2020年10月24日

【薙刀式】打鍵姿勢の歴史

安岡さんの記事をひたすら読んでいる。おもしろい。
https://dictionary.sanseido-publ.co.jp/columncat/薀蓄/タイプライター
に目次があるのでどうぞ。

まだ最初の方なのだが、初期の打鍵姿勢が記録されていたので議論したい。


ほぼ最初期のもの。ほぼピアノだ。
イラストレーターの腕によるのだが、
形も打鍵姿勢もピアノと同じ考え方だと推定される。
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つまり、
・前腕は水平
・キーボード面はそれより下
・手首は起こさない(猫の手、おばけの手)
・接触箇所は指先で、腹ではない
・もちろん手首は浮かす(つけるべき机はない)
だ。
垂直にある程度力を加えないと打てないから、
ピアノ的な打鍵法と同じと想像される。

(ちなみにピアノは55g前後に調整されていて、
これが多くの、文字を打つ方のキーボードの標準とされる。
僕はこれは重すぎると思う。
文字を打つのに力はいらないんだから、10でもいいだろと。
ただし10だと底打ちの衝撃の吸収が難しく、
ダメージを得ることは間違いない。
なので僕は今、始動30程度で底打ちの衝撃を吸収するスイッチをつくった)

もう少しコンパクトにして、
新聞記者がこれを持って現場にいくべきだ、
と考えたショールズによるものがこれ。
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肘よりもキーボード面が高い。
しかし手首はつけず、浮かしたまま打っただろう。
だがこれは疲れるのではないかと想像する。
手を上げ続けるのは結構つらいからね。

想像だけど、
電信用として開発が進んだ歴史を持つタイプライターは、
たとえば小説のような何万字もの使用を想定していなかったのではないか?
新聞記事だから、日本語でも数千字レベル。
(このブログの一記事くらい)

となると、この打鍵姿勢で打てる文字数はそのへんが限界で、
まあだったらこんなんでもええか、というくらいだ。

これも想像だが、
ショールズ本人は、毎日タイピングで何千字何万字を、
生産していなかったのではないか?
ある程度テストのために打つことくらいはしてただろうが、
「これは何万字も打つための道具じゃないぞ」と、
気づいていなかったと思われる。

もっとも、タイピングで何万字も打つのは、
作家レベルに限られるので、
その意味で「作家用のタイプライター」などは、
そもそもタイプライターの想定用途外だったといえよう。

しかるに現代の日本人の作家は、
そんな想定外の道具で書くことを実質強制されていて、
それはおかしいやろと言うために僕は活動し、
代替するキーボードと配列を作っているわけだ。


初期のタイプライターの打鍵姿勢を見るだけで、
たいした文章の量は生成できないことがわかる。
(日本でワープロが導入された時も、
作家たちが猛烈に文体の変容について抗議した。
アメリカ文学界でのそのことは知らないが、
どうだったんだろう。多くの人は口述筆記だったのかしら)


また、ショールズの使用している机を見ても、
撮影用に丁度いい大きさのものを用意したのかも知れないが、
食事用の、やや低めの机だと想像される。

手で書き物をするための机はこれより高い。
(そしてJIS基準の机、オフィスで採用されている机はこの高さのため、
キーボード作業に向いていない!)

また、近代のタイプライター専用の机はこれより低い。
ピアノと同様、前腕水平位置になる高さだ。

これは勿論初期だから、
机と椅子から作らないと、
タイプライター本来の力を発揮できないことに、
まだ気づいていなかったのかもしれない。

(あるいはショールズ本人は気づいていたが、
撮影のカメラマンが絵映えを意識してこう撮影しただけかもしれない。
撮影者の無意識が写真にはうつる)



たとえばポメラは、
打鍵姿勢が異常に苦しいのだが、
「これで本格的に書くのではなく、
あくまでサブマシンとしてのモビリティ」
用の道具である。
それを理解すれば使える道具ではあるが、
所詮はQWERTYと親指シフトしか使えない不便な道具なので、
僕は薙刀式の使える最高のモバイル執筆器が欲しかった。

