サリチル酸さんの新作。
JIS系のスタンダードを作ろうとする意欲作。
なんたってFilcoのキーキャップがそのまま使える物理配列だ。
しかしそのままのJISではなく、
自作キーボード特有の、レイヤードキーマップの入り口たらんとする、
野心がうかがえて興味深い。
大体はJIS通り使えますよ、なんて顔をしながらも、
微妙なところはレイヤーを使うように出来ていると思われる。
まずは右シフト。
そもそも右シフトをちゃんと使っている人ってどれくらいいるのかしら。
本来ならば、
左手のキーは右シフト、
右手のキーは左シフトが合理的だが、
JISの右シフトはUSのそれよりも1キー遠くなっていてとても使いづらい。
おそらく左シフトしか使わない人が多いのではないか。
だから軽視される。
よく見ると、App(Menu)キーが当てられている。
このキーも全くキーボード側から使わないキーだ。
マウスの右クリックと同じ機能があるということを知ってる人はどれくらいいるのかしら。
僕は使ったことがない。
何かをハイライトさせるときにマウスを使うことがほとんどだから、
マウスをキーボード側から操作しない限り使わないキーだと思う。
(そしてマウスをキーボードから操作する前提なら、
こんなややこしいところに右クリックは置かずに、
ちゃんとしたところに置くだろう)
で、それをニコイチにしている。
何故かというと、カーソルを近くに置くためである。
右シフトは使わないよね、じゃ小さくしてちょっと詰めてもいいですよね、
という考え方だ。
Appは最下段で、下段のシフトキーとプロファイルが合うことも大きい。
予測だが、このキーは、
ふつうに押せば右シフトキー、
何かのレイヤーキーと押せばAppキーになっていると思われる。
つまり、
「レイヤーキーによって、キーボードは狭く使えるようになる」という、
自キの常識を、微妙に少しずつ織り込んで理解させようというのが、
このキーボードの設計意図だと読み解けるわけだ。
ファンクションキー段がないこともそうだ。
何かのレイヤーキーと数字段を押すと、
その番号に応じたファンクションキーになるというのは、
自キのキーマップでは半ば常識だが、
それは便利だぞ、
近くなってブラインドタッチできるし、
キーボード自体を小さくできるぞ、
ということを初めて触れる人にも理解させようという意図が感じられる。
(ついでに、ファンクションをよく使う人ならば、
よく使うところ、
たとえばレイヤー+中段にしたっていいんだぜ。
あるいはよく使うF2だけJの裏にしてもいいんだ)
カーソル近辺を見てみよう。
DelとPgUpDnしかなく、
HomeとEndとInsは存在しない。
Insはそもそも要らないよね、という主張がある。
いらないキーはなくしてもいいんです、という主張だ。
もしなくて不安ならばレイヤー+Delの裏に入れてもいいんですよ、
という自由度がある。
あるいは、HomeとEndはPgUpDnの裏か、カーソルの裏にあるかもしれない。
左上に目を転じると、全角半角キーはオミットされている。
これも、 レイヤー+Escにしてもいいし、
わざわざスペースを取っている、
無変換変換にIMEオンオフを当てるべきだ、
という主張かもしれない。
そしてクライマックスは親指の白い4キーだ。
本来スペースキーがひとつな所を、4キーもある。
これを自由に使うことが、
自作キーボードにおける楽しみのひとつ、
キーマッピングである、
とフォーカスしているわけだ。
そのうち2つは、RaiseとLowerの二大レイヤーキーに使うとして、
あと2つ。
「単打と押しっぱなしでちがう役割のキー」
を啓蒙するならば、
「単打でスペース、押しっぱなしでシフト」や、
「単打でバックスペース、押しっぱなしでCtrl」
「単打でエンター、押しっぱなしでAlt」
「単打で全角半角、押しっぱなしでレイヤーキー」
などを入れ込んでもいいだろう。
これらを啓蒙しながらも、
大きくはJISキーボードとして使えるレイアウトが、
NKNL_JP(仮)だといっても過言ではないのではないか。
さすが自作キーボード温泉のガイドを自認するだけある。
すばらしい設計思想だ。
簡単でありながら、
気づいたら便利さを体で味わい、
それを知ってしまったら、
もとのしょうもないJISキーボードに戻れなくなってしまうという。
巧妙である。
僕はキーマップガチ勢なのでもはや必要ないが、
キーマッピングを変えた最初は、
「単打でスペース、押しっぱなしでシフト」、
つまりSandS(Space and Shift)だった。
無変換にもCtrlを置いたかな。
そうやって、
操作系に対して合理的な指使いがあり、
現状は合理的ではない、
ということに気づかされたわけだ。
そうした啓蒙的な意味のある、
NKNL_JP(仮)は是非とも入門者にお薦めである。
一個つくると、また別のはどうだろうと、
さらに作りたくなるしね。
2020年10月16日
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