いやあ、普通の映画なみ(と言っては失礼だが)に、
構造がしっかりしてて驚いた。
ものすごく楽しめるサイコスリラー系のホラー。
ホラーとは限定空間と怪物のことだ、
という定義があるが、最後まで見るとその意味もわかるだろう。
問題は、テーマだよね。ホラーにはいらない説もあるが。
以下ネタバレ。
ホラーにテーマが必要か?
というのは、物語の大きな疑問のひとつだろう。
ミステリーにも同じことが言えるかも。
ホラーやミステリーは、
それと関係ない、仕掛けを楽しむものだから、
野暮なことを言うべきでないという立場もあるだろう。
しかしこの映画は、
「ホラーといえど映画であるべきだ」
というほどの、しっかりした構造を持っているのが、
逆に、
「テーマなきホラーよりも、
テーマのある映画であるべきだった」
というくらい惜しい出来なのだ。
予告を見た限り、バンパイア落ちだったりして、
なんてことを想像したのだが、
なんとそのどうでもいい予想は当たっていた。
クライマックス、親父に化粧して色仕掛けにいくところの、
なんという気持ち悪さよ。
これは一種のバンパイア映画の系譜であろう。
ということは、命とはなんぞや、
みたいなことがテーマに絡んでくるのだろうが、
エスター自身がこの肉体をどう思っているのか、
そこがわからない(不気味にするためにあえて、
だろうが)ので、それ以上踏み込めない。
絵に夜光塗料で二重の意味があるのが良かったけど、
絵の下にあった壁に描かれた絵は男女の絡み。
それがちょっと浅かったかな。
だって「ロリコンのオッサンに抱かれて金を得る」
などの闇はすぐ思いつくからね。
エスターは意外と繊細なんだな。
だとするとそこをもっと掘れれば、
かなり突っ込んだ文学になれたのに。
シスター殺害がやや遅いので、
一幕をさらにコンパクトにして、
いじめっ子を遊具から落とすところを第一ターニングポイントに持ってこれれば、
もっと後半深掘りできたと思う。
一幕の、母親の心の闇に時間を取りすぎたかも。
これが「母親の話かと思ったらエスターの話」
というミスリードとして機能してることはわかるけど。
ここのセットアップが長かったから、
「問題を抱えながらも愛に溢れた家庭が、
エスターただ一人にめちゃくちゃにされていく」
という恐怖が面白かったけれど、
そこ止まりになってしまったのが惜しい。
エスターの内面にもう少しフォーカス出来ればなあ。
三幕でいっぱいアクションしてないで、
(屋根の上のガラスアクション、いる?
面白かったけど)
ドラマを掘り下げれれば…。
そうそう、女の子の死産の理由が池が割れたことなんだから、
決着は池が割れることで終わるべきだよな。
そのあとのアレコレが不要だと思った。
もちろん、ホラーというのは、
モンスターとの追っかけっこがメインなのだが、
ホラーを超えた人間ドラマとは、
追っかけっこだけでは足りないだろう。
ホラーにするには惜しい、良作でした。
肉体を売る売春行為はしているが、
ほんとうの愛のある大人の男とのセックスを、
エスターは望んでいた、
とかになると、話はぐんと深くなるかもしれない。
先生や同級生と寝る、とかならもっと怖かったかもね。
2020年05月24日
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