昔店頭で触って、パームレストの楽さに声を上げた。
しかし持ち運びにはしんどいので見送った記憶。
ロケットニュースに使用実感が。
https://rocketnews24.com/2020/03/08/1341401/amp/?__twitter_impression=true
そういえばこれ、アリスレイアウト×お椀型という、
珍しいレイアウトだなあ。
アリスレイアウトは海外の流行で、
最近国内の自作勢も試している。
左ロウスタッガードを左右分離して、
ややハの字にして、
下段から上段へいくに従ってキーを開き気味にする
(してないのもある)感じのやつ。
左右分割よりは一体型のレイアウトとして有名で、
最初にこれを採用した自キからこの名前がある。
左ロウスタッガード→移行がしやすい
左右分割、ハの字→肩が楽になる
下段から上段へいくにつれて距離が開く
→人の指は開く方向に距離が開く
あたりがこのレイアウトの意図である。
また、マイクロソフトエルゴノミクスの場合さらに二つあって、
お椀型であることと、山形パームレストだ。
お椀型である意味は、
「指の長さは違うので、
構えた時からすべての指が等距離になるように」
という配慮だ。
ただしこれは、
「指先で突き刺す打鍵法」の場合にのみ適用可能で、
僕みたいに撫で打ちする場合、余計にやりづらかったりする。
このキーボードはパンタグラフだが、
パンタグラフを使う人は撫で打ちの傾向が強いため、
おそらく設計の意図は伝わっていない。
メンブレン+トップ面がスフェリカルなキーキャップにしたらよかったのに。
ここがこのキーボードの間違っているところだと、
僕は考えている。
ただパンタグラフにしないと、コストがかかりすぎただろうことは想像できる。
担当者には同情する。
同じ構造でメカニカルを採用した上位モデルを出せばよかったのにね。
で、実はこのキーボードの一番いいところは、
このパームレストだと僕は思う。
人間の腕を机の上に自然に投げ出すと、
小指側は机につくが、
親指側は微妙に浮く。
つまり、肘は微妙に外旋する。
これが人間の自然な形だ。
だから、山形(テント)になるように、
左右分割は配置するべきなのだ。
これを自然に置けるように、
微妙なカーブにテントに調整された、
大型のパームレスト(というより腕ごと置けるアームレスト)が、
このキーボードで最も出来のいい部分だ。
これだけでもパーツとして買いたいくらい、
腕の角度が気持ちいい。
(今調べたら無かった。所詮6000円で買えるから外して利用してみようかな)
記事にもあるけど、
全く力を入れずにキーを打ち続けられる角度になっている。
また、このパームレストは、
手前を微妙に高くし、
奥を低くする、いわゆる逆チルトを採用している。
手首を起こすチルトは、打ちやすいものの、
長時間打鍵では前腕が疲労する。
手首の角度を前腕と一直線にしたほうが疲れない。
そのためには、手前のパーム位置を高くして、
奥を傾斜にすることで打ちやすくなる。
これらの、
人間工学という名の経験則の集合体が、
このマイクロソフトエルゴノミクスキーボードだ。
HHKBを使ってなお腱鞘炎だったころ、
このキーボードが選択肢に入ったことがある。
痛んだ両腕を乗せた途端、
奇跡のように手が楽になった、鮮烈な記憶があった。
テント、奥チルト、という、
今に至る僕のキーキャップ設計の基本になる考え方は、
この時の感動から来ている。
(水平にキーボードを置いて、パームレストなしでも、
テント、奥チルトになるように3D曲面を描くキーキャップ)
ただし、
キースイッチがパンタグラフである安っぽさ、
お椀型で突き刺し打ちを強制される二点が気に入らず、
「キースイッチは極上をキープしつつ、
打鍵押下圧が低くなるNiZ」へ僕は移行した。
そしてその後左ロウスタッガードと親指が気に入らず、
MiniAxeへ移行して現在へ至る。
これを触った時に学んだいくつかの重要な人間工学的知見は、
今でも僕のキーボードとキーキャップに脈々と生きている。
こうした色んな要素の取捨選択が、
キーボードの好みになっていくのかもしれないね。
僕は二度とHHKBにもNiZにもリアルフォースにも戻らないだろう。
これらはキースイッチは極上だが、
左ロウスタッガードであること、
親指キーに問題があること、
テントでないこと、
に、問題があると僕は考える。
今僕が使っているキースイッチは、
リアフォの静電容量には及ばないものの、
かなりの極上タッチに仕上がっている。
キーの面も今まで触った中で最高の曲面をしている。
過去に触った「これはいいが、こうじゃない」の、
「こうじゃない」を全部捨ててここまできた。
その要素のセットは人によるのだろう、
ということを、
自作キーボードイベントで何百ものキーボードを触ることで理解した。
もしこのマイクロソフトエルゴノミクスキーボードを触ったことがない人は、
一度触ることをお勧めする。
どの要素が自分に響き、
どの要素が響かないのか、
それらを知るテスターの役割があると思う。
で、「○○は良かったが、△△はいまいちで、
それが▲▲になっているやつってないのかな」
と探し始めたときが、沼への入り口になっていると思うよ。笑
キーボードや文房具や、楽器や自転車や、靴や包丁などは、
自分の体に合うものがベストだ。
しかし、「どういう要素があって、自分は何が合うのか、
どういう自分の要素はどうなのか」を言語化することは、
とても難しい。
それらを言語化することが、人間工学だと僕は考えている。
マイクロソフトエルゴノミクスキーボードは、
今僕が書いたようなことを、言語化する義務があると思う。
「人間工学に基づいた」じゃねえだろ。
たとえば僕は他の人よりも足の幅が広く、
カカトから爪先でサイズを測る靴のサイズの決め方では毎回きつくて、
0.5センチ余らせる買い方をしてきた。
「幅広の人対応靴」を大学生ごろに知るまで、
僕は「標準よりも幅が広い」ということすら知らず、
毎回キツイ靴を買う間違いをして辛かったり、
縦だけブカブカな靴で運動が辛かった。
オーダーメイド靴を作ればそれを知ることは出来ただろうが、
庶民の僕は量販店でしか靴を買ったことがなかった。
僕が運動が嫌いになったのは、靴のファクターがすごく多いかもだ。
裸足で出来る武道は、僕を救ったんだもの。
こうしたことが、キーボードであってはならないと、
僕は思う。
人間が、人間の意志を伝える装置が、
僕にとっての靴のような、
枷であるべきではない。
2020年10月03日
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