不合理で不便な各キーの配置は、
机の上のように、台所のように、道具箱のように、
使いやすいように並べ、よく使う順に整えるべきだ。
それをキーマップを変える、などという。
キーマップの変更には、いくつかの段階がある。
1. 今あるキーを入れ替える
2. 「何かを押しながら何か」を導入
3. 物理配置を変えてしまう
1. 今あるキーを入れ替える
今目の前にあるそのキーボード。
いくつか使わないキーがある。
それどころか、何のためにあるのかわからないし、使わないし要らないキーもある。
(Capslock、Insert、変換、無変換、FやJなど)
反対に、よく使うキーが遠くにある。
(Ctl、Enter、BS、カーソル、Aなど)
もしこれらを入れ替えられたら?
台所で包丁やまな板の位置を変えるように、
塩胡椒を近くに置くように、
キー同士を入れ替えて再配置できたら?
多くの人が夢想することは、
実は可能だ。
キーマップ変更エミュレータなどでだ。
(もっとも自由度が高いのは、物理アダプタかえうち)
「あのキーを殺す」にはもっと強引な手段があって、
「キーキャップ(やスイッチ)を引っこ抜く」がある。
「誤打を防ぐためのキーロックアイテム」すらある。
(ゲーマーやタイパーは、Winキーなどをよく殺す)
そんなことをしなくたって、
アレとアレを入れ替えればいいのさ。
機能キーの入れ替えを、「キーマップを変更する」(狭義の)、
文字キーの入れ替えを、「配列を変更する」(狭義の)、
などという。
たとえばHHKB(ハイブリッド)やNiZには、
キーマップ変更ソフトがついてくる。
最近の高級キーボードの流行だ。
キーの印字通りにならないと気持ち悪い?
そのために無刻印キーボードがあるよ。
ブラインドタッチで打てないって?
大丈夫、よく使うキーは勝手に手が覚える。
ていうか、勝手に手が覚えるほど使うのが、
机の上や台所や道具箱だ。
印字がないと不安なキーは、端っこの方に寄せとけばいい。
2. 「何かを押しながら何か」を導入
狭義のキーマップ変更、配列変更は、
「入れ替え」のみしかできない。
HHKBやNiZのキーリマッパーはそこ止まりだ。
もう少し高度なものが、
「何かを押しながら何か」という機能だ。
キー数が少ないキーボードには、
たまに「Fn」キーがついてくる。
Fnを押しながら何かを押すと、
あまり使わないがあると便利だが、
スペースを取るほどでもない、
Home、End、PgUp、PgDnとかになるやつ。
この考え方を、発展する。
XXXキーと仮にしよう。
XXX1キーと何かを組み合わせれば何かが出るように、自分で設定する。
XXX2キーと(以下同)
XXX3キーと(以下同)
…
XXXキーはいくついる?
10個もいらないよね。
覚えて、運用できるレベルだと、最大4個くらい?
