2020年04月25日

日本映画の限界集落(「岬の兄妹」評)

一部で話題になったので見てみた。
ただの70年代エログロナンセンス。

以下ネタバレ。


「赫い髪の女」(神代辰巳)を代表とする、
70年代にっかつロマンポルノは、
セックスさえ描けばあとは何をやっても良い、
という無茶苦茶で、
映画をやりたいやつがフィルムを回せるという理由で、
大挙して野心的な作品がつくられていた。
(井筒和幸もそこ出身)

セックスが絡む以上、
人間のドロドロとした何かを描くことになる。

汗臭い、貧乏くさい(これは予算の問題もあるが)、
ドロドロとした何かが、
よく描かれていた。

同じものは「ガロ」にもあったと思う。
つげ義春なんかは今でも入手可能だろう。

それらは、エログロナンセンスという呼ばれ方の、
一ジャンルに入れられた。

予算不足だから、
エロ以外に出来るセンセーショナルなことはグロしかなくて
(エロスとタナトスと対になるものだし)、
結局、
人間のセンセーショナルな何かを暴き出したって、
「それが何かになる」
という意味をなすものではないから、
「暴露」で終わり、
意味のないラストで終えざるを得ないものだった。

それを、ナンセンスという。

80年代は二次創作は「ヤオイ」と呼ばれ、
山なし、落ちなし、意味なしの三なしばかりだった。
(ヤオイがBLを意味するのはもう少し先のこと)

つまり、
センセーショナルな刺激は、
意味(テーマ)や山(テーマのためのクライマックス)や、
落ち(ラストシーンで意味の確定すること)は、
ペアとして存在しない。

その作品の存在意義が、「暴露」にあるからである。

暴露は開陳しておしまい。
そのあとの意味を考えるのは、
もう少し頭の良い人が考えてください、
という、
一種の逃げである。

期を同じくして、センセーショナルだが意味の後付けはしない、
写真週刊誌がブームになり、フォーカスフライデー戦争、
通称FF戦争が起こる。


その暴露の内容は、エロとグロ。
それを珍しやと覗き見して小屋賃を稼ぐ。
それはただの見世物小屋である。


そうしたエログロナンセンスは、
貧乏や下層民を描いているから下に見られたが、
ほんとうは、
ナンセンスだから下に見られていたのだ。

つまり、
「だからなんやねん」
に過ぎないからだ。



「岬の兄妹」は、それらを知らない世代に、
エログロナンセンスの凄みを与えて、
「無視できないなにか」という刺激を教えたのではないかな。

こんなん、僕は京都のポルノ映画館で山ほど見たわ。

AVは行為だけを取り出すので、「気持ち良かったからOK」と幸福感があるが、
エログロナンセンスはストーリーを取り出すため、
「この人たちが幸福になる」をうまく描けずに終わる。

なぜなら、
「貧困を解決する冴えたやりかた」は、
いまだ人類が発明していないからだ。

(「スラムドッグミリオネア」
「トレインスポッティング」など、
ダニーボイルは、一貫してこの、
「スラムからの脱出」をモチーフにしがち。
前者はクイズ番組の大賞金、後者は麻薬組織からの抜け駆け)


ということで、
貧乏で行き場のない登場人物たちは、
そこでぐるぐるして終わる。

つまりバッドエンドの無限ループ。

それに意味があるとすると、
「貧乏は抜け出せない」という恐怖訴求のみである。

それは、意味のないことだと思う。


意図的にそれを撮影したのだろう。
トップカット(真理子が行方不明になり、
フェンスにもたれて電話する)と、
ラス前を同じにしたことは、
表現として面白かった。

しかし、
バッドエンドの無限ループという、
エログロナンセンスとしては平凡な落ちにしてしまったのは、
これは死骸の群れに埋もれたな、
という溜息しかでない。



貧乏なエログロ世界は、
異世界である。

異世界をどう変えたかがテーマだ。

変わりませんでした=貧乏は無限ループです、
というのは、
あまりにも平凡な落ちだ。


フィルム撮影だったら、
ラストの真理子の笑顔ともなんとも言えない顔が、
一生残ったかも知れない。
だがデジタルビデオは、画質は鮮明なはずなのに、
なぜか記憶に鮮明に残らない。

「ビデオは記録、フィルムは記憶」
と言った人がいたが、
ドキュメンタリー的な空気は記録的だが、
「整理されて意味づけされたもの」
としての記憶に、
なっていないと考える。


中盤、
警官の友達にバレたところや、
高校生とのプールのエピソードは秀逸だったが、
「それが何にも繋がってこない」
ところが、物語としてはぶちぶちに切れた、
断片でしかない。
「その結果、次の変化が起こる」が、物語である。



で、一番いいたいことは、
日本映画の未来はこうなりかかってないか、ってことさ。
posted by おおおかとしひこ at 12:10| Comment(0) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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