・35g板バネキーボードの感触の消滅
・背の高い親指キーの消滅
実はこの二つが一番でかいのでは?
板バネのキーボードって、今他に新作としてあるのだろうか。
僕は二年前表参道のaccessに行って、
板バネとリベルタッチ(特殊なメンブレン)と、
パンタグラフ(ノートPC用の親指シフトキーボード)を、
一時間以上試打して比べてきた。
当時はhhkbの静電容量
(心地よさの多くはラバードームに寄ると推測される)
が一番だと思っていたが、
板バネのなんともいえない柔らかさが今でも指に残っている。
まろやか、とでも表現しようか。
決して高速打鍵をイメージさせない、
ゆっくりさを感じる。
タイパーならば「戻りが遅い」と思うかもしれない。
しかし親指シフトはそもそもqwertyのような秒10打とかいらないので、
(せいぜい秒5とか6だろう。実際は3程度と見る)
戻りの遅さは気にならないと思う。
それよりも、「今自分が押しつつあることのフィードバック」
が明確にあるのが板バネの良さだ。
ボールペンや鉛筆にはなく、
万年筆にあるような、
「今自分が書きつつある反力」
を感じながら押せる。
万年筆にはタッチが存在するが、
キーボードで書く文字にはタッチはない。
にも関わらず、
「タッチのあるような文字を書く感じ」
がずっと続くのが、
板バネのいいところだ。
万年筆のペン先と同じ構造だからかな。
平面金属の、曲げと戻りだからね。
だから、物書きに愛されたのかもしれない。
物書きはこのような物理を知らないので、
「指がしゃべるような」
「ないと困る」
しか言葉を知らないのだろう。
僕が板バネを愛好するならば、
「この世からいきなり万年筆が消える衝撃」
とでも表現する。
みなさん、それほど自分の道具をちゃんと知らない。
僕の憂慮は、
そのような板バネが、ロストテクノロジーになることである。
(板バネ自体はその辺の電気のスイッチにも使われているだろうが、
それをキーボードのスイッチとして使うノウハウと同じとは思えない)
実のところ、今自作キーボードでは、
メーカーから提供されるメカニカルスイッチをつかうしかない。
それは100種類くらいあって毎月新作が出る状況だから、
目移りして楽しいのだが、
コイルバネを使う機構は、根本的に同じである。
これを板バネに改造できないかな、
と僕は思ったのだが、
機械系出身ではないため、
何をどう工作すればよく分からず
(https://kiyoto-y.github.io/fkb_struct.htm
には構造の解説があるが、僕の知識では難しそうだ)、
とりあえず手に入るスプリングで、
まだ誰もやっていないであろう、
ダブルスプリングを作ったりした。
つまり、コイルバネの感触よりも、
僕は板バネの感触の方が好きだ。
小学生の頃からかぶらペンで漫画を描いてたので、
万年筆の感触のほうが好きなのだ。
「物書き」といいながら、
誰もこのことに言及しないのは、
僕は無知も甚だしいと考える。
技術には理由がある。
そのプラスチック片の下に何が埋まっているのか、
ブラックボックスを開けて理解することだ。
(理解したら作れる。僕はそのために親指シフトキーボードを買おうとした)
ということで、現行の板バネのキーボードが、
他にあるか調べようとしたが、
どうやって調べればいいのか分からず挫折した。
https://kiyoto-y.github.io/fkb.htm
なんかはすぐヒットしたが、これはあくまで博物館だ。
だがここのニュアンスから、
親指シフトキーボードが、最後の板バネキーボードだった可能性は高いなあ。
つまり、アルプス軸と同じ運命なのだろうか?
もう一つの憂慮は、物理親指キーの死である。
オリジナルの親指シフトキーボードは、
二つの親指キーが背が高い。
記憶では3mmくらいだろうか。
ネットで拾ったこんな写真もある。
また、単純な最下段の高さだけ高いのではなく、
使用者から見て奥の面が、
垂直ではなく斜め斜面になっている。
天面の面積の奥側が多少削られている。
削られた分は手前を増やし、
手前の面はこちらへ傾けてある。
つまり天面を掴んで、手前にぐいっと引いた形になっている。
なぜか?
