2020年09月05日

あなたの話が詰まらないのは、夢の話が詰まらないのに似ている

自分では面白いと思ってる話なんだけど、なぜか受けない。

あなたのセンスが絶望的にないかも知れない。
あるいは、
本当に面白い話かも知れないが、うまく伝わっていないだけかも知れない。

それは、昨日見た夢を説明することに似ている。


ものすごく怖い夢を見たとしよう。

それをすごく怖いんだと説明するとしよう。

その夢のディテールを詳細に、
まるでその場にあるかのように描写できれば、
他の人もあなたと同じように怖がるか?

僕は否だと考えている。

僕の怖がるものと、Aの人の怖がるものと、
Bの人の怖がるものは違うからである。


僕が今朝見た夢は、
元カノがうちの駅で待ってる夢だった。

これをいかに描写しても、
可愛い元彼女が駅で偶然を装って健気に待ってくれている、
という恋愛映画の一コマにしか見えないと思う。

僕は、その恋愛映画的な描写に恐怖を感じた。
なんでこの駅を知ってんねん、
という恐怖だった。
その人と付き合っていたときには住んでいない駅に今いるからだ。


つまり恐怖には理由がある。

客観描写だけではわからない、主観的な理由がだ。

それを伝えない限り共有できないのだ。


なぜ怖いのかわかれば、他人も怖いと思える。
「知らないはずの駅をどこかしらで突き止めて、
しかもしばらく張ってたんか。こわ」
と、伝わるようになるわけだ。

しかし、だとしても「可愛い子が待ってくれてるのは嬉しい」
となる男はたくさんいるはずで、
まだ怖さは伝わらないかも知れない。

この、「まだ怖さは伝わらないかも知れない」
という感覚が重要なのだ。

僕の感じた主観的な恐怖を、
他の人全員が感じられるようにすることが、
表現なのである。

「彼女は知らないはずのうちの駅で、
待ってたんすよ。怖くないですか?」
ではまだ半分だ。

僕が恐怖を覚えたのは、
「別れたのは15年くらい前なのに、
まだその時のままの姿だった」からかも知れない。


それ以来会っていないから外見が更新されてないのだろう。
つまり、記憶の亡霊のようなものが、
僕は怖かったのかも知れない。

だとすると、
この恐怖は、
「彼女は知らないはずのうちの駅で、
待ってたんすよ。怖くないですか?」
ではなく、
「なぜ記憶の亡霊が自分の都合の良い願望を見させるのか?」
という恐怖だと理解できる。

ここまで噛み砕けば、
理解できるようになる。
「あなたも過去の栄光の記憶があるでしょう。
それがもし15年も経ってるのに、
自分の願望をたとえ夢でも叶えようとする。
あなたそれ以来幸せじゃないんじゃないですか?」
と言われれば、得も知れぬ恐怖だと分かってくるだろう。

この時はじめて、
恐怖を理解したとなるからだ。

それは怖いかも知れない、自分のアレがそういう風に夢に出てきたら、
と自分に置き換えて想像をはじめるだろう。

ここが重要だ。

訳の分からない描写をされて、
面白いでしょう?怖いでしょう?
は、その人の主観の共有にすぎない。
そして主観は共有できない。
余程親しい人で大体どういうことかわかってればわかるが、
知らない人のそれを共有することは難しい。

だから、表現に変換するのである。

この場合、
「駅で待ってた元カノが怖い」ではなく、
「今おれは幸せだと感じていないことを、
過去の栄光を使って補完しようとしていることが怖い」
のようにだ。

すなわち。

表現とは、それそのものではない。
それのもたらす意味をどう伝えるかだ。

正確にいうと、
あるディテールAをもって、
意味Bを伝える事である。

この場合Aは「駅の元カノ」で、
Bは「過去の栄光での補完」である。



面白い話を思いついたんですよ、これ面白くないですか?
は、Aのみの場合がある。
そこにBが加わってくると、
「なるほどAは面白いね」になる。

つまり、あなたのBが伝わっていないのである。

Aを媒介mediaという。中間生成物の意味だ。
表現とは、具体的なAを介して抽象概念Bを伝えることを言う。

あなたの話が面白くないのは、
Aに終始して、
Bが伝わってないのかもしれない。
(あるいは、Bだけを並べて、具体的なAに落とし込んでないからかも知れない)


すごい面白い体験をした、
すごい面白い夢を見た、
他人がそう前置きする話に限ってちっとも面白くないのは、
彼または彼女が主観的にはわかっているがこちらには見えないBを語らず、
Aだけに終始しているからである。

なんでAでBだと思うのか、
そこがわかると、
説明や表現は、一気におもしろくなる。
posted by おおおかとしひこ at 00:05| Comment(0) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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