エヴァがなぜわかりにくい話なのか、ようやくスッキリした。
目的がふたつあり、それが関係ないからだ。
ストーリーにおいて、それは一本の話であることが期待される。
あらゆる細々したエピソードは、大きな一つの目的で進行する話の一部であり、
メインプロットに集約されていくものであると。
ところがエヴァには、混ざり合わない二つの話が存在する。
だから分かりづらく、それが欠点なのだと。
つまりそれは、シナリオ上の欠点である。
エヴァンゲリオンがどういうアニメなのか簡単に説明する
http://world-fusigi.net/archives/9698143.html?ref=category229179_article_footer3_slider_&id=4572183
が非常にわかりやすく構造を示してくれていて、
長年の疑問がスッキリした。
エヴァは、キャラクター、デザイン、設定などのガワに非常に魅力があり、
音楽もよく、巨人対怪獣のワクワク感もある。
つまり全てガワの魅力である。
ところが肝心のストーリーがわかりづらい。
謎めいていてそれを解いていく過程をも楽しむものだが、
その構造がよくわからない。
(二転三転させる面白さを狙っているのはわかるが、
支離滅裂一歩手前である)
つまり、話が2本存在するのだ。
1. 人類と使徒の戦い(これがメインプロットのように見せかける)
2. 人類補完計画(真の目的)
2が人類の目的ならば、2だけでええやんけ。
1が仮の目的、
つまり、
「ヒーローロボットもののよくある構造」というメタ文脈、
(スポンサーを騙して2をやりたいがためにでっち上げたもの)
とややこしい形をしていることが、
最大の問題だと思う。
つまり、
1の使徒対人類の話だな、
その為にエヴァという決戦兵器で戦うのか、
という話は、
途中でどこかへ行ってしまう。
人類が使徒を倒しましたーやったーなのか、
人類は先住民使徒に滅ぼされましたー自業自得ーなのか、
人類と使徒は共存しましたーハッピーなのか、
人類と使徒が交わり第三の種になりましたー神の予測を超えたねーなのか、
どういうエンドであってもいいのだが、
それがメインプロットの結末だろう。
ところが2の人類補完計画という、
別の目的が突然出てきてしまい、
その結末を追うことになる。
人類は一つに溶け合うのだー幸せーなのか、
自我を持ち憎しみあいながら生きていく種族なのさー皮肉ーなのか、
自我を保ちつつ、愛する人とは溶け合うのさー気持ちいいーなのか、
そこもどういう結論でもいいのだが、
その結末を追う。
そこで使徒との戦いは忘れられて背景の巨人バトルになってしまう。
1と2がまるで違う話ならば、
「別々の話やんけ!」と批判すれば済む話なのだが、
2に1の一部を利用している。
(エヴァ、カヲル、リリスなど)
ここで、1と2が融合しかかっているように思えるが、
融合しきっていない。
2の目的の結末と、1の目的の結末が、
別々に存在してしまっている。
ここがシナリオ上の最大の欠点だ。
これを修復しないまま、20年もやってやがるのだ。
たしかにキャラや設定は20年持った。
しかしストーリーは誰も愛していない。
かつて謎がすべて解かれることを期待したストーリーは、
いまだ全貌が見えず、
あまつさえ別の世界線という3を持ってきた。
1と2と3の統合的結末を果たさないと、
真の完結にはならず、
僕はそれを満たすことは不可能だと予想する。
(なぜなら自分で考えても、
「すごくおもしろい」完結法がないからだ)
ということで、
シナリオには「ひとつの目的を果たす」
というメインプロットがひとつだけあるべきだ。
行動や動機ややり方はバラバラでいい。
途中で全く変わってしまっても、
「その一つを追い続けている」
ように見えれば、
「はじまりから終わりまで、一つの話である」
ように見える。
だから、シナリオの教科書には、
「二つ以上の目的はタブー」なのだ。
エヴァみたいになるぞという警告なのである。
庵野は、キャラクターや設定や空気や、謎めいた感じ、
というガワの表現者であり、
「それがどんな意味をなすのか」
「いったいぜんたいなんだったのか」
「スッキリした壮大な話」
を描くストーリーテラーではない。
「ラブ&ポップ」「式日」「シンゴジラ」どれをとっても、そのような作家性であることは明白だ。
シナリオライターがそれらを管理すれば問題ないのだが、
そうした人がいなかったことが、
エヴァというグロ迷路を発生させた原因である。
おそらくこうした複雑化したものは、
生命のように、
端から死んでいき、核だけが残る。
そのとき、二つの問題は放置され、
シンジとアスカとレイの三角関係(決着のつかないガワ)
に戻っておしまいになると、
僕は予想する。
幻魔大戦もそのようにしてしか完結できなかった。
作者の老いで、伸びた伏線は全部枯れた。
ここは脚本を論じる場なので、
シナリオライター諸君は、
このような悪い例を参考にするべきではない。
ガワは商売になる。その悪例を作ってしまったことは、
全世界の作家を敵に回した詐欺師のやり口である。
脚本家の仕事は、
ひとつの目的を追い、ひとつの結末にたどり着かせ、
それが非常に意義のある冒険であったことを、
納得させるだけの一本のストーリーを提供することだ。
複数の目的を追わせ、関係性がわからぬままぐちゃぐちゃにして、
どれも中途半端にしかならず、
分からない人を混乱させ、考察を多数発生させて、
「わからない君の方がわるいんだ」と脅迫することではない。
僕は、転校してきた勇気のないシンジ君が、
アスカとレイの三角関係に悩まされて、
最終的に成長して逃げなくなり、父母を乗り越えて、
侵略者使徒を倒し、地球に平和をもたらし、
レイまたはアスカと結婚する、
第一のメインプロットであるところの、
ヒーローロボットもののストーリーが見たかった。
「それじゃ詰まらないから人類補完計画という、
第二の目的」が発生したことがエヴァの魅力ではあったが、
同時に第一のストーリーを侵食した、
暴走する癌だったのだ。
新劇版は完結したら見る。
たぶん複数の目的は統合的完結を迎えないと予言する。
皮肉にしかものごとを終わらせられないならば、
シンジは父ゲンドウのように、
二人の女に手を出して一夫多妻を築いて終わりにするのではないか。
2020年10月30日
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