涅槃イエロースイッチは、
Gateron Ink Yellowをベースに僕が改造した、
現在最高の打鍵感のスイッチだ。
個人的にはHHKBを既に上回る気持ちよさだと思っている。
なぜそう思うのか議論したい。
結論から言うと、
「様々な打鍵を、三重バネ相当が対応する」からだ。
色々な観察結果から、
自分の打鍵は一定していないことが分かった。
日常生活の力の使い方から書き物に入るときは、
どうも強めに打つ傾向が強い。
日常で使う力が、たとえば30gの押下圧よりも高いためだ。
ドアを開けるとか椅子を引くとか、
それだけでもキーボードの打鍵よりも強い力を使う。
だから、その力でまず打ってしまう。
だから底打ち上等になる。
押下圧が弱いスイッチだと、ここで底打ちをして不快だ。
底打ちでダメージがたまる。
一日の半ばを過ぎ、キーに慣れてくると、
横の力の方が、上下の力より強くなる。
撫で打ちだ。
こうなると底打ちは殆どしなくなる。
アクチュエーションギリギリでスイッチは止まり、
滑るように次のキーへ指は渡る。
だが、全打鍵がこうはならない。
大事な言葉の語頭、文頭、文節頭など、
「打鍵シークエンスの打ち始め」は、
強く底打ちする癖がある。
ダン、タラララララ、みたいな感じか。
思考をしているときは指が止まっている
(書きながら考えていることも多いが、
書く速度で常に考えられるとは限らないので、
指が時々止まる)ので、
そこから指を始動するには、
車の回し始めのような大きめのエネルギーが必要で、
あとは惰性で回るので、
語頭に強い力が必要なのだと想像される。
こうした、大きくは三種類の打鍵に、
キースイッチは全て心地よくならなければならない。
1. 全打鍵底打ち
2. 語頭は底打ちで、あとは滑るように打つ
3. ずっと滑るように打つ
単純にリニアで押下圧を低くしたスイッチ(20gくらい)では、
3は爽快だが、2でやや不満、1は対応不可である。
単純にリニアで重いスイッチ(黒軸など65gぐらい)では、
1は良いが、23は心許ない。そして疲れる。
今の自作キーボードの流れだと、
リニアで重め(60g前後)で、底打ちを爽快な音をさせる(Ink系)か、
同じく底打ちをタクタイルで打った感を出す、
あたりが流行りかな。
でも僕は静かに打ちたいし、
2や3の状態をキープしたいので重いのはいやだ。
だが単純に軽くすると…というジレンマがある。
これに、涅槃イエローは、実質三重のバネで答える。
リニアバネの20〜35g(指によって異なる)が、
3の撫で打ち時の押下圧。
底打ちは硬めのEVAがあり、1に対応する。
どんなにガツッと打ってもスンってなる。
EVAの上にシリコンゲルがあり、
それが2を保証する。
EVAのみだと、2が硬過ぎて疲れるのだ。
理想は2と3を行き来するクルージング状態だが、
これに入るには1の適応期がある程度必要。
この、どの状態にも対応できるのが、
金属バネ、シリコン樹脂、発泡樹脂、
という三層のダンパーによって得られたわけだ。
1だと硬めだがしっかり返してくるゴムっぽさ。
3だとするする行ける軽量バネ。
2だと柔らかく返してからするすると行く感じ。
とくに2の感じが良くて、
よく考えると、
万年筆のペンと似た感覚だと思った。
つまり紙にペンをつけるときだけ強く、
あとはサラサラいく感じ。
ほんとはこれをゴムやシリコンではなく、
万年筆のように金属バネっぽく行きたいのだがね。
(だから板バネのキースイッチに今は興味がある)
キーボードはデジタル入力装置だが、
私たちの肉体も、操作も、調子もアナログである。
キーボードがデジタル的でいい理由はひとつもない。
ピアノは音色をコントロールするためにアナログ装置であるが、
僕が書く言葉そのものが、デジタルでないから、
キーボードはアナログ的に入力できるのがベストだと思われる。
涅槃イエローがエンドゲームになるかは、
耐久的に使ってみないとわからない。
しかしそこに至る分析を経たことで、
ただのリニアバネや、ただのタクタイルでは、
用途に対して対応しきれていないことがわかった。
HHKBやリアフォの打鍵感は、
ラバードームの凹みと戻りによって支えられている。
非線形な変形性質がいいのだろう。
ポコンって感じになるやつがね。
でもこれも一種類しか挙動がない、デジタル的な返しだ。
色んな力でもうまく行けるような、
万年筆のような性質のキースイッチが理想かもしれない。
一定の反応しかしない機械に対して、
人間が合わせてきたのがタイピング技術だとすると、
僕はそれはおかしいと思う。
人間の方に機械が合わせることに、
技術は使われるべきだ。
人は打鍵力が一定していない。それに合うキーボードを。
2020年10月18日
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