どういうことでしょうか。
この作品でたとえると、
「化け物をスカートの中で退治すること」
が、テーマの構造と一致するべきだということです。
つまり、嘘をつかずに自由に生きることや、
妻の復讐が、
化け物やスカートやパンツで、
象徴されるべきなのです。
今回はそこまでできませんでした。
それは、
もともとそこまで意識された構造ではなかったからです。
本来ならば、
「スカートの中で化け物を退治することは、
どのようなテーマを示すことになるのか」
という考察が必要で、
「なるほど、この結末を示すための、
スカートと化け物の組み合わせだったのか!」
というキレが必要です。
「このテーマを示すには、
化け物をスカートの中で退治する、
という絵がもっともふさわしい!」
という何かです。
それを先に考えることはできましたが、
そうすると、ミカとシバタのことや、
アラギのことはまったく関係ない、
まったく別の人物の、
まったく別のストーリーをつくる必要があり、
それは添削とはいいがたいものになるのではないか、
と僕は思いました。
なので、ミカやアラギのことを最大限生かしつつ、
テーマに落とすことで、精いっぱいだった、ともいえます。
(これは誰かのものをリライトするときの、
根本的な悩みのひとつです)
あるいは、
スカートと化け物退治(モチーフ)が、
ミカやアラギのテーマを見事に暗示するような、
このメインプロットを生かしたストーリーが作れたかもしれないですが、
思いつきませんでした。
(ないという証明は悪魔の証明なので不可能)
想像するだに困難ですね。
たとえば、
「スカートをめくることは心の自由の解放を意味するのだ」
ということになって、めくることこそ結論であるとか。
「化け物とは自分の中の恥のことであったのだ」とか。
無理があることを承知で書いています。
ということで、
本来するべきことは、
「スカートの中の化け物退治」という面白げなシチュエーションを思いついた時点で、
「これはいかなるテーマを象徴できるのか」
ということを深く考え、
「なるほど、そのテーマを現すのに、
もっとも斬新で、もっともふさわしいモチーフである」
に帰着させる何かをつくるべきだった、
ということです。
本来、モチーフとテーマはペアで思いつくべきです。
それが、テーマは曖昧なまま、
面白そうなモチーフだけが出来てしまい、
それが一人歩きしてしまった、
歪んだ生まれ方をしたのです。
「この面白げなモチーフならば、こんなテーマを語れそうだ」
「このテーマを描くのに、このモチーフを使うことは新しくてしかも完全だ」
は、卵と鶏の関係にあるべきです。
どちらが先ということはありません。
「同時に思いつく」ことが出来なければ、
まだ思いついたことになっていないのです。
「化け物退治をスカートめくりでやる」
という面白いモチーフを思いついたから、
「ようし残りの半分を思いつくぞ!」
と考えるのは間違いで、
「○○というテーマを、
スカートめくりと化け物で描くと面白いぞ!」
という、
同時に出たペアとして思いつくべきです。
モチーフだけ、テーマだけを思いつくことは、
まだなにも思いついていないことに等しいと僕は思います。
今回のリライトは、
そのように出来てないものを、
出来たように作り込む、
攻めのリライトというよりは、
守りのリライトだったと思います。
こんな面白いテーマとモチーフのペアがあるぞ、
ではなく、
面白いモチーフを活かすだけの、
最低限のものを裏張りする、
みたいなやり方でした。
それは、大元の原稿には、
モチーフしかなかったからだと言えるでしょう。
(同様に、テーマだけがあり、
モチーフが平凡だったらどうでしょうか。
こちらの方が簡単です。
そのテーマを活かすようなストーリーに再構築すればよく、
テーマを象徴する小道具なりビジュアルなりを添えればできるからです。
脚本の教科書によくある、
「テーマが大事」という呪文は、
そのような意味も示します)
入選レベルではないが佳作レベル、
ということはそういうことです。
このコロナ自粛の世の中では、
適度な息抜きの笑いを提供して、
心を緩く保てる程度の作品にはなったと思いますが、
世の中を変える名作ほどでありません。
名作には、
「この斬新なるモチーフで、
いったいどんなテーマに落とすのかと思ったが、
終わってしまえば、
見事にそれしかないと思えるぴったりの選び方であった。
なんというマリアージュよ」
が必要だと思います。
ただの面白いエピソード、面白いシチュエーション、
面白い点、モチーフでは、
そうした境地にはたどり着けないでしょう。
ストーリーというのは、
全体が有機的に絡まった何かであり、
しかもよくできたものは、
全体が必要十分に美しくうまくできているものをいいます。
さらに、感動や大笑いをしたり、驚いたり泣いたり、
感情移入したり、
モチーフでテーマが示されていたりして、
人生に影響を与えるものなのです。
なんという難易度。
しかし、それがストーリーをつくる面白さだといえます。
ということで、2020の脚本添削スペシャルは、
これにておしまい。
ここまで読んできた人も、お疲れさまでした。
たくさん書いて、たくさん経験を積んでください。
ボールは、投げれば投げるほど、コントロールが効くようになるものです。
「テーマとそれを表現できるモチーフを同時に思いつく」
これって非常に難しいなと。
片方を思い付いたからもう片方を思い付けばいい
というわけでもなく「同時に」なのが非常に難易度を上げていると感じます。
はてさてどうすればこれができるようになれるのか
皆目見当がつきませんでした。
恐らく「数をやるしかない」という結論になるか
とは思うのでありますが…。
私はモチーフかテーマを思い付いたら
まだ思いついてない片方をその後に足せばいいと思っていましたが
これがそもそもの間違いで
同時に思いつくことが重要だったということですね。
非常に勉強になりました。
添削して頂きありがとうございます。
個人的感情ですが四年間応募してようやく添削して頂けるところまでこぎつけられたのは素直に嬉しかったです。
大岡先生、誠にありがとうございました!
テーマとモチーフを同時に思いつくことは、
映画シナリオ特有のものではなく、
おそらくあらゆる「表現」というものに共通のことと考えます。
「オリンピックというモチーフで、人類の平和を表現する」
などのような見方になると思います。
シナリオの場合はさらにまた別の要素が絡んできますが、
それらは細かい解説をした通りです。
世の中にある「いい表現」をピックアップして、
自分なりにバラしていくと、
なにか秘密のようなものが盗めるかも知れません。
今後とも精進を期待しております。