2020年08月30日

小品のシナリオと贅沢な表現のアンバランス(「千年女優」評)

今敏の見てなかったやつを見よう週間。
表現のディテールは面白いし、すごい書き込みだし。
でもそれ、この程度のシナリオにするべき仕事かしらね。

以下ネタバレ。

テレビがHDになってから起きた不幸と、
同じ気がする。

高画質のものは、内容も質が良くなくちゃだめだ。
ゲームのグラフィックが進化したら、
内容はファミコンのクソゲーレベルではだめなのだ。

SDにはSDなりの低俗さがあって、
テレビはそこに留まっていれば今でも元気だったろう。

HDの高画質を生かしきれない、スカスカな内容ばかりで、
HDを維持するだけの技術費投入もないので、
トータルの品質は低下してゆくのみだ。

それと同じ感想をもった。


30分から45分のシナリオならちょうどよいのでは?

このボリューミーな書き込みの豊富さが、
内容のスカスカさに合っていない。


冒頭、出来れば相手役のセリフを、
社長が暗記していて全部喋ってれば、
もっとわかりやすいかもしれない。

映画と記憶の混同された中盤で、
彼女を助ける役が全て社長だが、
あれは熱心なファンのアテレコなのだと分かるだろうから。

実際助監督だったことが分かるのだから、
その役で登場して、
彼女を馬車に乗せたり、
危険な道具を貰ったりすれば、
もっと混同が進んで面白かったろうに。


シナリオの不備としてひとつ思うのは、
画家から伝言を預かった戦傷兵が、
「あの男は死んだ」と言った場面、
なぜそれを彼女に最終的に伝えなかったのか?
という点だ。

「誰もが、彼女がそれを知ると悲しみ、
生きる気力をなくす。
それは大女優の死を意味する。
だから、黙ってて彼女には生きてると言って、
女優を続けさせた」
という残酷な、踊る人形を皆で愛でる話でもなかった。

そうなったからと言って面白かったかどうかは、
また別の話だ。


今敏のストーリーの中には、
よく映画が出てくる。
パプリカも元映画青年の話だし、
彼は8ミリ映画サークルにいたのかもしれない。

だからか、「実写映画への憧れ」が異常に強すぎる気がする。
今回は内幕ものだけど、
憧れが強いくせに現場への愛やディテールが乏しく
(撮影所出身の中田秀夫「女優霊」と比較せよ)、
そのへんがふわふわしすぎて、
着地しきれていないといつも思う。

それは「女」への目線もそうで、
「彼を追いかけてる私が好き」のオチってなんやねん、
と思ってしまう。

そうした自己愛の話であるならば、
徹底的に悪意に満ちた話にすればよいものを、
憧れのようなものに閉じ込めてしまうきらいがあると思った。


映画の話を書けば映画愛があるわけではない。
映画は「おもしろい」から愛するべきなのであって、
今お前が作っている映画は、
そんな映画たちと同じクラスの面白さを与えているのか、
っちゅう話や。

(下手くそな部下の関西弁はホンマイライラするわ。相手役の大女優の下手な京言葉もね)



ということで話は冒頭に戻り、
30分ないし45分くらいならば、
その程度のオチでも印象に残る佳編になったかも知れない。

脚本論ではたまに、
尺と内容の規模感について議論するが、
これはディテールに呑まれて内容が薄く、
内容のあるべき尺に対してオーバー尺だったということだ。


僕は、ディテールの素晴らしさは、
内容の素晴らしさありきだと思う。

魂の入っていない仏像が、
表面だけ美しくても芸術ではない。



(ただ凡百のアニメ監督に比べて、今敏が何かなさんとしていた、
その勢いはよくわかる。今作は微妙だが次作を期待、
という意味での批判であることはたしかだ。
つくづく、惜しい人を亡くした)



