2020年04月30日

【脚本添削スペシャル2020】2 印象批評

二本を批評していきましょう。


「化け物退治はスカートの中で」KYKY


タイトルがまず面白い。
大正ロマンぽくありながら、コメディなのだと察せられる。

しかし本編は、このタイトルに負けていたと思います。
ただ出会って退治することで終わっていました。

「スカートの中で」と言いながら、
結局は屋上のライトアップでやっつけているし。
クライマックスはぜひとも、
スカートをめくり切ったところにするべきでしょう。

ライトアップは伏線の見本のようで効果的ですが、
それを採用したがため、タイトルと矛盾をきたしている。

こういうときは、
ライトアップを生かして全部を組みなおすか、
スカートの中で全部やるべきかを、
選択しないといけません。
そのどっちつかずが、「何をやりたかったのだろう」
という読後感につながっていると思います。

また、この話のテーマはなんだろうか、と考えると、
とくにないんですよね。

「コロナで鬱々しているから、どうでもいいコメディで笑おうぜ」
という背景文脈的なことはよくわかるのですが、
だとしたら、現実の文脈など忘れさせるほどの、
夢中になれる、
まったく別のテーマが欲しかったところです。


さらに突っ込むために、
とりあえず原田さんの作品を批評します。




「夜が明けると、新しい風が肺を満たして」原田純愛


このタイトルも、コロナを意識したことは明白です。
いつか深呼吸を自在にしたいものです。
しかしこのタイトルを除いた場合、
あらわれてくるものが問題です。

ボーイミーツガールものの典型の話
(この場合ギャルミーツおっさん)ですが、
二人がどういう変化をするか、
がテーマとなってきます。

隆浩は妻子の死を乗り越え、ユーチューバーになったこと。
夏子は、なんだろう。

隆浩を立ち直らせたことはいいとしてて、
彼女自身の変化はよくわかりません。
父との和解はあるものの、それが彼女にとってなんなのか、
よくわからないままです。
「悪いことを悔い改めた」というには、
ちょっと足りない。

ひと夏の家出ものとしての大枠はいいものの、
父との和解にドラマが足りていないと思います。

ユーチューバーになるドラマで手一杯で、
そこまで手が届いていない感じがしますね。

実際、これはテクニック的に逃げることができて、
ユーチューバーになること自体は、
モンタージュで省略できるんです。
たとえば。

カメラで撮る、ネットにアップする、
再生回数が1になる、これ今見た回数だから。
もっとカメラで撮る、字幕を入れる、音楽を入れる、
5本動画をアップした、再生回数が6になった。誰か見てくれた?
動画は30本になった。再生回数100。いけるかも?

など、短いカットを積み重ねることで、
一気に省略することができる。
そうすると数行でユーチューバーになること自体は表現できてしまう。
だとすると、ユーチューバーになるドキュメントではなく、
人間ドラマに尺を使えるわけです。


原田さんは女性ということで、
メアリースーには、典型的なビッグファーザーが出てくるものです。
それが隆浩であり、実の父なのでしょう。
これは、娘が父に似た恋人を得て、
実の父から巣立つ話であるとも考えられます。
しかし、そこまでの深い話にもなっていなくて、
そこが物足りないところです。

夏子の友達はなにをやってるんだろう、
学校は、ダンス仲間はいるのか、
など、夏子の周辺が曖昧すぎて、
夏子と父の関係を濃く描くためにあえて省略したようにも見えません。
おそらく、考え切れなかったというのが正解でしょう。


全体にセリフが多く、
絵で見せるところが少ないように思えました。
それゆえ、「オリジナルの絵」が見つからないとも思いました。
「オレンジの仮面(服)のユーチューバー」
がこの話を象徴する絵だとすると、
それだけでは物足りない感じがします。

前回は「あんこ」や「二駅先」がオリジナルな絵になっていましたが、
ちょっとこれだけでは、
世の中に数あるいろんなストーリーから立つ要素には、
なっていないと感じました。