机と椅子を専用のものを作る、
という発想までいっとき行ったけど、
それじゃ自宅を出れなくなるので、
「カフェにある標準的な机と椅子」環境で最高のパフォーマンスを出すことに、
現在は方向を修正している。
勿論手首はつけて、数時間は続けて作業するイメージだ。


少なくとも、
この初期の打鍵姿勢は、
それほど多くのパフォーマンスを出さなかっただろう。
ただし印刷品質という凄さが、
それらの欠点を全て覆ったに違いない。

だからこそそれゆえに、
「書く者の肉体の酷使(手書きよりも)」を宿命づけられていたことが、
この写真から読み取れる。


つまり僕がキーボードで不満に思い、
この三年ほどキーボードを本気で改良してきたことの、
全てがこの写真に詰まっていて、
僕はむしろ感動してしまったのだ。
お前か、俺を苦しめていたのは、と、犯人がわかった感じだ。

つまり僕は、ショールズ以前に戻らないと、
執筆活動ができないのだ。

(ちなみに僕の打鍵姿勢は、手書きにとても近い運動形式だ。
・机に手首をつける(気分ですり足程度に浮かす。そのときは前腕の下を机のヘリにつける)
・撫で打ち。垂直に力を入れず、机面方向に滑らせてスイッチをオンにする。
 手書きのペンのような手の動かし方。
・常にキーに触れているわけではない。打鍵時は浮かし、考えるときは置いているようだ。
・座り方は、姿勢の良いときと、ずりずりと浅く座って腕を水平前に突き出すときがある)
posted by おおおかとしひこ at 18:22| Comment(2) | カタナ式 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
レッスン動画としてこちらがあります。
https://www.youtube.com/watch?v=H1e4BC41wRU
椅子・姿勢・手の形・叩き方まで説明しているし、手元をいろんな角度から撮影していて、24か30コマはありそうで十分なコマ数です。具体的にどういった指のトレーニングを行うのかもデモンストレーションしています。英語自動字幕の精度が高ければ、自分で翻訳して内容を把握することもできるかもしれません。

ちなみにYouTubeを、タイプライターではなくtypewriterで検索すれば白黒時代の動画も含めていくつか見れます。

大会の動画を見ましたが、肘から先と手首のしなりなどを駆使して"重さ"を利用しているように見えます。

当時のイラスト、または綺麗な写真だったとしても、想像の範疇を超えられない(しかも現代のタイピングの常識に引っ張られる)ので、英語圏の動画を観察したほうがいいんじゃないでしょうか。
Posted by パソ活 at 2020年10月24日 23:15
>パソ活さん

非常に参考になりました。
段で坂になっているから多少前腕が上り坂になってはいるものの、
僕の理解するピアノとほぼ同じ打鍵法でした。
リズムもアルペジオなど使わず、等分で打っていく感じでしたね。
しかし女性といえど外人の女は手がでかくて丈夫そうだなあ。
興味深かったのは、段を変えるときに肘で調整していること。
高さの違う段用の動きなのかな。

僕の到達している打鍵法は、ピアノ〜タイプライター〜パンタグラフ出現以前のタイピングの歴史にない打鍵法の可能性が出てきたなあ。

僕の打鍵法は、
タイプライター用に比べれば高い面の日本の事務机で、
日本のペン書きと似た手の使い方(手首をつけ、横に動かす)で、
MacのMagic Keyboardで、
長い文を打つのに最適化された打ち方のような気がして来ました。
つまり自分のやろうとしていることは、
歴史的な延長の意味での「タイピング」ではないのかもしれないです。

あと丁度安岡さんのDvorakさんの所を読んでたので、
これDvorakの監修した海軍のフィルムやん、と気づけました。

僕がこれから考えるべきことは、
じゃあ日本語の長文を書くのにどんな動きがベストなのか、
ということでしかないので、
少なくともタイプライターの動きではないことが確認できただけで、
随分スッキリしました。
Posted by おおおかとしひこ at 2020年10月24日 23:52
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