2020年10月23日

初心者の勘違いの凝縮

を見れて大変興味深かった。

ニートだけどラノベ作家になって人生逆転しようと思う。良い小説のアイデアを教えてくれ。
http://burusoku-vip.com/archives/1966718.html


どこが勘違いか、ひとつずつ指摘してみる。

・アイデアさえあればヒットする
・アイデアさえあれば書けそうな気がする
・過去の名作を洗っていない
・「○○で○○」は「○○じゃねーかそれ」とすぐ言える
・売れそうならなんでもいい、専門知識がいりそうなやつは避けたい
・三人よれば文殊の知恵
・ガチの天才を例に出されても困る
・○○なジャンルは○○をピークにだだ下がりしているから、そこを掘ってもダメ
・アイデアで一発逆転したい


さて、真実を教えてあげよう。

・アイデアさえあればヒットする

ヒットしたものはすべからくアイデアにオリジナリティがあるものだ。
だからアイデアが根本的になければならない、
ということはただしい。
だが注意したいのは、
「アイデアさえあればよく、他は一切いらない」というわけではないことだ。
そのアイデアを元にした設定、
そのアイデアを元にした世界観、
そのアイデアを元にしたキャラクター、
そのアイデアを元にした動機、
そのアイデアを元にした行動、
そのアイデアを元にしたプロット、
そのアイデアを元にした伏線と解消、
そのアイデアを元にしたセンタークエスチョンとテーマ、
そして、あらゆる場面の、
美しさや驚きや笑いや感動や忘れられない感情などが、
アイデアの上にすべて乗っかってヒット作になる。

これらのうち、アイデアだけがない作品はクソだ。
しかしアイデアだけの作品も同じくクソだ。

アイデアは全てに先行する土台だが、
その上に積み上げられたタワーこそが作品だ。


・アイデアさえあれば書けそうな気がする

一度でもそれをやったことのある人だけがその言葉を言う資格がある。
「あの時絶対あの子とやれたわ」と言ってるモテない男と同じだ。
そして、アイデアから出発して作品を書いたことのある人ほど、
「アイデアがあったとしても、それを生かし切った作品を作ることの困難さ」
について語るはずだ。
ではなぜ「アイデアが一番大事」と作家たちは言うのか?
それを得ることが最も困難なことがひとつ。
そしてもうひとつは、そういうと読者が喜ぶからだ。
「俺も出来るかも」と。
そうするとその創作法は金になる。
自己啓発本と同じ仕組みである。

僕はここで金にならないほんとうの創作論を展開しているが、
ほんとのことしか言わない。すげえしんどいし、王道はない。


・過去の名作を洗っていない

言語道断。全ての作品と並べられた時、一番面白いものがヒットする。


・「○○で○○」は「○○じゃねーかそれ」とすぐ言える

じゃあ自分のものもそういうアイデアを出せばいいじゃない?
それを今日100個出して、全部×をつけて、
明日も100個出して…
のループを一ヶ月くらいやるのがプロのアイデアだしだぞ。


・売れそうならなんでもいい、専門知識がいりそうなやつは避けたい

「売れそう」なものは、過去からの予測に過ぎない。
そしてヒットするものは必ず「予想しなかったところから来たもの」だ。
つまり予測は当たった試しがない。

また、ヒットするものは必ず
「そのジャンルにおいて一番詳しいやつ」だ。
「のだめカンタービレ」のヒットの裏には、
「誰も音大のことを詳しく知らなかった」があるぞ。
つまり、あまり知られていないところの専門知識を、
今から三年かけて勉強してもいいんだ。外れたら知らん。


・三人よれば文殊の知恵

複数でものづくりをすればすぐわかることだが、
すぐに揉める。
アイデアや実装というのは、ひとつの原理に貫かれているべきだが、
複数で作ると複数の原理が入り混じり、
矛盾や妥協が見えてしまう。

複数のライターで書かれた実写版「進撃の巨人」をみて反省すると良い。


・ガチの天才を例に出されても困る

ガチの天才とあなたの作品は並び、
そしてそれよりもあなたの作品が選ばれなければヒットしない。


・○○なジャンルは○○をピークにだだ下がりしているから、そこを掘ってもダメ

それは○○ジャンルをそれだけの人が考えた、という過去だ。
あなたが○○ジャンルに新風を吹き込まない理由はない。

そもそもジャンルでヒットが決まるなら、
アイデアなどいらないではないか。


・アイデアで一発逆転したい

一発逆転するには、地味で辛い、ひとつひとつの実装が待っている。
アイデア料だけで他人に売る企画屋をやる手もあるがね。
一発逆転したものは、
アイデアとそれを生かしたフィニッシュまで、
きちんと出来ていたものだけだ。

アイデアだけならば、
「震災復興五輪」はとてもいいアイデアだが、
その実装はお粗末中抜き五輪だとバレてしまったではないか。
福島の産業を起こし、震災前の景気に戻す実装であれば、
アイデアで一発逆転しただろう。



根底にあるのは、
「アイデア一発のコストで、
楽して最大のリターンを得たい」
という怠け心である。

我々は血と汗と涙を流しながらアイデアを絞り出し、
命を削りながら一行一行埋めて行っている。
行き詰まればごろごろし、散歩し、風呂に入り、寝て、
それでもアイデアが出なければ泣きながら走る。
それでも出なくて鬱になるまでやる。
それがリアルなところだ。

そこまでして語りたい物語がない者は、
たぶん最後までたどり着けない。
それくらい苦しい。

でも何故書くんだ?
書き終えた時の喜びが、それまでの苦労の何倍も満足するからだな。

その、
書いててたまらなく楽しい、
たまらなく面白いこの物語を語りたい、
が、物語には必要だ。

楽して儲からねえかな、はすぐばれるし、
そんな奴の言うことを聞くために立ち止まる奴はいない。



第一、他人からアイデアを貰おうなんて、
アイデアがどれだけ思いつくのが難しいか知らない奴の、
舐めてるセリフである。

一度でもきちんとしたアイデアを出したことのある奴なら、
他人に譲ることなんて絶対にしない。

ガン無視ならまだしも、
「アイデアの形になりそうで実装できないタイプのものを渡して、
親切な人だと思われつつ、それが最終形にならなかったらお前の才能がないだけ」
という、自分上げ他人下げをやる奴もいる世界だぞ。



で、一番怖いのは、
この怠け心が作品に反映してしまうことだ。
本人と作品内が分離していれば問題ないが、
作品内のキャラクターたちも、
「なんか都合良く苦労せずに一発逆転したいな」と思っていることが、
とても良くある。
それは、容易にご都合主義、メアリースーを生むだろう。
「人が苦労して命をかけてギリギリのところで成功を掴む」
という物語の面白いところを描けない可能性が、
とても高い。
posted by おおおかとしひこ at 15:13| Comment(0) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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