2020年08月02日

見たことのない絵は存在するか

まだ駆け出しだった頃のこと。
映画に(比較的)詳しい僕に、後輩が聞きに来た。
「見たことのない絵を探してるんですが、なんか知ってますか?」
ん?
俺が知ってるのは、俺が見たことのある絵だが?


某T社のCMのプレゼンだという。
当時のT社は気に入らなければ何回でもプレゼンさせる鬼で、
業界用語として○Pというのがあった。
○には数字が入る。
そのときはたしか24Pあたり
(24回目の企画プレゼン。
一回のプレゼンに10案は持っていく)だった。

で、絵で描いたやつじゃわからないから、
実際に似たようなビデオを持ってきて説明しろという。
今でいうビデオコンテの走りで、
ざっくりと編集してプレゼンするわけだ。
1案ならまだしも、毎回10案、24P。

そろそろ気を失いそうなメンツたちは、
無理難題を押し付けられていた。
「見たこともない絵を持ってこい」と。


つまり、T社サイドから見たら、
「そういう感じの絵は見たことがある」というわけだ。
何かに似てるならばそれはオリジナリティではないわけだから、
オリジナリティを求めるのはよくわかる。
しかしそれを、
「すでに撮影された映画やCMから探して繋いで見せよ」
という矛盾。
なんというとんちか。

俺はたしか、「真ん中を歩くのがこたえだ!」と答えたと思う。


プレビジュアライゼーションという言葉がある。

まだないものを、
どうにかしてビジュアル化することだ。
レファレンスという言い方もされる。


その時、既にある似たものを持ってくることが、
是が非かという話である。


僕は圧倒的に非の立場だ。

だって既にあるものに似たものしかつくれないじゃん。
そんな感じでちょっと違うことやりますよ、
というプレゼンならば、
その違うところもビジュアルで見せてくれ、ってなるに決まってるじゃん。

一方、お金を出し、社運を賭ける側からしたら、
訳の分からないものに身を委ねるのは恐ろしいだろう。
なるべく事前に訳が分かっていたいと思うだろう。

ここに矛盾があるわけだ。

見たことのないものには金が出ない。
見たことのあるものには客が来ない。


僕は、T社っておかしな会社だな、関わらんようにしとこ、
などとそっとその場を離れたが、
実は映画の現場がそうなっていることに、
閉口した記憶がある。

原作付き映画のことだ。

つまり、事前に絵が見えているから、金を出そうというシステムだ。
ほんとに見えてたら進撃の巨人に何億も出さない。
つまり、
事前に絵なんか見えてないのは、
数々の爆死を見ればあきらかだ。


あなたはオリジナルなストーリーを書くべきだ。
それが文学というものである。
見たことのない絵で、見たこともない冒険をするべきだ。

しかしそれは、見たことのある絵で保証せよという。

これが、現在、
面白いドラマも映画も広告も、
つまりは映像で語るストーリーが、
日本でできなくなってしまっている、
最大の理由だと僕は考えている。


何に感動するのか。
どういうマイナスからどういうプラスに駆け上がるのか。
こうしたことを絵なしでプレゼンできない限り、
いつまでたっても「見たことのない絵を持ってこい」
と愚か者は言うだろう。

あなたのストーリーは、
どんなイコンで象徴されるストーリーなんだ?

その絵を描いて、
数々の見たことのある絵を凌駕しなさい。

(その絵は、うまくなくてもいい。
何に感動するのかさえ示せれば良いだろう。
トーンアンドマナーの写真があれば突破できる。
そしてそれは、オシャレと言われる写真にしときなさい。
どうせその通りになるかどうか問題ではなく、
見たことのある絵だから安心するだけだ)


ただ見たことのない絵だったらOKなわけがない。
見たこともない、これまでのものを全部超える、
めっちゃ良さそうな絵が、ほんとのOKだ。



そういえばそのプレゼンののち、最終的に作られたものを見た。
T社らしくはないが、見たことのある絵だった。
TY社が見たことはないが、俺たちは見たことのある絵だった。
T社の教養の範囲なんてその程度だ。

その商品が売れたとは聞かない。
納得して社運を傾けたのか、
出入り業者に責任を被せて逃げたかの、
顛末まではしらない。

入ったときは元気だったその後輩は、何年か後に会社を辞め、
今どうしてるかは知らない。

おそらく、こうやって荒野は広がったのだ。
posted by おおおかとしひこ at 23:47| Comment(0) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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