追記:
ある一つの小道具を巡って、老人が回想し始める、
という構造は「市民ケーン」と同じで、
映画青年がまず勉強した素材である。
それをなぞっているところも、
「俺実写に詳しいから」と言ってる感じがするところ。
市民ケーンは、最後に小道具の意味がわかるところが素晴らしいのだが、
今作は微妙だ。
posted by おおおかとしひこ at 16:31| Comment(7) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
>HDの高画質を生かしきれない、スカスカな内容ばかりで、
>HDを維持するだけの技術費投入もないので、
>トータルの品質は低下してゆくのみだ。

ふと思ったのですが、youtubeが今、元気なのと関係があるのかな、と(本当に面白かどうかは置いておくとして)。
4k画像でもyoutubeは見れますが、基本は小さなパソコン画面かスマホで見るものですよね。少なくとも大劇場の画面サイズで見られることは、まずない。

なので、youtuberレベルの作品でも、もてはやされるのかなあ、などと思った次第です。
Posted by ふじ at 2020年08月31日 14:46
>ふじさん

そうですね。映像を個人制作できるようになったのは、
そういうことだと思います。
デジタルビデオやPC編集以前は、プロや役者やモデルを雇って最低でも100万かかってたので。
YouTubeは100万出す価値はないけれど、
映像スナックとしてはちょうどいい。

ネットでショートフィルムが沢山作られているのも、
似た傾向だと思います。

だからプロが劇場で出すレベルの、ハードルが逆に上がっているという。
Posted by おおおかとしひこ at 2020年08月31日 15:21
「風魔」とか画質が低いのを逆手にとって、youtubeで流せばいいのに、とか思いますが、失礼な意見でしょうか(権利者じゃない監督にいっても仕方ないですが)。

再販する予定がないなら、youtubeに公式で出した方がまだ色々メリットがあるのでは、などど愚行する次第です。

見たことないので見たいですね。youtubeに上がってたら絶対見ますよ。
Posted by ふじ at 2020年08月31日 15:26
>ふじさん

自分がやったのバレたら流石に業界出入り禁止なので、
誰かやってくんないかなあとひそかに思っております。
いまや絶版レベルだからねえ…

TSUTAYA渋谷にはレンタル版がまだあると、
ちょっと前に聞いたので確認してみて下さい。
全国のどの店に置いてあるかわかるサービスもあったような…

あとはキャストファン向けの店に中古でたまに出るようです。

あるいは大きなお姉さまのファンは沢山いらして、
全巻持っているようなので、Twitterなどに突撃して見せてもらう、
という強引な手はあるでしょう。(これなら私的試聴の範囲)
「風魔を見たことがないので是非見たいのです!」
と正直に言えば、身バレさえ気をつかえば風魔仲間を増やすために布教してくれる、かも。

あと大昔ニコ動に無断で上がってたけど、
あれは削除されたのかしら。
特典映像はたまにYouTubeに上げられてるのを見るけど、
本編は定期的に削除されてるのかもです。

あとは東宝さんに再販希望の熱いメールを!
Posted by おおおかとしひこ at 2020年08月31日 18:02
ちなみにTSUTAYAで調べたら、
お取り寄せレンタルに対応していたので、
全国のどこかの店舗にはあるようです。
問い合わせてみてください。
Posted by おおおかとしひこ at 2020年08月31日 19:41
ツヤタの宅配レンタル
https://movie-tsutaya.tsite.jp/netdvd/dvd/goodsDetail.do?titleID=0088055378&pT=null

ゲオの宅配レンタル
https://rental.geo-online.co.jp/series-4293.html

DMMの宅配レンタル
https://www.dmm.com/rental/ppr/-/list/=/article=series/id=103989/

でも見れるみたいですね。見てみようかなー。

ツタヤのサイトのユーザーレビューが熱い!
Posted by ふじ at 2020年09月04日 16:02
>ふじさん

ゲオとDMMは新情報ですね。ありがとうございます。
あんまりハードル上げすぎるとアレなので、
2007年、地上波とはいえU局(MX、tvk、サンテレビ)限定深夜ドラマという文脈を念頭に置くといいかもしれません。
5話まで見れば、あとは安心して観れると思います。
Posted by おおおかとしひこ at 2020年09月04日 16:18
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