2020年10月16日

【配列】ショールズ以前のタイプライターたちの配列

キーボードの歴史 - なぜQWERTY配列が定着したのか
https://reki.hatenablog.com/entry/201015-QWERTY-History?utm_source=feed
なるものが歴史ブログで取り上げられていた。
基本的には安岡さんの研究をなぞっただけで新しくはない。

ショールズ-レミントンがQWERTYをつくり、
他の4社を吸収合併してQWERTYはデファクトスタンダードとなったことから、
じゃあその4社のタイプライターはQWERTYじゃなかったのでは?
と仮説を立てて調べてみた。
結論で言うと、異なる配列だったよ。


レミントンが吸収合併したのは、
カリグラフ社、ヨスト社、デンスモア社、スミス・プレミエ社。
それぞれのタイプライターの広告もしくは現物写真を画像検索すれば答えは出る。

カリグラフ社。
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非QWERTY。でも中段ASDFGHは同じだね。
上段UIOも同じ。
しかし6段は多いなあ。当時は6本指法、8本指法などがあったらしく、
打鍵法そのものとペアで模索が続いたのだろう。


ヨスト社。
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解像度が低く、印字までは確認できない。
おそらく白鍵が小文字、黒鍵が大文字だろう。
シフト機構発明以前の代物だと思う。
(シフト以前はCAPSキーと呼ばれ、大文字専用キーだった。
今のCapslockに名残がある。シフトは記号キーにも二つ入れるようになってからの名称)
しかしこれはブラインドタッチ無理だな。
手すりみたいな、引っ掛け防止のバーがおしゃれ。

デンスモア社。
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(10/23追記:
安岡さんの指摘により、これはデンスモア社のものではなく、
カリグラフNo.3では、ということ。
詳しくはコメント欄参照)

これも解像度が足りないが、
白鍵が8文字×4段なのが興味深い。
人差し指伸ばし列はなし、というのも潔いな。
あるいは人差し指伸ばしはアリで、小指は機能キー専用だったかも。


スミス・プレミエ社。
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これのみQWERTY。「No.2」とあるところから、
レミントン買収後に自社ブランドとしてQWERTY版を出した可能性もある。

あと見つけたやつ。ブリッケンスデルファー社?ドイツかな。
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全体的に扇型に広がっている?
手すりがスペースバーなのかなこれ。まさかこれがスペースバーの名の由来?
上のキーボードの手すりもそうなのかな?
配列的には手前下段に母音が多く、上段にマイナー音が多い気がする。



僕は英語タイピングをやらないので、
これらの配列の良し悪しを議論できないのは残念だ。
しかしデファクトスタンダードが、
配列の良し悪しよりも、
単に政治力で決まったこと、
正論ではなく寝技で決まったことは、
記憶するべき出来事だろう。

「なぜQWERTYは合理的ではないのに、
世界でスタンダードなのですか?」に対する答えは、
「合理不合理以前に、権力財力がこうと決めて皆を従えたから」
だと言える。

配列ほど合理が必要とされるものですら、
1800年代の人類(アメリカ人)は、
支配力があるないで決めたのだ。


80年代の日本で、規格が優れているはずのソニーベータ方式は、
ビクター松下連合の、劣るVHSに駆逐された。
舞台裏を探ると、ビクターソニーの両方に開発させて、
いいと思うものを松下が選び
(基準はコストであり画質ではない。大阪商人らしい稼ぎ方だと思う)、
この時点で松下ビクター連合となり、数で勝ったわけだ。

高級キーボードが一定数しか売れず、
企業はクソみたいなメンブレンやパンタグラフを社用にするのと、
まったく同じ理由で、それがデファクトということだ。

もちろん、個人レベルでデファクトに逆らうことは、
21世紀ならできる。



記事中でも言及されていたが、Right Side Ratio という問題。
> 「QWERTY効果」または「Right Side Ratio (RSR)バイアス」と呼ばれるもので、特定のキー(主に左手のキー)への負荷が高く、人は本能的に特定のキーの使用を嫌うのではないかという仮説が立てられています。

これは僕も同じで、
筆記具は思考に大きな影響を与えると考えている。
素直な思考のできないQWERTYは、僕にはいらない子である。
いる人には必要でもいいけど、
僕みたいになるべく使いたくない人には、
たかがプログラムで可能なのだから、
代替配列、より合理的な新配列を選べるようになってほしい。

そして今のところ僕のベストは薙刀式で、
誰も作ってくれないから作っただけのことだ。
posted by おおおかとしひこ at 14:47| Comment(2) | カタナ式 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
『Scientific American』1886年3月6日号p.150の記事↑なのですが、これ、Densmore Typewriterじゃなくて、Caligraph No.3だと思います。Densmore Typewriterについては、以前 https://dictionary.sanseido-publ.co.jp/column/wagner07 にちょっとだけ書いておいたので、よければ御覧ください。
Posted by 安岡孝一 at 2020年10月22日 23:36
おお、まさか安岡さんご本人から誤りを指摘して頂けるとは、
大変ありがたいです。

画像検索して出てきたのを貼り付けただけなので、
「ショールズ-レミントンがQWERTY以外の配列の芽を潰したのでは?」
という仮説の援用になるかな、程度に考えていました。

リンク先のデンスモアはQWERTYですね。
でも現代の常識とは異なり、ずいぶんMが右にある印象。
右小指伸ばしがなく右小指下段が違うとこうも変わるのかという感じですね。
自作キーボードの名作Nome30の配置を見た時と同じような、左余りの感覚を感じました。

記事は訂正しておきます。ありがとうございました。

配列同士の効率を議論する時、
比較する配列を同じくらいの練度で打てるのが条件、
というのがキツイですね…。
この配列ではこういう言葉はこのように打ちやすいが、こういう言葉はこのように打ちにくい、
なんて議論をいつかしたいものです…。
Posted by おおおかとしひこ at 2020年10月23日 01:30
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