2020年11月02日

全部のシーンが面白くなるわけではない

これは肝に銘じておくべきことだ。


仮に、全シーンが全部面白い、
神のようなストーリーがあったとしよう。

たぶん呼吸が止まると思う。
見る側がついていけない。

漫画や小説なら可能かも知れないが、
映画は止めずに連続してみるものだけに、
緊張と緩和をとうとぶ。

緊張が面白いところ、
緩和が息を抜くところだ。

音楽がなぜ全部サビではないか?とか、
フルコースがなぜ全部ステーキではないか?とかと、
同じ問いである。

通し時間軸を持つものは、
「途中で飽きる」が存在して、
「途中で息が詰まる」が存在する。

だから、緩和、息抜き、リラックス、目先を変える、
などが必要なのだ。

つまり、極端に考えると、
面白いところは半分でいい。
残り半分は、緩和の部分だ。

半分は詰まらなくていいんだ。
詰まらないというと極論だけど、
「ものすごくギリギリまで面白いところ以外のところ」
と考えるといいかもしれない。

人間はビートを刻んで生きている。
ドン、から次のドン、まで間が開く。
その間はドンでなくていい。
ドンと間こそが、生きるということさ。


だから、間の部分は間の部分なりに、
緊張をほぐしてもらわなければならない。
リラックスするシーンや、コメディリリーフが多いのは、
それを意図したものなのだ。

もちろん、それはそれで面白くあるべきだ。
ただ、本来の面白さ(=メインプロットの方向性)ではない、
別の方向性を持つということだ。

ソフトクリームにおけるウエハースの効果である。
アイス100%だと頭がキーンってなるよな、って話だ。
アイスだと食べるのを止めればいいが、
映画は止まらないだけの話だ。


で、飽きる時間帯より早く全体を終わらせられれば、
面白いシーンのまま駆け抜けられるだろうが、
2時間はそれより長いという話だ。

短編なら書けるが長編は難しいという経験則は、
この緊張と緩和の全体計算ができているか、
ということでもある。

短編なら10分そこらでアイスだけ食べて、
頭が痛くなる前に終われるわけだ。

だが長編はウエハースを置かなければならない。
そこから次のアイスへと興味を持続転換させなければならない。
最初うまい食いつきに成功したとしても、
次のヤマへの誘導を失敗すれば、
そこで転落するわけだ。


おそらく長編を書けない人は、
この配分を間違えている。

名作を見て、そのリズムを学ぶことだ。

ツカミからどう一旦解放して、
どこで再び緊張へと流れていくか、
その分数は、
なんてものを見ていくと、それを学ぶことができる。
大体生理的なリズムになっているはずだ。

(逆に、生理的なリズムになるように、
内容を膨らましたりカットしたりするのだ。
よくある誤りは、第一ターニングポイントが遅すぎることだ)


執筆のスケジュールで、それをある程度コントロールすることもできる。
「緩和から緊張」で一日、
「緊張から緩和」で一日、
などのように、一日の区切りを作ると良い。
「緊張の途中で作業をやめる」と、
そこは緊張を持続出来なくなるだろう。

逆に、デカイヤマのときは、緊張感が途切れないように、
ガッツリ頭から尻まで書いたほうがいいと思うよ。
20分程度までは一日で書ける量だから、
観客の集中力の限界15分よりは長い。
逆にそれ以上長いのは、どこかで緩和を挟むべきだろうね。


おそらく、書く側は、
緊張の部分は一気に書ける。
難しいのは、「緩和から緊張」のパートだ。
だらだらになってしまうことが多く、
次の緊張をどうやって発生させるか、
どうやってそこまで繋げばいいのか、
わからなくなってしまうことがとても多い。

そういう時は、書くペースを落とそう。
何日もかけて、たかが数分ぶんを書いたっていいのだ。
「一日15分ぶんずつ書くと、8日で脚本が書けるぞ!」
なんて妄想するものだが、
絶対にそうはいかない。
緩和のパート3分に3日かかることだってよくあるからね。

デートで女子を笑わせ続けることが難しいように、
緩和のパートは間をどうやってもたせるか、
案外難しい。

簡単なパートを書いてるのではないぞ、と気を引き締めていけば問題ないが、
「うまく書けないよう、冒頭はあんなに簡単にするすると書けたのに、
俺には才能がないのか」と嘆くのはまだ早いのだ。


全体が均一で一定の面白いストーリーなどない。
それは、「面白い」の種類がたくさんあるからだ。

色んな方向のバラエティで持たせていくのが、
現実の脚本である。

「今こっち方向の面白さを書いていて、
プロット上はあと3分で元の面白さに接続するぞ」
などと自覚していないと、
とてもその3分のパートを振り切って面白く出来ないだろうね。
posted by おおおかとしひこ at 11:30| Comment(0) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。