2020年06月21日

悪役がいない話

悪役論、続き。
悪役がいる話は、「あいつをやっつけろ」という話だ。
逆にいうと、それ以外の話はつくれない。


だから、悪役がいない話をつくったほうが、
「あいつをやっつけろ」以外の話をつくれる可能性がある。

あなたが描きたい物語、
あるいは面白いと思う物語が、
「あいつをやっつけろ」という話でないならば、
悪役がいないほうが面白い話になるかもしれない。

じゃあ、一体「あいつをやっつけろ」以外に、
どういう話があり得るのか、
つまり、何が焦点となるのだろうか。

「何かを救う話」「何かを助ける話」
「何かを競う話」「早い者勝ちの話」
などだろうか。

もしこれに該当しない面白い話があるならば、
ぜひ考えてみるに値すると思う。


ただし。

それが感情移入にとぼしく、
焦点に興味が持てないならば、
悪役がいたほうが話が締まると思うよ。


もしスターウォーズにダースベイダーがいなかったら?

「とらわれの姫を救う話」または、
「何者かになる話」で終わっただろう。
悪役がとらえたのだが、
帝国軍というモブしか出ないから、
話がぼやけることは簡単に予測される。

また、「とらわれの姫を救う」だけで面白い話にすることは、
かなり難しいと思う。
あるいは、
「何者かになる話」だけでもスペースオペラではつまらないかもしれない。

「何者かになる話」で悪役がいないという例では、
「ロッキー」がすぐ思いつくが、
あれくらい沢山のしかけがないと、面白い話にはならないだろう。

つまり、スターウォーズは、
「とらわれの姫を助ける話」
「何者かになる話」
「あいつをやっつけろという話」
の三本柱で進んでいる話なのだ。

一本のストーリーラインだと、
どれもたいして面白くないので、
複合技を使おうということなんだね。

その中でも、悪役がいて、
「あいつをやっつけろ」というストーリーラインは、
わかりやすくて、面白く、強い、
ということだ。


だから、悪役がいない話だとしても、
話を面白くするために悪役を設定することは、
おすすめの手術法だと思う。



ドラマ風魔では、
敵方である夜叉は、悪というほどではない。
もちろん悪いことをしているのだが、
学園支配という漫画的にはあり得るが、
実写的には微妙なラインだ。
しかも武蔵や壬生は悪ではない。

ということで、
分りやすい悪役がいると話が締まると考えた。
黒獅子が原作では悪役の香りがあったので、
このようなスタイルで、
八将軍に悪役がいるといいなと思ったわけだ。

それが誰になっても成立したのだが、
オーディションで見出した、
田代というキャラクターが、陽炎という悪役を生ませたのだと思う。

陽炎がいない風魔の後半戦を想像すれば、
うん、まあ、そんな感じか、で終わっていた可能性が高いよね。
武蔵、壬生以外に、
わかりやすい悪役がいたことで、
色んなストーリーラインが、まとまりやすくなったわけだ。

ドラマ風魔は、単なる「あいつをやっつけろ」という話ではない。
しかし、それがあることで、ストーリーが加速しやすくなったのは事実だ。



単純な、「あいつをやっつけろ」、すなわち、
勧善懲悪を描くことはそもそも難しい。
今のこの時代の、悪とか正義とかはどのようなものか、
という考察が必要であり、
その王道を更新する仕事が必要だからだ。
(アベンジャーズは、現代においてそれを更新したから素晴らしいのだ)

悪役がいないストーリーを考えて、
それをつくることのほうが簡単かもしれない。
人間というのは善や悪で、割り切るのが難しい存在だ。

ただそれが締まらない場合、
悪役をスパイスに使うというのは、
現代的な作劇法の一つではないかと思う。

あるいは、場面によって悪役が変わったりすることも、
立場がころころ変わることも、
現代劇ならあり得るかもね。

単なる悪、単なる正義は、
視点が変わったらいくらでも変わりうる。
そうした新しい勧善懲悪はあり得るかもしれない。

また、その複雑な構図を人間ドラマに盛り込むと、
現代的な多視点の物語が作れるかもしれない。



悪役はすなわち、強力なスパイスである。

絵具は黒を入れると急に変貌する。
カレー粉はちょっと入れてもカレーになる。
そんな感じ。

使うときは、その特性をよく理解してやっていこう。

どんな面白げなプロットも、
「あいつをやっつけろ」より感情に訴える強さがない可能性があるぞ。
posted by おおおかとしひこ at 00:04| Comment(0) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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