それもほとんどの人には多いので、
親指で押せる2箇所(たとえばスペースキーの両脇)に、
XXX1とXXX2がやりやすそうだ。
これをレイヤーキーという。
XXXを押している間は、
別レイヤーにキーボードが切り替わるイメージ。
(Ctlキーもレイヤーキーだ。
Ctlを押している間、CtlA、CtlB…に全キーが入れ替わるだけだ)
自作キーボードでポピュラーなレイヤーキーの言い方は、
LowerとRaiseという。
ノーマルレイヤー、Lower、Raiseの3レイヤーが重ね合わされたキーボードのイメージだ。
(LowerとRaiseを両方押しながら、
というアクロバチックなレイヤーをAdjustレイヤーと呼んだりする。
押しにくいのでマイナーキーを置いたりする用)
多くの自作キーボードでは、
両親指の美味しいところにLowerとRaiseがある。
これを逆輸入して、既製品キーボードでも、
親指脇にFnキーがあったりする。
大昔は、ほとんど使ったことがない無変換と変換キーに、
プログラミングでレイヤーキーを割り当てることがあった。
(無変換キーをCtlキーにするとか、変換キーをエンターやBSにするとか)
あるいは、
「単押しでAキー、押しながら何かだとBの役割」
というアイデアもある。
Aにスペース、Bにシフトを入れたのが、
有名なSandSだ(Space and Shiftの略)。
Macの英数、カナに、Commandを割り当てたりする技もポピュラー。
この場合、Bには「単押しでは機能しないが、なにかと押しながらだと機能する」
キーが割り当てられ、そういうBをモデファイヤという。
(自作キーボードでは、
LT(モデファイヤ, 単押し)の文法で表現される)
レイヤーキーはつまり、「新しいモデファイヤ」の独自設計なわけだ。
(デフォルトのモデファイヤは、ShiftとCtrl。
WinとAltは、モデファイヤと単押しで別の機能のあるキー)
レイヤーキーは、
「そのキーを押しながら何かを押す」というスタイルの定義だった。
それを、「AB同時打鍵のときはC」のように定義してもいいよね。
あるいは、
「Aを押したあとにBを押した時の組み合わせのみC」とする定義法もある。
レイヤーキー型のものを、通常シフト方式、
同時打鍵型のものを、同時シフト方式、
組み合わせ型のものを、前置シフトまたは後置シフト方式という。
(AがレイヤーキーかBがレイヤーキーかで異なる)
また、「AをダブルクリックしたときのみC」もあって、
あまり使われないけどn回クリックに拡張して、
タップダンス方式と呼んだりする。
そうそう、「一回押したらAモード、もう一回押したらBモード」は、
トグル方式という。
今どっちかわかりにくいので、僕は大嫌いで排除する。
全角半角キー?クソだろ。
レイヤーキーを何種類、どこに置くか、
レイヤーキーの押し方(好みが大きい?)、
そのレイヤーの中身、
を組み合わせると、
いくらでもキーマップが考えられるのが想像できる。
あのキーをここに置いたら?
あのキーはどうだろう?
それを考えることは、「自分の動線はどうなっているか」
を考察することだ。
他人のキーマップを見ることは、
「あれをああしてるのか!」という工夫の発見であり、
いいところはじゃんじゃん盗めばいいのである。
他人の道具箱や台所や執筆机を見るのが楽しいのは、
こうした理由だ。
ところで、カナはアルファベットより多いから、
アルファベットの範囲くらいに収めれば便利じゃない?
レイヤーキーを使えばできるよね?
親指二つのレイヤーキーと同時打鍵型にしたものが、
親指シフト方式。(親指シフトニコラ、飛鳥配列、蜂蜜小梅配列、TRON)
スペースキーをレイヤーキーがわりにしたのが、
センターシフト配列。(新JIS、薙刀式)
中指のDKを前置シフトにしたのが月配列系。
中指DKと薬指SL、右手IOの6キーを同時シフトにしたのが新下駄配列。
親指は遊んでるからレイヤーキーにしたろ、という考え方の配列と、
親指は他のこと(変換やカーソルやエンターなど)に使って、
文字キー内にシフトを仕込めば高速に打てるやろ、
と考えた配列があるわけだ。
(いまのところどちらが良いか、結論は出ていない。
自分が何が好きか、何が合うかという相性があるのは、
筆記用具や台所器具とおなじだ)
レイヤーキーという考え方によって、
