2020年08月16日

理解するのにかかる時間

というものがある。


オタクの早口を思い浮かべよう。

オタクは何故早口になるのか?
それは「言いたいことが沢山あって、
湧き出てくるからで、
なるべく沢山のことをいいたい」
からである。
それは、「知識の豊富さ」によるところも大きい。
ずっと一人で調べてきた、長い時間も、
そこに含まれる。

だからその知識が分かりそうな人に出会うと、
それが一気に流れ込むのである。
あれも知ってる、これも知ってる、
全部面白くて大事な知識、
だから全部教えてあげなきゃ。

オタクの早口は、つまりは親切心なのだ。
(知識量でマウントを取りたいやつは別)

そしてこの現象にはもう一つ別の面がある。

「相手が理解していないことを、確認していない」だ。

相手のキャパを超えた情報量は意味をなさないのだが、
オタクは知識の整理で手一杯で、
相手のキャパオーバーを確認する余裕がない。

こうして、
必死に早口で喋るオタクと、
話が終わるまで待ち、二度と話さないであろうという、
悲劇の断絶が起こる。

オタクはせっかく親切にしたというのに、
また理解されない孤独に戻るわけだ。


これと同じことが、
あなたのシナリオでも起こっているかも知れない。

つまり、
親切心(か何か)によって、
沢山沢山盛り込んで、
結果観客がおいてけぼりになっているということ。

リアルな対面ならば、
相手の顔を見ればその塩梅はわかるし、
演劇でもいい役者は観客の温度を見ながらやるものだ。

だが映画はそうではない。
観客の顔を見ることはできない。

だから、
あなたは、書き手であるとともに、
観客の代表にならなければならない。

あなたが書いたものを、
受け手がどう受け止めているかを、
感じながら書かないといけない。

この矛盾に慣れない限り、
書くということはマスターできない。


説明文でも、
ここちょっと分かりにくいかなあと思ったら、
説明を足すこともあるよね。
例え話にしたりね。

説明文でもそうなのに、
物語文がそうでない理由などない。


早口のオタクのようなシナリオとは、
たとえば、

・事件を噛み砕く間もなく次の事件が起こる
・登場人物の気持ちを推し量る前に次に行ってしまう
・味わい、しゃぶり尽くそうとする前に次に行ってしまう
・落ち着いて考えようとする前に次に行ってしまう
・情報量が多くて整理できない
・付帯状況が多すぎて何が大事なのか見えない

などだろうか。

あなたが思ったものを、どんどん書きまくったが故に、
受け止めきれないものになっているのだ。


あなたがそのシナリオに掛けてきた時間は、
鑑賞時間の2時間に比べて、
はるかに多い。
数ヶ月、半年、年単位なんてざらだ。

だから、それらを全部ぶち込みたくなる気持ちはわからないでもない。
でもそれは、2時間で理解する面白さか?
ということだ。


短編を書け、と僕は散々言っている。
○○の尺に丁度いい内容というのがあって、
上手なストーリーテラーは、
それに十分な内容に、噛み砕いてくれるというものだ。


早口のオタクは、
「相手が理解する時間」を0として見積もっている。

簡単なことで、間をつくればよい。

相手「…」
という一行を挟んで、
「理解している時間」を含もう。

ついでにいうと、
「理解している時間」の他には、
「感情が湧き上がり、それに共感する時間」
「これから先を想像する時間」
なども存在する。

それらがシナリオに入っていれば問題ない。
ない場合は、監督が実景を挿入したりして、
間を作ることもよくあるよね。


あなたは100%内容を理解して書いているから、
最高効率で書くべきだと無意識に思うのかもしれない。

鑑賞時間とは、
「理解、共感、反応、想像」
の時間でもあることを念頭に入れるべきで、
「わかってる人同士の最短時間会話」
ではないことを思うこと。


一番簡単なテクニックは、
その場にわかってない人を放り込むことで、
「え?」
「いったいどういうこと?」
「そんなバカな…」
「ということは…○○ってことですか?」
など、
観客の理解、共感、反応、想像などを、
かわりにやってくれる時間をつくることが出来る。

しかし毎回やることも出来ないので、
「もしこの場にそういう人がいたら?」
を想像しながら場面を描くことも想像しよう。

もちろん、
「観客全員がわかっている」確信があれば、
ガンガン早口にして回転を上げ、
バンバン面白く展開していけばよい。
その、
「理解や共感と、テンポが合っている」
感覚は、
とても気持ちのいい話にしかない。


すべてのストーリーテラーが、
すべてのストーリーで出来ることとは限らない。
想定観客層が違えば、ズレもあるかもだ。

しかしながら、
あなたが書くものを見るのは、
色んな人であるわけだ。


平均的な観客の想定はどうすればいい?
それが上手なのが、名作と呼ばれる一連のものである。
もしあなたがそのストーリーを語るとして、
そのテンポでやるかを想像すると、
その語り手と自分の差異が、実感できると思う。
posted by おおおかとしひこ at 00:44| Comment(0) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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