2020年06月09日

スケールメリット

人間一人が出来る範囲について、まず考える。


生の舞台やパフォーマンスを想像しよう。
そのもっとも大きな範囲はどういうものか。
ジャンプしたり、転がったりするものだろう。
人一人が示せる範囲というものがある。

演劇の舞台になるとどうだろう。
宙づりにしてピーターパンのように動けば、
舞台全体にスケールを広げることが可能だ。
沢山の人で群舞をすれば、
また舞台全体のスケールを使えるだろう。
サーカスならば、空中ブランコが最大だろうか。
宝塚の大階段は、横一杯だけでなく、
縦にもスケールを使っているパターンだ。
あるいは、紙吹雪やスモークが効果的なのは、
舞台全体のスケールだからだ。
フルフレームを使っているわけだね。

スケールの大きなものは、
それだけで面白い。

映画はどうだろう。
舞台より大きな舞台を組むことが出来る。
「イントレランス」「ベンハー」などの昔日の映画では、
舞台より大きなセットを組み、
すごい引き画をつくることが、
スケール感の売りだった。
あるいは「アラビアのロレンス」では、
砂漠の途方もない巨大さだけで売りになった。

人間一人がジャンプしたり転がって表現するよりも、
ずっとずっと大きなものが表現できると思われた。

CGや合成の発達によって、
それはあまり効果がなくなってきた。
広い絵をつくっても、ありがたみがなくなってきている。
しかし、巨大な爆発とか、
巨大な乗り物とか、
ほんとうにある巨大さには、
ある種の畏敬があり、神々しさがある。
(ゴジラが合成やCGになって、神々しさは消えたと僕は思う)

移動もスケールを出せる。
人間のパフォーマンスでもっとも距離が出るのは、
走ることだ。
だからマラソンや走れメロスは、
スケールが大きく見える。

クライマックスで一番芝居が強くなるのは、
走るという動作だったりすることが多い。
(「タッチ」という名作アニメの糞実写版がある。
そこでもっとも力強く泣けるシーンは、
クライマックス手前、
南が決勝戦の会場に向かってただ走るシーンに、
アニメの主題歌がかかるところだ。
これだけで泣ける出来で、あとは別の意味で泣ける糞の出来だ)

レースもそうだ。空撮もそうだ。
旅や引っ越しもそうだろう。

路上のパフォーマンスに比べて、
演劇の舞台に比べて、
映画はスケールを表現する手段を沢山持っている。

使わない手はない。


もっとも、それが何を意味しているのか、
というストーリーの連関が重要である。

ポセイドンアドベンチャーは沈みつつある豪華客船からの脱出劇だが、
さかさまになった豪華客船という舞台装置が面白く、
危機の象徴として興味深い迷路となっている。
密室脱出劇として、これほど面白い映画はそうそうない。
(なおリメイクは無視)

スポーツ大会の決勝がそれだけでドラマチックなのも、
会場が大きく、たくさん人が来る、スケール感があるからだ。
(四畳半の無観客試合だったら意味がない)
そして、それとストーリーとの関係、
つまり、「ストーリーでもっとも重要なことが、ここで決まる」ことが分っているから、
そのスケールはストーリーの面白さになるのである。


つまり、スケールの大きな舞台装置や、
スケールの大きな行動をすることと、
ストーリーは密接な関係がある。

それをうまく組み合わせれば、
面白いストーリーになるはずだ。



ちなみに先日書いた話は、
宇宙飛行士の話で、国際宇宙ステーションが舞台だった。
そこで忘れられない彼女へのプロポーズの指輪を、
海に落とすことで、
流れ星になる、
という大きなスケールの話にした。
小道具である指輪は小さいが、
彼女をあきらめるという人生での大きな出来事を象徴していて、
しかも宇宙ステーションから捨てて流れ星にする、
というスケールと相まって、
なかなかの舞台装置となったと思う。



スケールを利用せよ。
仮に半径2メートルの内容を描いていたとしても、
人間一人がジャンプしたり転がる半径2メートルのモチーフではなく、
半径十メートル、半径数キロ、
半径数光年のものにせよ。

「500 hundred miles 君に遠すぎて会えない辛さ」
なんてだけで歌になったりする。
(アルフィーの「星空のディスタンス」)

あるいは、
宇宙滅亡のような大スケールのものを、
たかが指パッチンに集約した、
アベンジャーズエンドゲームの例もある。


こうしてスケールを操るだけで、
ガワはいくらでも変わる。
その、ガワとモチーフとのマリアージュを探るのだ。
posted by おおおかとしひこ at 00:51| Comment(0) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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