ソリッドシチュエーションスリラー、
しかも「埋められた棺の中限定」ということで、
少し気になっていた作品。
うーむ、これでええのんか。
ネタバレありきで批評。
落ちがついたと思ったのは、
「今助けるぞ、棺が見えた、
オーなんてこった、マークホワイト」
と、
担当官が最近助けた人物として最初に述べた、
マークホワイトの名をあげたことだ。
つまり、
助けたことも嘘だったし、
君の棺を見つけて助けるということも嘘だった、
という二重の転換で終わらせていることだ。
「なるべく最初に出たことで、
連環を終わらせる」
ことが落ちの原則であるから、
ここでおしまいなんだね、
ということが分かるわけだ。
これは落ちに関する重要な示唆である。
で、テーマだ。
このバッドエンド映画において、
何を意味しているかだ。
「人質は無駄に死ぬし、
捜査官で優秀な奴はいない」ということだろうか。
もう少し大きな枠組みで行けば、
「戦争というものは政治という巨大ななにかであり、
現場は吹き飛ぶのみである」
という普遍的なことだろうか。
対イラク戦争の、アメリカの何かを批判してるのだろうか。
「まったくアメリカ政府なんてクソだぜ。
口では綺麗事や正義面しやがって。
やっぱり助けられねえじゃねえか。
だから俺たちは銃を持って自衛するのさ。
HAHAHA」
という感想を持てばいいのだろうか。
それに、何の意味があるのだろう?
バッドエンドというものは、
それに値する価値がなければならない。
強烈な批判こそがバッドエンドの価値である。
ただダメでしたーおしまいー、
で、ちゃぶ台をひっくり返して、
悦にいる中二ではいけない。
「いけない」という警告は、
この映画を見終えたあとの、
「だからなんやねん」という怒りと共に記憶されるべきだろう。
この手のソリッドシチュエーションスリラーは、
「密室脱出もの」と言い換えることが出来る。
怖そうなシチュエーション、
命を掛けた脱出ものである。
命を掛けて不可能な脱出に挑むから、
大抵不可能になって、
怖そうなシチュエーションだから死んでもいいよね、
という落ちになりがちだ。
それは、作者の力量不足なのだ。
密室脱出ものは、
一見不可能に見えるこの脱出を、
いかに読まれずに、「こう脱出するのか!」
という正解を示すゲームである。
誰にも解けない問題を提示して、
自分だけが解ける解法を示すことである。
しかも、成る程それは気づかなかったという、
コロンブスの卵でなくてはならない。
つまり、難易度が高いのだ。
だから、
それを思いつくことができず、
ただ怖いシチュエーションを地獄巡りして、
(蛇、燃える、爆撃、同僚が殺される、指を切る、
同僚との浮気で解雇)
脱出方法を思いつかず、
思いついてもベタだから却下、になり、
うーんバッドエンド、
世の中批判でおしまい、
になりがちなのである。
これらの元祖は、「キューブ」かも知れない。
しかしキューブには、
「一個しかセットがないのに、
立体迷路にいるように見える」
という視覚的な面白さと、
仲間割れする人間たちの醜さという皮肉があった。
これもバッドエンドなのだが、
「正しく協力すれば脱出できたかも知れないが、
まあ人間の集団は大抵こうなるよね」
という皮肉があったわけだ。
(さらに元を辿ると、
「ポセイドンアドベンチャー」という、
上下が逆さまに沈没した豪華客船の脱出劇があった。
これは大掛かりな仕掛けと、命を賭ける本格派だった)
それに対して、
棺の中ワンシチュエーションは、
視覚的な面白さは足りず、
「一体どうやるのか」
という仕掛けしか面白みはない。
「なるほど、危険はこういうことを考えるのか」
という危険危機のバラエティは楽しめるが、
「それが一体なんだったのか」
が確定する終盤に至って、
実はまだ何も着手していないことに手遅れであった。
マークホワイトで落ちたような気がするが、
これは学生の自主映画レベルだろう。
学生がこれを作ったら、
成る程面白い、金がないのを逆手にとったな、
しかしテーマがちょっと甘いな、
次は複数の人間の間でやる芝居を撮りたまえ、
と資金の提供があるレベルではあるが、
プロが作り、興行するレベルには達していない。
では自分ならどうするかを考えるに、
テーマをどう作るかを考えるだろう。
「浮気してたら殺されても問題ない」
がテーマだろうか?
密室において、次々と浮気の証拠が出てくる話?
リンダとすぐに電話は繋がるが、
そこからどんどんバレて取り繕う話だろうか?
棺という密室なのに、
そんな話をするのもちょっと面白いかもしれない。
男の裏切りだけでなく、
女も裏切ると面白いかもしれない。
つまり、人はみんな酷くて口先だけだ、
みたいなことを炙り出すのに、
密室の中の電話は使えるかもしれない。
で、やっぱり助かるのだが、
戻った現実の方が地獄、
棺の中のほうが静かだった、
みたいにすれば、
バッドエンドの皮肉が効くかもしれない。
まあ、製作費はたいして掛かっていないから、
大損はしないかも知れないが、
この落ちでは大ヒットはないだろう。
ただのソリッドシチュエーションスリラーは、
もう飽きられてるだろうから、
結局、
「新規性のあるシチュエーションで、
どんなテーマを見事に炙り出すのか」
が、
映画というものの本質だ、
ということは言えそうだ。
こんなんでいいなら俺でも出来るぜ、
そう思ったやつらを沢山産んだんだとしたら、
少し罪な映画だね。
バッドエンドには、
いいバッドエンドと悪いバッドエンドがある。
いいバッドエンドは、人生を変えるほどの練りがある。
悪いバッドエンドは、ただの落ちが思いつかなかっただけの、
粗悪品である。
2020年06月08日
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