2020年08月16日

地に足の付いていない少年の成長(漫画「鬼滅の刃」10巻まで評)

一応押さえておかねば、と思いとりあえず10巻まで読んだ。
蜘蛛のあたりで退屈したが、
煉獄が出てきてから面白くなった。

僕は以前から女性作家が男の漫画を描くのは、
男性作家が女の世界を描くくらい困難だと考えていて、
今回もその部分がとても気になりながら読んでしまった。

以下ネタバレ。


ああ、この人女なんだなと気づいたのは、
妹の扱いだ。

男から見た女を描いてなくて、
女から見た「わたしとお兄ちゃん」を描いてるなと感づいた。
とりわけ、
妹の足が太いことでそこに気づく。

男がファンタジーで思っているエロい足に比べて、
ずいぶん骨太な、リアルにいそうな太さだった。
ああ、これは、
この肉体を持っている人でないと描けない線だなと思う。

女性作家にありがちな、
バトルの空間描写が甘いことや、
中二ネーミングの教養のなさ、
(特に技名がショボい。車田正美を見習え)
天狗の鼻が上を向いていないこと
(男が天狗を書くなら絶対ちんぽと同じで、
過剰に上を向く)、
なぜかギャグを出し、それが滑っている、
武器への執着のなさ、呼吸法など強くなる方法の理屈のなさ、
などは、
まあしょうがないか。


代りに、
女キャラがとても豊かに描けていること、
(誰一人として同じ感じの女がいないのがすごい。
平凡な男性作家なら、せいぜい3種類くらいだろうに)
服が全部違うように描けていること、
女がきゅんとする男が描けていること、
(とくに表裏のコインのエピソードは抜群。
あれは男は書けない。
あと蝶の館の回復イベントであんなにページを割かない。
でもノリノリで貴重なパートだった)
モノローグや回想の使い方がうまいこと、
などは、
男性作家には太刀打ちできない非凡さを感じた。

だけど、
「ああ、女は男のこういうとこしか見てないのか」
という失望もある。
女がきゅんとする男のあり方って、
女から見て理解できる部分までなんだなあ、
ということがわかってしまう。

たとえば煉獄は理想的な男として描かれているが、
彼の抱える闇や孤独まで踏み込めていなかった。
彼の内面が全然なく、
「外面だけの人」みたいになってしまっていた。
「理想の他人」であり、「自分」ではない、
みたいになってしまっていてとても残念だ。

元忍びの二刀流の人はああいうことでいいけど、
煉獄はなあ、もうちょっとなんとかして欲しかったところ。

当たり前なのかもしれないが、
男は女に見せていない部分の方が、心の領域は大きい。
女に見せる部分は、ちょっとかっこつけた部分だからね。
ほんとの男は、もっとみっともなくてどうしようもない部分がある。
(もちろん、男に見せていない、女のどうしようもない部分は、
女たちだけが知っているだろうが)

少年の成長というのは、
その、どうしようもない男の弱さを認めて、
それを凌駕していくことでもあると僕は思う。
あのアムロですらガンダム持って脱走したのに、
炭治郎はいい子すぎると思う。


炭治郎は、
わりと繰り返し「鬼は許せない」を確認する。
剣で斬りつけるのは紛れもない暴力であるからね。
それが、お題目的で詰まらなかった。
怒りで、というのもちょっと違うと思う。

弱い男が我を忘れるのは、
「自分より弱いやつが出てきて、
とことんいじめたいと思った時」だ。
そういう痒いところに手が届いていないのが、
他人から見た少年レベルなんだなあと思う。

今後、半人半鬼みたいなのが出てきて、
「それでも切るのか」みたいな、
アイデンティティーがぐらぐらする事件があるといいのだが。

さて11巻以降どうなるか楽しみだ。
遊郭編クライマックス。
敵の花魁が、もっと女同士のドロドロ(男性作家には描けないような)
だと面白かったんだけどなあ。
posted by おおおかとしひこ at 00:35| Comment(4) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
ほほう。前からそっち方面もやたら詳しいと思ってはいましたが、漫画分野にも手を出すんですね。
 
鋼の錬金術師の作者とかも女作者だとわかった途端なぜか叩かれたりしてました。
(主に出産シーンで)

多分女だからというのに全員が共通するわけではないんでしょうけど、それでも共通する部分が出てくるのは不思議です。

滑ってるギャグはどういう現象で起こることなんですかね?

また当然男でも滑るギャグっていうのはあると思いますが、なぜ女の人が作者というだけでそこが取り上げられるんでしょう?

Posted by あ at 2020年08月16日 06:08
鬼滅の刃が空前絶後の大ヒットとなったのは
女の豊さ、女のツボを描けているからなのでしょうか。
女性が力を持ち始めている時代ですし
ある意味時代とマッチしたというか。
(巷ではアニメの出来が滅茶苦茶良かったから
相乗効果で原作も売れたのだ、などと言われてますが)
それにしても発行部数6000万部は
ちょっと売れすぎではないかと思いますけど…
Posted by 陰陽 at 2020年08月16日 10:46
あさんコメントありがとうございます。

男女差が出てくるのは、
先天的脳差/後天的文化差が大きいと思います。
ゲイやレズやその他BTQの人たちのそれは、まだ数が少ないので分かりません。
あるいは、白人黒人モンゴロイドでの差もあるかもしれません。

男の笑いと女の笑いは、どこか根本的に違うと思います。
男の方がツボが狭いと思います。
(女は極論なんでも笑う。紳助か松本が、女を笑かしても意味がない、
と昔言ってた)
男が描く場合、その狭い範囲に届かない出来だなと思うとボツにするけど、
女の場合基準値が緩いのでそのまま出しがちですね。
バトルの空間描写についても同様です。
本人の基準だから、滑ってることに自覚的でないのが問題。

ここだけはどうしようもない欠点ですが、
それを凌駕する面白い部分があればプラマイだと思います。
10巻まではプラマイぐらいかな。

鬼滅はアニメで火がついてから売れたらしいので、
バトルの空間描写などを補完したと予想します。
予告編見た限り素晴らしくヌルヌル動いてたので。
Posted by おおおかとしひこ at 2020年08月16日 12:19
陰陽さんコメントありがとうございます。

原作の10巻までだけだと、ヒットまでは行かなかったでしょう。
進撃とかは原作も面白かったけど、そこまででもないかなと。

単純に、男はもう漫画を読んでないんじゃないでしょうか。
仮面ライダーと同じ、すでに男の見るものになっていないという。
「母親が男の子に見せて安心なもの」しかヒットしないのはどうかと思います。
もっと世界は危険と嘘と欺瞞と偽善に満ちている。
それをどう変えていくかという、男が描いた少年ものが真に待たれます。

ものすごく大きな視点で言えば、男の喜ぶフロンティアが、
バブル崩壊後見えなくなったからでしょう。
今フロンティアは金融とVRの中にしかない。
Posted by おおおかとしひこ at 2020年08月16日 12:25
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