セリフに頼ることは、動きが少ないことでもあります。
ダンスを夏子が教えてうまく踊れるようになるとか、
動きにや絵に関することがないと、
ただしゃべっているだけになりそうです。


そして、この話のテーマはなんでしょう。
そこがしっくりこない。

父親は誤解しがちなものだとか、
父親からの自立とかが、
一応テーマらしきことになっていそうなものの、
ただの「出会って幸せになりました」でしかない。
ボーイミーツガールものの難しさはそこにあるのです。
なんだか少女漫画にありそうなシチュエーションをこさえて、
書けた気になってしまう。

たとえば、大林宣彦の「転校生」は、
入れ替わりギミックがあるから、
ただのボーイミーツガールでも面白みがあります。
(そして男女の肉体の差を意識する思春期ならではの、
「相手の肉体を知る」というテーマ性があります)

おっさんがユーチューバーになるギミック程度では、
バビ肉おじさんが乱立する現在では、
物足りないと思います。

隆浩のEDが治ってもいいし、
夏子がたとえばダンス動画では盛り盛りにウソをついているとして、
盛らない自分を認めることをしてもいい。

「おっさんをユーチューバーデビューさせること」
「夏子がダンス動画をやめること」を通じて(モチーフ)、
二人に何があったのか、
ということがテーマだと思います。

ラブストーリーは、一方の変化だけでは物足りません。
二人が出会ったことで、
「二人ともいい変化をした」ことを描くことが必要だと思います。
(そして理想は、それがテーマの裏表で、対になっていること)


で、仮にこの話に、
コロナを意識していないタイトルをつけるとしたらどうでしょうか。

「盛り盛りギャルが、おっさんの自殺を止めてみた」でしょうか。
「オレンジの仮面」でしょうか。
どうもしっくりこないということは、
本編が足りないことと関係していると思います。

「夜が明けると、新しい風が肺を満たして」
というのはなかなか魅力的なタイトルですが、
特にこの話とは関係のないタイトルです。
つまり看板倒れなわけです。

看板を掲げ、それにふさわしい内容を考えることはよくありますが、
結果、中身がそこに到達していない場合、
看板は取り下げるべきでしょう。
せめて、
クライマックスが夜通しの何かで、
夜明けとともに新しい風が吹いてきた、
などにすればギリギリそのタイトルでもいいかもしれません。

夜通し歩く伝統イベントがある高校なんだっけ、
あれの話でも成立するし、
獅子座流星群を見に行く天文部の青春ものでも行けるでしょう。
転校生がやってきたが馴染めず、
しかしこの夜の事件で新しい仲間として認められた、
みたいな話なら、このタイトルでもいいかも知れません。

また、わざわざ「肺」とあることから、
タバコをメインとした禁煙話や、
素潜りの話にしても面白そうです。
あるいは肺の移植手術の話でもいい。

このように、看板から想起される、
「おもしろそうだぞ」に応え切れた中身とは言えませんでした。
JAROに電話されちゃうね。




ということで、今回の添削作品は、
「化け物退治はスカートの中で」にします。

どちらもストーリーとしては足りない作品ですが、
スカートの方が絵の情報が強いため、
リライトでここに寄りかかることにします。

「夜が明けると」のほうは、最後に議論した通り、
1. 中身の構造ごと書き直して新しいタイトルをつけ直す
2. このタイトルで全く違う話をつくる
3. 中身の構造ごと書き直し、なおかつこのタイトルに相応しい話にする
の三択を迫られることになり、
これは多分に破壊的創作を求められて、
原型を留めなくなることが予想されるからです。

それよりも、「スカートの中で化け物退治する」
を残しつつリライトするほうが、
「添削」としてはギリギリ成立すると判断しました。


で、本編に至るその前に、
いくつか「夜が明けると」のほうの、
脚本テクニック的なアドバイスをしておくことにします。
次回。
posted by おおおかとしひこ at 09:46| Comment(0) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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