2020年06月03日

バッドエンドの書き方

バッドエンドにもいいバッドエンドとそうでないものがある。
なるべく絶望に叩き落すのがいいバッドエンド、
「?」しか残さないのは、出来が悪いバッドエンドだ。


最高のバッドエンドは、
「反省会が出来るもの」だと僕は思う。
なぜああなってしまったのか。
どこで引き返せたのか。
あそこであれを選択していれば、最悪の事態は避けられたのではないか。
あそこでああしてしまうから、人間というものは。

そう分析できるものが、いいバッドエンドだと思う。
つまりは、
いいハッピーエンドが書ける力がないと、
いいバッドエンドなど書けないのだ。

わるい(出来のわるい)バッドエンドは、
作者の力量不足で、ただ詰めが甘いだけの、
中途半端なものになる。
計画的に絶望に叩き落すことが下手だ。
だから、たいていのバッドエンドは、
たいして面白くない。
逆張りをして悦にいるただの中二病だ。

ほんとうにいいバッドエンドは、
あと一歩で最高のハッピーエンドにたどり着きそうになる。
最高の希望を見せてから、崖に叩き落す。
そうでないと面白くない。
ドМが見ることを想像するといいだろう。

もちろん、
最高のハッピーエンドも反省会ができる。
ここで勝った理由はこれだ、
ここでこうしていたから助かった、
なるほど、こうすればあとあといいぞ、
などなど。
ハッピーエンドにするか、バッドエンドにするかは、
テーマや作者の哲学次第だろう。

どうしても皮肉でないと言えないこと、
絶望でないと描けないこと、
単なる希望で終わっては当たり前すぎてつまらないこと、
などは、
バッドエンドを計画的に選んだほうが、
刺さるものになるかもしれない。

結局、バッドエンドは攻撃である。
それは何を攻撃するのか、
どんな価値観を否定するのかを、
決めていないと、批判として正しくないだろう。

で、ネットに誹謗中傷が途絶えないように、
攻撃というのはあまり喜ばれない。
喜ばれるのは、
建設的な意見だ。

ということで、
建設的に批判したかったら、
悪役を谷底へ叩き落すとよい。
悪役にとっては、どんな物語もバッドエンドだからだ。

主人公の勝利と、悪役の敗北は、
表裏一体の関係だ。
どっちを主体に描くかだけだろう。

だから、いいバッドエンドとは、
主人公が敗北している裏で、どこかで勝利しているやつがいるということだ。
それを上手に描ければ、
うまく価値の反転を描けると思う。

実のところ、
僕は短編以外でバッドエンドは勧めない。
二時間つきあってバッドエンドだったら、
ぜんぜん損した気分になるからだ。
長く付き合ってきたものほど、
しあわせになってほしいのが人情というものだ。
それを突き放すだけの強い主張がないものは、
いいバッドエンドにはふさわしくないだろう。
ただの逆張りだと批判されておしまいになる。


昔はバッドエンドも好きだったけど、
歳をとってくるとハッピーエンドでええやんか、
と思うことが増えた。
それはこれをこうしたらハッピーエンドになるのに、
という構造が見えてしまうからかもしれないし、
周りで報われない沢山の人を見ているからだと思う。
中二がバッドエンドを好むのも、
人生がつらく終わることを、あまりリアルに思えていないからだろうなあ。

それでもブラックなものは一定の力がある。
闇に覗かれないように、
己を保ちながら、
バッドエンドにする意味を、
答えられるようにしておくべきだ。
posted by おおおかとしひこ at 00:03| Comment(7) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
最近読んだ漫画「連ちゃんパパ」は
なかなか面白い(?)ブラックなストーリーでした。
パチンコ沼にハマった男の顛末を描いた物語です。
人が堕落してゆく様、人の醜さが丁寧に描かれていました。
どうしようもなく不愉快な話なのですが、
主人公の立場が目まぐるしく変わるので
不思議と退屈しませんでした。不愉快でしたけど笑
ネットで全話無料公開してるので
ご興味あれば是非ご一読を…
Posted by 部落パソコン丸 at 2020年06月03日 01:14
部落パソコン丸さんコメントありがとうございます。

ウシジマくんと同じ匂いがしたので、
遠巻きに感想だけ眺めるレベルに留めています。
ミイラ取りがミイラになりそうで。
いくつかのクズエピソードは見たので、
動物園にいくつもりで見るかもしれません。

たまにジャンクフード食べたいときも人間にはあるからなあ…
Posted by おおおかとしひこ at 2020年06月03日 01:29
いつも、楽しく拝見しています。

何かオススメする良いバッドエンドの映画は、ありますでしょうか。どういうものが良いバッドエンドで、どういうものが悪いのか、ブログを読んで理屈では理解できたのですが、実際の映画やドラマのイメージが、どうしても出てきませんでした。

これからも、楽しく拝見させていただきます。
Posted by ピーター at 2020年06月04日 12:31
>ピーターさん

僕もこれだ!というのはそんなに思いつかないですが、
漫画「デビルマン」は一見の価値ありです。
年を経るごとに書き足しがある(絵柄で足したところはわかるけど)ので、
なるべく古い版で読むのがベストです。
体験してなければ是非。
僕は高校生で読んで、ものすごいショックでした。

あとワースト別格と僕の指定する、
映画「レクイエムフォードリーム」もチェックです。
麻薬撲滅の啓蒙映画かもしれないくらい酷い結末です。
(救いは用意されてるのがさらにね)

胸糞悪くなる点では映画「ミスト」もおすすめかな。

これだけ出来るんだから、ハッピーエンドのほうがええやんか、
と思ってしまいます。

あと漫画「ベルセルク」の蝕までは、必読かと。
このバッドエンドを覆せるだけのガッツのストーリーを、
20年かけても用意できていないのが歯痒い。
Posted by おおおかとしひこ at 2020年06月04日 12:58
大岡さん、ありがとうございます!

嬉しいことに、デビルマン、レクイエム・フォー・ドリーム、ミストは視聴済み読書済みでした!

見たことはありましたが、大岡さんにススメていただいたことで、「ああ、そういうのが、良いバッドエンド悪いバッドエンドか」と理解できたので、とても学びになりました。

ベルセルクは見たことないので、読んでみます!

これからも、ブログを楽しく拝見させていただきます。ありがとうございました。
Posted by ピーター at 2020年06月04日 14:23
>ピーターさん

苦いけど旨いものにコーヒーやビールがあります。
シュガーコーティングされていないそれを味わえるのは、
ある程度の大人の懐が必要だと思います。
で、旨くないコーヒーやビールも、世の中にはあるというわけですね。

あと忘れてたのが、
最高のバッドエンド(ビターエンドかも)に、
映画「バタフライエフェクト」がありました。
追加でどうぞ。
Posted by おおおかとしひこ at 2020年06月04日 14:42
大岡さん、コーヒーとビールのお話、ありがとうございます。とても理解が深まりました。

「バタフライエフェクト」も視聴済みでした!おっしゃるとおり、バッドエンドといより、ビターエンドかもしれませんね。

DVDには、いくつかのエンディングパターンが収録されていましたが、エンディング1つで、バッド(もしくはビター)具合というか、苦味がこんなにも変わるんだなあと思って、とても学びになる映画でした。

いろいろご教授いただき、ありがとうございました。
Posted by ピーター at 2020年06月04日 18:54
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