2020年05月20日

【薙刀式】酸っぱい葡萄

親指シフトの死に関するTwitterを観察していると、
現役使用者が数%(うち純正キーボード使用者と、
エミュレータ使用者は半々くらい)、
かつて使ってたが引退した人が2割くらい、
かつて使ってた人を見た人が5割くらい、
残りは「親指でシフトキー押せなくない?」などの無知な人、
くらいの割合だろうか。

イソップ童話に典型的で、心理学的によく言われる、
「酸っぱい葡萄」理論が働いていて、
とても興味深かった。


「酸っぱい葡萄」理論とは、
「人はやりたくないことは、
何かと理屈をつけてやらない言い訳をつけて、
なかったことにする」
という理論だ。
(イソップ童話で、キツネが、木になっている葡萄が取れなくて、
「あれは酸っぱい葡萄だから、あえて取らないのさ」
と理屈をつけてやらなかったことから。
言い訳理論と言われることもある)



親指シフトは大変なのではない。
実は、「ブラインドタッチ」が持つ性質だと、
僕は思う。


仮に、
「ブラインドタッチ専用キーボード」があったとして、
生産中止します!というニュースが流れたら、

何%かの人が、
「それは困る!在庫買わなきゃ」「転売厨糞」
「エミュレータでできますよ」と言い、
2割くらいの人が、
「ブラインドタッチ速かったんだよねえ。今はもう出来ないけど」
「まだあったんだブラインドタッチ」と言い、
5割くらいの人が、
「ブラインドタッチできる人が職場に昔いてさ、
ほんとに速かったんだよねえ」
「いつか挑戦しようと思ってたが、叶わなかったか」と言い、
残りの人が、
「点字用キーボードですか?」「差別用語では?」と言うだろう。

パーセンテージは違うかもだけど、
反応はおおむね似ていると思う。


つまり、
親指シフトの困難は、
ブラインドタッチの困難と、
ほぼ似たようなものなのだ。

多くの人がカナ配列マスターに二の足を踏み、
多くの人が印字ありのキーキャップを使うのは、
要するに「合理的なブラインドタッチのマスター」が、
どんなものか知らないのである。



ブラインドタッチのマスターは、
自転車のマスターに似ている。
ある種の身体技能だからだ。

もし自転車に乗れる人が数%の社会があったとしたら、
「何のメリットがあるのか、よくわからない」
「メリットは分かったけど、僕はいらないかな。
歩くので十分だな」
「それで実績出したの?ないならいらない」
などのように、
なるべく拒否する理由を探すはずだ。(酸っぱい葡萄理論)

我々はたまたま自転車の普及率がそこそこある社会にいるから、
そのメリットを知り、また幼少期に乗れるように訓練する。
こけても体が軽く、柔らかく、怪我をしにくいうちにね。

仮に大人になって初めて自転車をマスターすることを考えよう。
絶対怖いと思うんだよ。
絶対どっちかに転びそうだし、
怪我したら明日の仕事に支障があるし、
右と左のブレーキ間違えそうだし、
曲がるなんて狂気の沙汰だろ。体重預けるの怖いよ。
それに、歩くよりも遠い範囲を認識しないといけない。

周りに誰も乗ってる人がいないなら、
「わざわざ乗らないかな」と理由をつけて、
自転車を放り出すだろうね。


親指シフト、ブラインドタッチ、カナ配列。
すべて同じだと僕は思う。

これは勉強にも言えることだと思う。

結局、ブラインドタッチが出来るようになる人は、
勉強が出来る人なんだ。


誤解を招くのを承知でいうが、
親指シフトやカナ配列が普及しないのは、
勉強しないバカのせいなんだ。

「ちょっとやれば、できる」ならやるかも知れないけど、
ブラインドタッチや親指シフトやカナ配列は、
わりと修行が必要だ。
自転車よりはしんどい。
でも英会話マスターよりはラクだ。

富士通の親指シフト戦略の失敗は、
親指シフト教室を販売店の横で開設したり、
見事なタイピング映像を残して、
やれる人には手を出す動線を作らなかったことに尽きる。

いい映画が宣伝でコケることと同じだ。

ハードルはそこそこ高いが、
運転免許や医師免許に比べれば簡単だろう、
3割くらいの人はマスターできることだ、
という見積もりが、
最初にできなかったのではないか。

牧歌的に、10割の人が親指シフト出来るようになる、
と思っていたかも知れないね。


7割の人はできない理由を探してやらない。(酸っぱい葡萄)
しかし勉強を自ら出来る3割の人には役に立つ。
7割のバカを捨てて、
3割のためにどう戦略を練るのか、を考えなかったことが、
親指シフトの死を招いたのだと、
僕は考えている。



薙刀式は、親指シフトよりもいい配列だと僕は思う。
「いい」というのは、
マスターまでが楽で、
マスターした後の運指連接の良さがある、
という二つの意味だ。

作家の集いに僕がまぎれこみ、
実演することはまったくやぶさかではない。
誰か呼んでください。

10億あればCM作って教室も作ってやるさ。



結局ブラインドタッチの壁は、どんなカナ配列にもあると思う。

酸っぱい葡萄は、いつでも、どこにでもある。むしろ生成される。

いつやるのか?今でしょ、しか答えはない。
posted by おおおかとしひこ at 10:21| Comment(0) | カタナ式 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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