2020年09月05日

奥方向を使った演出

絵面の話をするけど、これは根本的なので、
そのうち脚本論につながります。


画面の奥方向の演出を使える演出家は少ない。

画面が平面だからか、
左右、上下への意識はあっても、
奥方向をうまく使えないことが多い。

左右(カミテ、シモテ)への移動、フレームインアウト、
カメラ移動、フレーム外とのやり取りは、
よくある演出技法だ。

これを上下にやると、梯子やロープを使ったり、
階段を使ったり二階のベランダと庭を使ったり、
木の上を使ったりジャングルジムや鉄棒を使ったり、
クレーンやドローンを使ったり、
落ちたり登ったりする。

これをふつうに使える演出家も少ない。
そもそも脚本に書いていないことが多いからだ。

水平移動だけが人間の行動ではない。
垂直の移動や方向性もある。

たとえば上や下の階の住人とのトラブルは、
マンション暮らしならちょいちょいあるかもだが、
これをシナリオに応用しようとする脚本家は少ない。

人間の移動を水平方向でしか認識していないからだろう。

これを上下に拡張するだけで、
風景は違って見えるというのに。

単なる関門を潜り抜ける単純なストーリーにも関わらず、
「死亡遊戯」はそれを階を登ってゆく、
という構成にしただけで、
急に面白くなった。
第○階の敵の○は、明らかに強さレベルを示しているから、
わかりやすくなったわけだ。

ドラゴンボールでも、天界へ登る話は格別に面白かった。
水平移動だけではない、
垂直移動の世界があるだけで、
世界は大きく見え方が変わる。

これは、シナリオで作ることもできるし、
演出家が平面のシナリオを立体的に演出することも、
まれにある。


さて本題。
映画は平面画面だ。
だから、左右と上下は作れるのだが、
奥手前方向の演出を意識したことがあるだろうか?

奥で起こっていることが手前に来たり、その逆だったり、
奥へ進んだり、手前にやって来たり、
手前で起こっていることが奥に干渉したり、
長い廊下やつり橋の上で、奥方向のみでの芝居になったり、
などである。


単純に、奥へ進む男(女)を背中を後ろからつけて撮影し、
物事が進むことを示した、
「レスラー」「ブラックスワン」があった。
FPS的でもあるかもしれない。
全編主観映画ならば、奥へ進むことは前に進むことで、
手前に戻ることは後退を意味するだろう。

リアル世界は3次元で、時間を含む4次元だ。

これをフィクションの世界に落とす時、
左右しか動かない世界はへんだよね。


空間の想像力を持とう。
ダイナミックに動いてもいいし、
繊細な方向性があってもよい。

人間は、一切左右に動かずに、奥手前と上下だけに動いてもいいんだよ。

そういう空間の想像力が欠けている脚本は、
結局詰まらないんだよね。
そのストーリーをどう表現するか、
まで心が砕かれていない感じがする。


人はどういう場所に生きているのか。
人と人はどういう場所でどう絡むのか。

ためしに、
二階建てベッドの上と下の話、
すれ違いが難しい廊下での話、
物凄い坂での話、
などを考えてみたまえ。

それらが普段書く、平面的なストーリーに影響を与えるならば、
あなたはまだ空間を想像する力が弱い。
posted by おおおかとしひこ at 23:56| Comment(0) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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