下段の同時押しのときに、指をぶつかりにくくするためだ。
(これはかつて背の高い親指キーを物理的に作ろうと、
木を削り出していたときに気づいたこと)
ただし天面が遠くなるのは確実で、
上段や最上段の同時押し
(親指シフトは数字段の記号もオリジナルだ)が、
そのことによってどれくらいやりにくいかは、
その時は理解してなかったので、
それに対する工夫があったかまでは未確認だ。
予測だが、天面を奥に傾けることで打ちやすくなると考える。
このあたり、東プレ軸用の親指キーキット、「おやうちくん」
は忠実に再現してるっぽい。
https://kaeuchi.jp/oyauchi-kun/
まだ僕が解せないのは、
その工夫し尽くした親指キーが、
convex、つまり凸で、横から見て蒲鉾型であること。
親指も球だから、凸面なら点接触やんけ。
痛くならないのかね。
これは純正キーボードを使わない、
エミュレータシフターにも質問したいところ。
とくにMac使用者はパンタグラフだから、
親指の横で打ちがちなのでは?
猫の手を遵守しても、指先が痛くなるのでは?
僕の手が繊細すぎるのかな。
僕は指先ではなく、
指紋の渦巻き部分で撫で打ちをする。
親指もそうしたくて、3Dプリントで作っている最中。
人間の指は0.5mmの差は余裕でわかる。
だから3Dプリント版はもう何十個もテストしている。
今のうちに、親指シフトキーを3Dデータ化しておいたほうが、
ロストテクノロジーを防ぐことになりそうだ。
「色々な進化、退化はあれ、
オリジナルはこれである」が分からないと、
今のこれがどうなのか、比較すらできない。
その歴史的な批評文脈が失われるという意味で、
親指シフトキーボードの死を論じている人は、
ここ数日Twitterでずっと観察していたが見なかった。
40年おつかれさま?
何を言ってるのだ。
大和の大砲を作れる旋盤をロストテクノロジーにしないために、
兵庫(だったかな?)の工場で現役で使い続けている、
という話を聞いたことがある。
技術は現役で継承しないと失伝する。
伝統芸能は補正予算が出るが、親指シフトには出ない。
だからなくなるのだ。
安物クソメンブレンで打つqwertyローマ字よりは、
明らかに日本語入力に向いたシステムの、
物理的消滅の危機である。
シフターがそれを主張しないのはおかしい。
数年経てば、もう誰も再現できなくなり、
「あれは早かった」と都市伝説だけが残る。
僕はその幽霊の正体を確かめたい。
お前ら、「昔は俺も悪だったんだぜ」と、
強がってるだけじゃないのか?
親指シフトは非合理的だから消えるんじゃない。
非合理的だが無知と安いコストの波にさらわれたのだ。
言葉は、ひとつの方法になるべきではない。
それは、思想が一色に染まるべきでないことと同じだ。
脳群の多様性が失われるこの技術的危機を、
誰も論評しないのはどういうことだ。
フリックは変換がクソ。
メンブレンもパンタグラフもクソ。
qwertyもクソ。
だから僕は、
自作バネのスイッチと、
自作の凹型キーキャップと、
自作のカナ配列で日本語を書く。
僕の思考を表現するにはそれしかなかった。
自力でそこにたどり着くほど、僕には不満と動機が強かった。
親指シフトキーボードは、
メーカーによって提供されていた極楽だ。
その失伝の意味は大きい。
追記:
板バネはメカニカルスイッチのコイルスプリングと違って、
非線形があるから気持ちいいのでは?
と予想して調べてみた。
https://www.tokaibane.com/tech/leaf_top_info.html
の後半部に詳しいが、
・カールしていて接点距離が変わる板バネ
・断面が台形の板バネ
はまろやかな打鍵感を得られそう、ということまではわかった。
計算しやすい四角い板は、線形の性質なんだね。
これを変形した形にすれば、たいがい非線形になりそう。
そして、
https://kiyoto-y.github.io/fkb.htm
の板バネの写真を見る限り、
断面まではわからないが、根本は台形をしており、
なんらかの非線形性があったことが想像できる。
このへんを極めれば、自作板バネスイッチは作れるのでは?
まずはMXクローンの中のコイルを板バネにできないかな…
2020年05月22日
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