2020年06月11日

触覚の記憶

3DCADの話なのだが、
物づくりの根本であるところの、「手の感覚」のことなので、
脚本論にて論じる。

アップル製品の角Rは曲率連続が云々のページでよく目にする比較
https://mobile.twitter.com/HighOctaneToys/status/1270334365008969728


角を丸めるとき、
直線→円の一部→直線
とするのが、比較的簡単な丸めだ。
(数学的計算が楽なので、デフォルトのフィレットとして3DCADにはついている)

ところがこうして丸めた角は、
何故かあんまり気持ちよくないことが知られている。
(自分で3Dプリントしてみるとよくわかる)

アップル製品の角のRは、実はこれで作られていない。
曲率を変化させた、特殊な角の丸めになっている。
これはアップル信者かつ3DCAD使う人じゃないと知らない、
かなり特殊な情報である。

(このへんに図としてまとめてあり:
https://trinity.jp/166014/
このへんにさらに詳しい話あり:
https://www.google.co.jp/amp/s/gigazine.net/amp/20170127-apple-icon-shape



しかし触ってみた感触を考えれば、
数学的な丸い角よりも、
アップルの角のほうが、断然いいのだ。

木を削って丸めた角は、概ねこうなっている。
あるいは、
スキーのジャンプ台の着地ポイントもこうなっている。
(サイクロイド曲線と数学的にいいます)


これだと、直線から円弧に突入したときに、
ガクッといかずに滑らかにいくんだよね。

この、
「ガクッといかずに滑らかにいく」
という感覚こそ、
触覚である。

言葉になりづらいこの感覚は、
アップルによって、サイクロイド曲線という数学的な所に落ちたわけだ。



さて、脚本論である。

僕は手書きを薦めている。
タイピングは清書に留めなさいと。

それは、
「体を使った感覚で書いたものには、
温度や実感や間が宿りやすい」と思うからだ。


たとえば、
書いてて疲れて一休みするところは、
大抵中だるみする嫌なポイントなのだ。

そこを、書いてて疲れないように書けると、
中だるみがなくなることが、
経験的にわかっている。


体からの信号を無視するべきではない。

書いてる時の体感覚が、
見てる時の体感覚と、繋がっている。


これは、タイピングではなかなか得られない感覚である。
現状のデフォルトでは、
思考の速度に一致しない糞qwertyや、
一覧しづらく視界が狭くなる糞エディタや、
コピペが自由だったりするせいで、
体のリズムにならないのだ。

(僕がこれだけタイピング研究をしているのも、
体や思考のリズムに沿うタイピングは存在するのか、
ということを考えているのだ)

だったら手書きが一番コストが安いので、
バンバン手書きで書くべきである。

また、セリフやト書きも、
書き終えたシーンを口に出して読んでみることをお勧めする。

体のリズム、思考のリズムになっているかを確認できる。

書いたときにつぎはぎしたところは、
読むとき、見るときに、
必ずつぎはぎになるだろう。

書いたときに勢い良い部分は、
見るときに必ず爽快なシーンになるはずだ。


また、
体のリズムで書いているときは、
何が滑らかで何がギクシャクして、
何は言わなくてもよくて、
何は言わないとダメか、
ということが把握しやすい。

僕はストーリーとは触覚に近いと考えていて、
それを理論化できないかなあ、
などと妄想しているのだが、
この3DCADの例を見て、
そんなことを思い出した。


今すぐMacショップにいき、
角を触ってみたまえ。
マカーは角を撫でてみよ。
その滑らかさが、あなたの書くべきストーリーの感触である。

もし暇ならば、フィレット(直線→円→直線)との差を、
粘土でも捏ねて確認することだ。
たとえば安い金属部品はそうなっていて、
人の手で削った木工やMacは、異なる曲線なのだ。


さらに脱線しておくと、
僕はIllustratorで描かれた曲線が好きではない。
ベジェは手が描く軌道ではないと感じている。
あくまで微分して作図するのが楽な曲線に過ぎないと考えている。
だから絵を描くときはフォトショ派なんだよなあ…
posted by おおおかとしひこ at 00:25| Comment(0) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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