2020年12月13日

お話は、困ったことが起こらなくてはならない

ストーリーとは問題の解決である。
そして、困らないとストーリーにならない。


何も問題が起こらないのはストーリーではない。
「今日は何も起こらなかった」はストーリーではない。
日常系ですら、舞台が日常系なだけで問題は起こる。

解決のないものもストーリーとは言えない。
犯人が捕まらないバッドエンド、「ゾディアック」は最低だ。

バッドエンドは、じゃあどうすれば解決できるのか、
を提示できていない意味で、閉じていない。

開いたものは閉じるべきである。
微妙な解決よりも、鮮やかで見事で爽快な解決を、
人は求めている。


問題が起こったとき、
主人公は困らなくてはならない。
逆に、問題とは困ることである。

スーパーヒーローにとっては、
泥棒一人捕まえることは困りもしないだろう。
しかし我々一般人が泥棒にやられたら大変困る。
我々にとっては簡単な買い物も、
子供のはじめてのおつかいは大冒険だろう。
女を食っては捨ててきたやりちんですら、
ほんとうの恋を初めてしたら、とても困るだろう。

どういう困り方でもいい。
簡単に解決するものは問題ではない。
ググったら解決したり、
誰かに解決してもらったり、
新発売の商品を買えば解決することは問題ではない。
主人公がすぐには解決できず、
困って、初めてストーリーが始まるのだ。

困ったらどうするだろう。
誰かに助けを求めるだろうか。
誰かに聞きに行くだろうか。
調べるだろうか。
やりかたが分かっても非常に困難なものだったら、
それでもやるだろうか。
予想される困難さ(冒険)と、
今困っているのを天秤にかけて、
冒険に出かけることになるだろう。

人は困らなければストーリーを始めない。
つまり動機の最初は、「困った」である。

たいていは逃げる。
なかったことにする。隠蔽する。
なくても困らないやと強がる。
無視して生きていく。
それでも締め切りが近づいたり、
強制的にそうさせられたりして、
逃げ場がなくなったとき、
人は困ったことを、解決する必要に迫られる。
困らないことなら解決できても、
困ったことは解決できない。

だから、ストーリーになるのだ。

困らない問題を与えてもストーリーにはならない。
解決できない問題はストーリーにはならない。

ストーリーとは、
困った問題を、自力で解決するまでの顛末のことをいう。


なぜ困ったことなのか?
なぜそれを解決しようと思うのか?
あるいは、解決せざるを得ないのか?
それはなぜどうやって解決されるのか?
そこまではどういう経緯があるのか?
どういうことをクリアしないとたどり着けないのだろうか?

一筋縄ではいかない、曲がりくねった道を、
主人公は進まなくてはならない。
困っているからである。


主人公以外はどうだろう?
他に困っている人もいるだろうか?
困った人同士、協力できないか?
困り方が正反対ならば、相手をやっつければこっちは解決するだろうか?
呉越同舟でも、大きな困ったことを解決できるならばそれも良しか?

全員が困っていて、
全員がそれぞれを解決しようと進んでいる。
それらはぶつかり合い、交わりあい、利用しあい、
競合しあい、妨害しあい、展開して、
最終的な大解決へと至る。
それがストーリーである。

そして、その中で一番困っていて、
それらを大解決させた人のことを、
俯瞰して主人公と呼ぶ。


たとえば、
パソコンが壊れて困っているAが、
Bに相談して、Bが苦労の末に修理して、直ったとしよう。
これはストーリーではない。
一番困っているAは何もしていない。問題の解決の主役ではない。
修理したBは、困った末に解決したわけではなく、
自分のスキルを使っただけで、困ったわけではない。
ちょっと苦労しただけのことである。
よくあるこのようなことは、
よかったよかったというハッピーエンドであるが、
ストーリーではない。


困っているのは主観である。
一番の立役者は、客観である。
主人公は、両方で深く、影響力がなくてはならない。

「あいつが、一番解決するのにふさわしかった。
だってあいつが一番困っていたんだもの」
となるべきだ。

つまり、壊れたパソコンで一番困ったAが、
第三のOSを発明しなければ、上のものはストーリーにはならない。
パソコンが壊れて困ることが冒頭に来ない理由はこれだ。


お話とは、困ったことからはじまる。

そして最終的には、
困る前より幸せになることを言う。
posted by おおおかとしひこ at 00:04| Comment(0) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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