぜなら、
殆どのストーリーは、
現実で起こることに置き換えることが、
大体できるからだ。

たとえば「アイアンジャイアント」は、
鉄の巨人と出会った少年の話で、
それをめぐるナチスと戦う世界観なのだが、
その世界観と関係なく骨格だけを抽出すれば、
「捨て犬を拾った少年」の世界に置き換えられる。

逆に言えば、
「捨て犬を拾った少年」を、
アイアンジャイアントの世界観に放り込んだものが、
「アイアンジャイアント」という映画なのだ。


だから、結局、
ストーリーというのは、
日常の、この世界でも成立する何かを、
その世界観で増幅したに過ぎない。

語られるものは、
人間の気持ちであり、
人間関係の対立であり、
伏線や行動や結果や小道具やターニングポイントなのだから、
ストーリーそのものには世界観は関係ないのだ。

世界観は精々ガジェットに過ぎない。


もしあなたが、
世界観を構築することが、
堪らなく面白くて、
そんなことばかり夢想しているならば、
それはそれで貴重なので記録しておくべきだ。

しかしその間、
ストーリーはひとつも出来ていないことに注意されたい。
ストーリーの構築は、
世界観構築とは、まったく別の次元の出来事だ。



このことが分かってくると、
現実でも成立するストーリーAを、
世界観Bの中に放り込むと面白いぞ、
などという発想をすることが出来る。
あるいは、Aを放り込むと面白そうな世界Cをクリエイトしてみようと、
発想することも可能だ。
逆に、世界観XでストーリーPQRなどを思いつき、
シリーズ化することもできるかも知れない。

あるいは、
ある映画から世界観XとストーリーAを分離して、
YやBに置き換えることを頭の中でできるようになるかも知れない。
まったく別の話に見える複数の映画から、
ストーリーの骨格だけを抜き出して比較することも、
可能になるだろう。


世界観とストーリーは別だ。
だから、組み合わせることを選ぶ自由があるぞ。


(追記:
「めちゃくちゃ魅力的な世界観なのに、
ストーリーが全然詰まらない映画」の例。
「スチームボーイ」「オネアミスの翼」
「ワイルドワイルドウェスト」
これらを見れば、
世界観は映画そのものではないことが理解できるだろう)
posted by おおおかとしひこ at 00:10| Comment(4) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
大岡さん
こんばんは
ウイルスが蔓延する世界とか、地震が多い世界とかは題材するのは駄目なのでしょうか?
風刺的になりえて自重した方が良いのでしょうか?
Posted by むらさき at 2020年04月25日 04:00
>むらさきさん

僕は不謹慎も芸術だと思ってるので、駄目とかいいとかはないと考えます。
問題は、「地震こわいぜーひゃっほう」「ウイルスやばいぜーひゃっほう」
と、世界観を楽しんで終わりの遊園地になることだと考えます。

問題は「そこでどんなストーリーがあるのか」
「そのストーリー全体でどんな意味があるのか」
「それがこれまで作られたあらゆるストーリーと比べて、
どこが新しく優れていて、どこは平凡か」
だと考えます。

追記に「すげえ世界観なのに駄目な映画」の例をあげました。
「ワイルドワイルドウェスト」とか、予告で凄い楽しみだったのになあ。
世界観に酔うとああなってしまいがち。
未見ですが、世界各国の都市がハウルの城みたいになってる、
「移動都市/モータルエンジン」も同じ匂いがする。
そういえばハウルも世界観だけのクソ映画だったなあ。
Posted by おおおかとしひこ at 2020年04月25日 11:38
アイアンジャイアントにナチスは全く出てきませんよ。
そこだけ気になったのであしからずご了承ください。

Posted by kentya at 2020年04月29日 15:10
kentyaさんご指摘ありがとうございます。

ショッカーもナチスなので、
ナチス的なイメージの科学組織くらいの意味で読解しておいてください。
子供から見れば軍隊もナチスも同じくらいの粒度で。
Posted by おおおかとしひこ at 2020年04月29日 16:05
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。