2020年05月24日

構造が非常にしっかりしたホラー(「エスター」評)

いやあ、普通の映画なみ(と言っては失礼だが)に、
構造がしっかりしてて驚いた。

ものすごく楽しめるサイコスリラー系のホラー。
ホラーとは限定空間と怪物のことだ、
という定義があるが、最後まで見るとその意味もわかるだろう。

問題は、テーマだよね。ホラーにはいらない説もあるが。

以下ネタバレ。


ホラーにテーマが必要か?
というのは、物語の大きな疑問のひとつだろう。

ミステリーにも同じことが言えるかも。

ホラーやミステリーは、
それと関係ない、仕掛けを楽しむものだから、
野暮なことを言うべきでないという立場もあるだろう。


しかしこの映画は、
「ホラーといえど映画であるべきだ」
というほどの、しっかりした構造を持っているのが、
逆に、
「テーマなきホラーよりも、
テーマのある映画であるべきだった」
というくらい惜しい出来なのだ。


予告を見た限り、バンパイア落ちだったりして、
なんてことを想像したのだが、
なんとそのどうでもいい予想は当たっていた。

クライマックス、親父に化粧して色仕掛けにいくところの、
なんという気持ち悪さよ。

これは一種のバンパイア映画の系譜であろう。


ということは、命とはなんぞや、
みたいなことがテーマに絡んでくるのだろうが、
エスター自身がこの肉体をどう思っているのか、
そこがわからない(不気味にするためにあえて、
だろうが)ので、それ以上踏み込めない。

絵に夜光塗料で二重の意味があるのが良かったけど、
絵の下にあった壁に描かれた絵は男女の絡み。
それがちょっと浅かったかな。

だって「ロリコンのオッサンに抱かれて金を得る」
などの闇はすぐ思いつくからね。

エスターは意外と繊細なんだな。
だとするとそこをもっと掘れれば、
かなり突っ込んだ文学になれたのに。


シスター殺害がやや遅いので、
一幕をさらにコンパクトにして、
いじめっ子を遊具から落とすところを第一ターニングポイントに持ってこれれば、
もっと後半深掘りできたと思う。

一幕の、母親の心の闇に時間を取りすぎたかも。
これが「母親の話かと思ったらエスターの話」
というミスリードとして機能してることはわかるけど。

ここのセットアップが長かったから、
「問題を抱えながらも愛に溢れた家庭が、
エスターただ一人にめちゃくちゃにされていく」
という恐怖が面白かったけれど、
そこ止まりになってしまったのが惜しい。

エスターの内面にもう少しフォーカス出来ればなあ。


三幕でいっぱいアクションしてないで、
(屋根の上のガラスアクション、いる?
面白かったけど)
ドラマを掘り下げれれば…。


そうそう、女の子の死産の理由が池が割れたことなんだから、
決着は池が割れることで終わるべきだよな。
そのあとのアレコレが不要だと思った。

もちろん、ホラーというのは、
モンスターとの追っかけっこがメインなのだが、
ホラーを超えた人間ドラマとは、
追っかけっこだけでは足りないだろう。



ホラーにするには惜しい、良作でした。


肉体を売る売春行為はしているが、
ほんとうの愛のある大人の男とのセックスを、
エスターは望んでいた、
とかになると、話はぐんと深くなるかもしれない。
先生や同級生と寝る、とかならもっと怖かったかもね。
posted by おおおかとしひこ at 14:22| Comment(0) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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