なるべく手を動かさず、
ホームポジションのまま打鍵し続ける、
ということが可能になる。
109キーボードをフルキーブラインドタッチすることは出来ない。
人類には広すぎる。
しかしレイヤーキーを駆使すれば、
「両手で届く範囲」に、
キーボードを圧縮することが可能だ。
これを、どう圧縮しているのかが、
キーマップ、配列(広義の)である。
あと、マクロという考え方もある。
単キーでなく複数キーの連続を仕込もうということだ。
配列で言えば二重母音「ou」を仕込んだり、
薙刀式でいうと「カーソル位置から文末まで削除」
(Shift+End→BS)なんてのもそうだ。
「コピーしてブラウザを開き検索」とか、
「ピザをクレジット払いで注文する」とかも作れるかもしれない。
(介護用ベッドを入力環境用に改造して、
ベッドの動かしやエアコンや電気のボタンも仕込んでいる人は見た)
ここまでは、
既成のキーボードの物理は変えず、
どのキーをどのキーとするか、
という論理的な配置でしかなかった。
今流行の自作キーボードとは、
その物理配列ごと変えてしまおうという流れである。
3. 物理配置を変えてしまう
そもそも両手で扱うものは、
左右別々のところにあるほうがいいんじゃないか(左右分割)。
左手キーボードだけでいいよ(片手用)。
そもそも何で左に傾いてるんだ、不自然だ、まっすぐにしよう(格子配列)。
指の長さが違うんだから、それに合わせてキーを縦にずらそう(コラムスタッガード)。
いやいやいや、指は3D曲面で動くんだから、3Dにキーを配置しよう(3Dキーボード)。
あるいは、
親指は遊んでるから、親指に豊富にキーを持ってこよう。
人類は3段しかブラインドタッチはできない、
4段目以降のキーはすべて30キーの中にレイヤーで押し込め
(40%キーボード、30%キーボード)。
親指は使わない(30キーのキーボード)。
こんな風に、物理配置を自由にしてしまえば、
動線の物理から設計し直せる。
そもそもなぜそうしなかったかというと、
これまではメーカーから与えられるしか手段がなかったからで、
今は自作の環境が整ったからだ。
(メーカーから出るものが、毎度同じものしかなく、
冒険した新製品が出なくなったことで、
不満が溜まったことも大きい)
つまり自作キーボードをやることは、
「自分の動線はなにか?」と問うことに等しい。
僕個人のここ3年でいうと、
qwertyローマ字をブラインドタッチで覚えようとして、
指の配置や頻度の偏りに疑問を覚え、
アルファベットや機能キーを再配置したカタナ式ローマ字配列をつくり、
ローマ字の打鍵数に疑問を覚え、
薙刀式カナ配列をつくった。
その後既製品キーボードの作りの安さに、
高級キーボードHHKB、NiZを渡り歩いたが満足せず、
そもそも既製品キーボードの物理配列に疑問を覚え、
自作キーボードMiniAxe(左右分割、格子配列、36キー)を愛用して、
キーキャップを3D曲面にしたり、
今までにない感触のキースイッチ改造をしている。
キーマップや配列は変えられる。
狭義にも、広義にも。
論理的な配置(同じ物理配置内での再配置)はできる。
物理配置ごと変えたっていい。
レイヤーキーで層を重ねれば、
キー数なんてどんどん減っていく。
手が届き、疲れず、作業効率はどんどんあがる。
僕は、剣の達人が、
どんどん動きが最小になっていくことをイメージする。
だから僕は配列の名前に、武器の名前を冠している。
キーマップを変えよう。
配列を変えよう。
狭義でもいいし、広義に変えてもいいし、
論理的に変えてもいいし、物理的に変えてもいい。
もしちょっとでもキーボード(や入力方法)に異議があるならば、
自分で工夫できる時代に、
もう突入している。
偉大なる先人の工夫は蓄積されている。
あとは、あなたがどういう動線なのかを、
整理すれば良い。
ぼくはあなたがどういう人かは知らないので、
結論を出すことはできない。
どういうものが向くかは、あなた自身の手で確認するしかない。
そして、配列界隈(文字配列をいじる人たち)や、
自作キーボード界隈(設計者、それを使いこなしたりアレンジする人)は、
色んなところで他人の手を覗き込み、わいわいしているよ。
2020年07月01日
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