「賢者の贈り物」のレッスン２

次に、表現をいろいろ変える訓練をしてみよう。
題材を、オリジナルストーリーでまずはやってみること。

１　ナレーション、タイトルありで、普通に脚本化してみよう
２　ナレーション、タイトル抜きで、脚本化してみよう
３　ナレーション、タイトル、台詞抜きで、
　　つまり完全なサイレントで脚本化してみよう
　（ただし音楽は表情豊かなものが適宜流れるとする）


オリジナルストーリーでいうと、
「クリスマスが近くなったころ、
夫婦は互いにプレゼントを贈ろうとした」
をナレーションで言う事は簡単だが、
台詞劇だけでやることは難しい。

クリスマスは街の風景などで示せるか。

夫婦は互いにサプライズをしようとしているわけだから、
お互いにプレゼントを用意していることや、
何を上げようか考えていることは、
「他の登場人物に言う」ことでしかわからないよね。

独り言はなるべくやめよう。
ふつうのショートフィルムだと思ってやってみることだ。


「大事な金の時計」を示すことは案外難しい。
「美しい長い髪」は、それとなく示すことが可能だ。
オープニングで妻が長い美しい髪を漉いていればいいが、
しかしそれでは印象に残らないから、
夫が梳ってあげるシーンなどから始めてもいいかもしれないね。

二人は愛し合っているという設定のラブラブで始めてもいいし、
冷えているからこそ、
二人ともプレゼントを思いついたという話でもよい。
（後者のほうが動機が強くなるだろう。前者のほうが美しい話になるだろう）


櫛を買うときに、妻へのプレゼントであり、
大切な金時計を質に入れたことを、
店員に語ることは可能だろう。
妻も同様に、毛を買い取る商人に、
大事な夫の金時計のバンドを買うのです、
なんて世間話をしてもいいだろう。


難しいのはサイレントだ。
これを示すことはたいへんむずかしい。
表情だけから探ることはできないので、
思い悩んだり、
売ろうとするけどやっぱりやめるとか、
そういうことで大事なことを示すしかない。
わずかな動作や行動で、
心理を示す勉強になるだろう。

ネタバラシのところはどうだろう。
お互い相手の大事なもののために、
自分の大事なものを売ってきた、
ということを、夫婦はどうやって知る？
的確に台詞で短く説明できるかな？

あるいは、台詞無しだとどうか？
お互いの行動が相手への最大の行動だったということを、
お互いにどう知る？
結構難易度が高いぞ。

（アニメーションなら、吹き出しの中に回想を入れて説明したりするよね）

また、ナレーションで、
「もっとも愚かな行為はもっとも賢明な行為であったのだ」
をいう事は簡単だが、
これと同じことをナレーションやタイトル無しでは言えない。
これをそのまま示すことはできないが、
なんにせよ、
話をまとめるためのラストシーンは必要だろう。
ただ驚いた、良かったね、というだけではまとまりが足りないと思う。
これは工夫のしどころだろう。


今回も特に正解はない。
自分でやってみることで、
台詞にどういう機能があり、どういうことはできないのか、
ト書きでどういうことができて、どういうことはできないのか、
ナレーションでどういうことができて、無しだとどう困るのか、
などの範囲を感覚として理解することが目的である。



で、最後に、
どれを使ってもいいから、
最高と思える脚本を書いてみなさい。

前よりは的確に、
ナレーションや台詞や行動やしぐさを使えるようになっているだろう。

基本は、
台詞がなくて済むならば行動や仕草や位置関係だけで示す。
ナレーションが必要でないならば使わないほうがよい。
台詞を使うのは、どうしても必要なもののみ。

ということが分ると、
それぞれをどう使い分けられるのか、
あるいは自分がどう使い分けられるのか、
ということを理解できるだろう。


もちろん長編でやってみるのが一番勉強になるが、
短編でこうしていろんなバージョンをつくることは、
手軽にできる回数をこなすテクニックだ。

ほかの短編でやってみてもいいぞ。
泣いた赤鬼とか。
何かテーマがあるものがやりやすい。
浦島とか桃太郎はテーマがない説話なので、
物語として扱うには不十分だ。



で、最後の仕上げ。
それと同じことを、レッスン１でやった、
自分のストーリーで脚本化してみなさい。
ナレーションあり、
ナレーションなし台詞あり、
台詞一切なしのサイレント。
どのバージョンが一番面白いか考察してみよう。