悪役論、続き。
悪役がいる話は、「あいつをやっつけろ」という話だ。
逆にいうと、それ以外の話はつくれない。
だから、悪役がいない話をつくったほうが、
「あいつをやっつけろ」以外の話をつくれる可能性がある。
あなたが描きたい物語、
あるいは面白いと思う物語が、
「あいつをやっつけろ」という話でないならば、
悪役がいないほうが面白い話になるかもしれない。
じゃあ、一体「あいつをやっつけろ」以外に、
どういう話があり得るのか、
つまり、何が焦点となるのだろうか。
「何かを救う話」「何かを助ける話」
「何かを競う話」「早い者勝ちの話」
などだろうか。
もしこれに該当しない面白い話があるならば、
ぜひ考えてみるに値すると思う。
ただし。
それが感情移入にとぼしく、
焦点に興味が持てないならば、
悪役がいたほうが話が締まると思うよ。
もしスターウォーズにダースベイダーがいなかったら?
「とらわれの姫を救う話」または、
「何者かになる話」で終わっただろう。
悪役がとらえたのだが、
帝国軍というモブしか出ないから、
話がぼやけることは簡単に予測される。
また、「とらわれの姫を救う」だけで面白い話にすることは、
かなり難しいと思う。
あるいは、
「何者かになる話」だけでもスペースオペラではつまらないかもしれない。
「何者かになる話」で悪役がいないという例では、
「ロッキー」がすぐ思いつくが、
あれくらい沢山のしかけがないと、面白い話にはならないだろう。
つまり、スターウォーズは、
「とらわれの姫を助ける話」
「何者かになる話」
「あいつをやっつけろという話」
の三本柱で進んでいる話なのだ。
一本のストーリーラインだと、
どれもたいして面白くないので、
複合技を使おうということなんだね。
その中でも、悪役がいて、
「あいつをやっつけろ」というストーリーラインは、
わかりやすくて、面白く、強い、
ということだ。
だから、悪役がいない話だとしても、
話を面白くするために悪役を設定することは、
おすすめの手術法だと思う。
ドラマ風魔では、
敵方である夜叉は、悪というほどではない。
もちろん悪いことをしているのだが、
学園支配という漫画的にはあり得るが、
実写的には微妙なラインだ。
しかも武蔵や壬生は悪ではない。
ということで、
分りやすい悪役がいると話が締まると考えた。
黒獅子が原作では悪役の香りがあったので、
このようなスタイルで、
八将軍に悪役がいるといいなと思ったわけだ。
それが誰になっても成立したのだが、
オーディションで見出した、
田代というキャラクターが、陽炎という悪役を生ませたのだと思う。
陽炎がいない風魔の後半戦を想像すれば、
うん、まあ、そんな感じか、で終わっていた可能性が高いよね。
武蔵、壬生以外に、
わかりやすい悪役がいたことで、
色んなストーリーラインが、まとまりやすくなったわけだ。
ドラマ風魔は、単なる「あいつをやっつけろ」という話ではない。
しかし、それがあることで、ストーリーが加速しやすくなったのは事実だ。
単純な、「あいつをやっつけろ」、すなわち、
勧善懲悪を描くことはそもそも難しい。
今のこの時代の、悪とか正義とかはどのようなものか、
という考察が必要であり、
その王道を更新する仕事が必要だからだ。
(アベンジャーズは、現代においてそれを更新したから素晴らしいのだ)
悪役がいないストーリーを考えて、
それをつくることのほうが簡単かもしれない。
人間というのは善や悪で、割り切るのが難しい存在だ。
ただそれが締まらない場合、
悪役をスパイスに使うというのは、
現代的な作劇法の一つではないかと思う。
あるいは、場面によって悪役が変わったりすることも、
立場がころころ変わることも、
現代劇ならあり得るかもね。
単なる悪、単なる正義は、
視点が変わったらいくらでも変わりうる。
そうした新しい勧善懲悪はあり得るかもしれない。
また、その複雑な構図を人間ドラマに盛り込むと、
現代的な多視点の物語が作れるかもしれない。
悪役はすなわち、強力なスパイスである。
絵具は黒を入れると急に変貌する。
カレー粉はちょっと入れてもカレーになる。
そんな感じ。
使うときは、その特性をよく理解してやっていこう。
どんな面白げなプロットも、
「あいつをやっつけろ」より感情に訴える強さがない可能性があるぞ。
2020年06月21日
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