親指シフトを俯瞰して褒め称え、欠点を指摘しておく。
親指シフトは、親指に2個のシフトキーを新設した、
富士通独自のキーボードによる特殊カナ入力。
ワープロ時代最強の称号がある。
(現在はこの親指キー2個を、
スペースキー/変換キーの2個で代用して、
PCアプリ上で動かすことで実現できる)
いわゆるカナ入力(JISカナ入力)は、
50音のカナ(正確には46)、濁点、半濁点、句読点、長音の、
51キー(+シフトで小書き)を使用するが、
これはブラインドタッチではしんどい。
(数字段も含めて両手で扱えるのは、
片手5キー×4段、両手で40キー。
小指外に沢山キーが余るのがしんどい部分だ。
カナ印字キーボードがあるなら確認されたし)
親指シフトは、
数字段を除いた三段部分+@の計31キーに、
全カナを収めることで、
ブラインドタッチを容易に、高速化する方式だ。
普通に押す/左親指キーと同時押し/右親指キーと同時押し、
の3方式で打鍵する。
つまり31キー×3=93カナが収録されていて、
規則性がある。
△ ○゛
○
の図形で説明しよう。
○は、そのまま押すと出るカナ(単打)、31個。
△は、○キーと同じ手の親指と同時押しで出るカナ(シフト)、31個。
○゛は、○キーと逆の手の親指と同時押しで出る、○の濁音。
(○゛は明らかなので、配列図から省略されることが多い)
濁音は全部で21カナ(ヴ、がぎぐげござじずぜぞだぢづでどばびぶべぼ)。
ということは、○゛は、10余る。
ここに、ぁぃぅぇぉゃゅょっーなどが入っていて、
若干規則性を破っているのがややこしい。
最大の特徴は、○と△は使用頻度を考えていること。
よく使うものは中段に、そうでないものは上段、下段に配置して、
指の使用負担を楽にする配慮がなされている。
いわゆるカナ入力(JISカナ)は、
ブラインドタッチ入力を考慮されていない方式だ。
だからブラインドタッチしようと思うと、
右手小指に負担が強かったり、
指が飛び回ることになり、
万人がブラインドカナ入力できる方式とはとても言えない。
親指シフトは、
「31キー範囲+2親指による、
本邦初の、誰にでも習得可能なカナ入力配列」
である。
日本語の入力方法には、
qwerty配列のローマ字、JISカナ、スマホのフリックなどがあるが、
それらよりも、楽で合理的な入力方式と言えよう。
作家、編集者、昔からPC触ってる人には、
かなり普及したカナ入力方式だ。
最近ではデジタルメモガジェット、
ポメラにも採用されているぞ(最高級モデルのみ)。
これで、大体親指シフトを俯瞰できたかな。
次に批判点をまとめておこう。
「親指シフトは速い。かつてワープロコンテストで上位を独占」
→記録では、優勝が900字台(変換後)/10分であったという。
現代のタイパーたちは昔より速く、
qwertyローマ字やJISカナで、1500〜2000は出すぞ。
僕は薙刀式で1200の巡航速度を出すよ。動画も上げた。
(調子いい時は1700の記録がある)
現代の親指シフトがどれくらい出すか、動画を上げる人がいないので不明。
「親指シフトは楽!」
→ローマ字に比べれば、カナ一文字一打鍵なので楽。
JISカナに比べれば、キー範囲が狭く楽。
しかしながら、後発の配列、
新JIS、月配列、薙刀式に比べれば楽ではない。
新下駄、飛鳥に比べれば高速でもない。
「使用頻度ごとにカナを並べた」は、現代から見ればかなり未熟だ。
統計によれば、カナの使用頻度トップ3は「い」「う」「ん」だが、
親指シフトではすべて中段なのはいいが、
それぞれ、右薬指、左小指、右小指の、弱い指に置かれている。
やりやすくて強い、人差し指や中指にするのが妥当だろう。
(後発の配列では、原則そうだ)
また、よく使う句読点が両小指上段(Qと@)にあり、
「う」「ん」と合わせて、小指の負担がかなり多い。
また、カナには、「あるカナのあとによく来るカナ」がある。
連接だ。
親指シフトはこの連接統計を取っていない疑いがある。
連接の多いカナの流れが、打ちやすい指の流れ(たとえばJIは打ちやすい)
になっていれば、流れるように打てるはずだ。
親指シフトは、これを配列設計の考慮に入れていないと感じる。
指の流れが言葉の流れに沿うように意識された配列には、
飛鳥、新下駄、月、薙刀式などがある。(それぞれ異なる流れの原理)
これらの「なめらかさ」を一度でも知ると、
親指シフトの連接運指は、とてもギクシャクしていると感じる。
「親指シフトは指が喋る!」
→人には脳内発声のある人とない人がいるらしい。
「読書する時、脳内発声がある人とない人がいる」
と発見されたのは最近だ。(ある人の方が多いそうだ)
同様に、書くときも、脳内発声のある人とない人がいる。
読むときにも書くときにも脳内発声がある人(比較的多い)ならば、
親指シフトは心地よい。
同時打鍵を1打と数えれば、1打1カナのリズムで打っていけるからである。
これを称して「指が喋る」と表現されるのだろう。
(ローマ字では2打と1打が混在。
JISカナでも濁音半濁音は2打と、リズムが変速)
しかし僕は、脳内発声が読むときも書くときもないため、
そのリズム自体が邪魔だ。(長らく音楽が苦手だった)
そうした人には、親指シフトは向かない。
リズムのメリットが必要ないからである。
理想は、脳内発声ありなし、どちらでも対応する配列だろう。
非標準配列を使う以上、
キーボードを選ぶことや、メンテナンスが面倒なことや、
いつか消えるかもという不安があることは、
つきまとう。
しかし有志のプログラマーたちにより、
Windowsアプリ(やまぶきR、DvorakJ、紅皿など)、
Macアプリ(Lacaille、Karabiner-Elementsなど)、
キー変更USBアダプタ(かえうち、Oya-Convなど)、
自作キーボード内に焼く(QMK_firmwareによる実装)、
などが続々と開発されているところを見ると、
その情熱の炎は消えていない。
日本語入力の最適解は、
PCキーボードが登場して40年、まだ決まっていないとも言える。
その中でも親指シフトは、
「かつて最高だったが今は過去の栄光の、ひとつのスキル」でしかないと、
僕は評価する。
僕は薙刀式開発者なので、薙刀式がいいぞ、
とこの記事を締めくくるとしよう。
2020年05月13日
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